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第十六話 猫の目

今日もギリギリ間に合いました。明日も更新します。

 結局、私は風邪から回復するまで五日かかってしまった。

 熱を出した翌々日は動けるようになったものの、父とタチアナが心配するので、派手に動き回るわけにはいかなかったのである。

 ついでに、シモン皇子から送り込まれた影——クララの目もある。シモン皇子の狙いが分かるまでは、目立つ動きは避けなければならなかった。クララは屋敷の薬品管理の仕事も任されるようになったそうなのだが、基本的には私専属の侍女なので、手が空いていればどこにでも着いてくる。厄介な監視役だった。


 しかし、ただ寝ているわけにもいかない。

 そんなときに役立ったのが、使い魔のシュワルツだった。


 私は見舞いに来た父に駄々をこね、屋敷でシュワルツを飼うことを認めてもらった。

 父はもともと私には甘いし、シュワルツは屋敷の人間に可愛がられていたので、屋敷の中で飼う許可を得るのは簡単だった。

 私は予備として作って置いた魔力感知のリボンをシュワルツの首に結び、屋敷中を散策させた。人間では入り込めない場所に入ったり、使用人たちの働きぶりを観察するのは、なかなか楽しかった。継母や義妹の部屋にも入り込もうとしたものの、侍女に見つかって追い返されてしまった。

 侍女たちの世間話を盗み聞きしたところ、継母はどうやら動物が嫌いらしい。彼女たちの部屋に忍び込むには、何か策を講じなければならないだろう。


「それにしても……」


 風邪から復活して、やっと動き出せるようになったものの、困ったのがクララの存在だ。


「薬の時間だぞ、お嬢様」


 アフタヌーンティーと一緒に薬を運んできたクララが、私をジロリと睨み付ける。


「もう薬はいらないんじゃないの?」

「そういって風邪をナメる患者に薬を飲ませるのが、おれの仕事だ」

「はいはい。毒とか盛ってないでしょうね?」

「毒で殺すと証拠が残る。アルトナーが使っている医者は優秀だ。そんな危険は冒せない」

「あー、もう! 分かった。信用していますよ」


 クララが持ってきた薬は苦かった。悪意を感じる。

 屋敷にやってきてから五日。クララの態度が軟化する兆しはない。

 私が何かを尋ねても、「しらん」「答える必要はない」ととりつく島もない。さっきみたいに、皮肉が返ってくれば御の字だ。


「もう少し飲みやすい薬はないの?」

「ない。それが一番良い。それとも、ろくでもない薬を飲ませられたいのか? たとえば、こんなやつを」


 クララが薬の包みを取り出した。


「……その薬はなに?」

「奥方がお前に飲ませろと言って持ってきた。分かったと言って受け取ったが……」

「なんの薬なの?」


 心臓が早鐘を打つ。

 継母が持ってきた薬。クララの口ぶりからすると、まともな薬ではないのは明らかだった。


「夜迷草。重病患者の苦痛を取り除くときに、よく使う」

「鎮痛剤ってこと?」

「普通ならそうだ」


 クララが眉をしかめた。


「夜迷草は強力な鎮痛薬だ。だが、人間の感情を高ぶらせ、判断力を鈍らせる副作用がある。濃度を上げれば、麻薬にもなる」

「ただの風邪にしては大げさね」

「ああ。さらに、何か魔法がかけてある」

「ちょっと貸して」


 薬包を受け取ると、左手に巻いた魔力感知のリボンがバチッと反応した。

 魔法がかけられているというクララの言葉に嘘はない。

 

「ありがとう」

「お前の家も、内側は複雑なようだな」

「そうみたいね」

「王宮に忍び込んだのも、それが関係しているのか?」


 いきなり核心を突いた質問が飛んできて、私は言葉に詰まる。


「……なるほどな」

「まだ何も言ってないけど?」


 クララに隙を見せてしまったのは失策だ。


「ふふっ、沈黙なによりも雄弁だ。まぁ安心しろ。おれはいまのところお前の味方だ。お前を害するものがあれば、全力で排除する。それが主命だからな」

「期待しているわ」


 クララの存在は厄介だが、私の置かれた状況を考えると心強い味方になるかもしれない。

 シモン皇子の狙いが分かるまでは心を許すわけにはいかないけれど。

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