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第十四話 新人侍女

23:20から書きはじめて、ギリギリセーフの更新です。書くことは決まっているので手を動かすだけなのですが、一話分(2000字程度)を書くとなると1時間は見ておかないとマズいですね……という反省。

 シュワルツには「明日は御馳走を持ってくる」と言ったものの、私はその約束を果たすことは出来なかった。

 なぜなら、植物園から帰ってきた翌日、私はまたしても高熱を出して寝込んでしまったからだ。

 数日前に倒れたばかりなのに、というわけで屋敷ではちょっとした騒ぎになり、午前中にすぐ医者が飛んできた。父が慌てて呼びつけたその医者は、帝都でも指折りの名医だという話だったが、彼の見立てによれば、たちの悪い風邪だろうとのこと。

 植物園から全力疾走して、汗をかいたまま寝たのが原因だろう。


「少しでもお召し上がりください」


 枕元のタチアナが、ベッドで上体を起こした私の口にイチゴを運んでくれた。

 今日は朝から何も食べる気がしなかったが、甘酸っぱいイチゴならなんとか飲み下せそうだ。


 ボーッとした頭で、外にいるシュワルツと意識と記憶を共有する。

 私の体調不良の影響なのか、シュワルツも少し具合が悪いようだった。だがそのおかげか、心配した屋敷の者たちに少し豪華なエサをもらったらしい。シュワルツのうれしがる感情が、私の脳に流れ込んできた。約束を果たせなかった罪悪感が、ちょっとだけ楽になった。


 イチゴを食べ終わった私がベッドに横になり、布団を被ると、タチアナが布で私の額の汗を拭いてくれた。

 彼女はいつだって私に優しい。


「ねえ、タチアナ。今日は何か変わったことはあった?」


 寝込んでる間も、屋敷の状況は確認しておかねばならない。私が尋ねると、タチアナは「そうですねえ」と首をかしげ、


「そういえば、さきほど公爵様が新しく雇う侍女の面接をされると仰っていました」

「お父様が? 直接?」

「ええ、たしかにそう聞きましたが」


 たかが侍女の採用で、公爵が直々に面接するのは珍しい。そんなことは家宰か侍女長の仕事だ。

 なんだか少し、嫌な予感がする。


「なんでも、今朝飛び込みで雇ってくれと言ってきたそうなんです。ドミニク様は追い返そうとしたらしいのですが、西方医院の紹介状を持ってきたらしくて。なんでもその娘、以前は西方医院で看護婦として働いていたそうなんです。それで公爵様が興味を持たれたのです」


 ドミニクは先代からアルトナー家に仕える家宰で、父の親任厚い老人だった。

 西方医院というのは、帝国西部にある有名な病院で、帝国の医療研究機関を兼ねている。医療研究の分野では帝国一と言われる組織だった。


「公爵様は、お嬢様の身体を気遣って、医術が分かる者を身の回りに置くべきだとお考えのようです」


 タチアナが丁寧に説明してくれたおかげで事情は分かった。だが、少々きな臭い。

 こんなときに、医療に詳しい人間が名門病院の紹介状を持って現れるだなんて、話が出来すぎている。

 私の頭に浮かぶのは、ヘルムート皇子の陰湿の笑顔だった。あいつが送り込もうとしているスパイなのでは……?


 そんなことを考えていると、自室のドアがコンコン、とノックされた。

 タチアナに目配せし、軽く頷くと、彼女は私の代わりに「お入りください」と声を張り上げた。


「やあ、リンデ。身体の具合はどうかね?」


 ドアを開けて入ってきたのは、父だった。

 その後ろには、見慣れない人影が見える。


「きみも入りなさい」

「……失礼いたしします」


 父に促され、おずおずと進み出たのは、地味で清潔な服装をした少女だった。

 小柄だが引き締まった体つき。濃い栗色の髪。顔立ちは整っていて可愛らしいが、どこか冷たい感じがする。美しいけれどなぜか印象に残らない——その子には、そんな不思議な印象を抱いた。

 何か……何かは分からないが、私の心に引っかかるものがあった。


「クララと申します。今日より、お嬢様のおそばにお仕えいたします」


 クララと名乗った少女は品良くお辞儀をし、私に微笑を向けた。

 ——なんだろう。

 何か、強烈な違和感がある。私の本能が警告を発している。

 もしかして、クララとはどこかで会ったことがある……?


「田舎者ゆえ、無作法あるかもしれませんが、ご指導よろしくお願いいたします」

「あっ!」


 クララが挨拶を終えた瞬間——私は違和感の正体に気がついた。


「どうしたんだい、リンデ」


 気遣わしげな父の声をよそに、私の目はクララの顔に釘付けになる。

 奇妙な違和感の正体に、やっと気がついたのだ。

 彼女の声には、聞き覚えがあった。それも、つい最近——。


「あなたは……」


 私の視線を受けて、クララがにっこりと笑った。


「……影」


 そう、屋敷に現れた新しい侍女。

 彼女の声は紛れもなく、シモン皇子の護衛を務める女、通称「影」のものだった。

だいぶ話が動きはじめて、面白くなってきたんじゃないかと思います。

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