表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/18

第十二話 銀月草

今日も間に合いました。毎日更新続行中です。

だいたいいつも、その日に書くことは決まっていて、1時間くらいでパパッと書いています。

気楽な感じでお読みいただけると幸いです。

「うん。もしお嬢さんが無事に帰らないと、アルブレヒト卿が悲しむだろうからね。聖騎士団あげて、帝都中を大捜索、なんてことになったら僕も嫌だからさ」


 言われた瞬間、心臓がドクンと跳ね上がった。

 シモン皇子は、私の身元を知っている……!

 いきなり冷たい手で首根っこをひっつかまれた気分だ。

 思わず「なぜそれを?」と口から出そうになったが、理性の力で押さえつける。ここでそれを聞けば、ますます相手のペースに飲み込まれるだけだ。

 だがなぜ私のことを知っている? デビュタント前の貴族令嬢の情報なんて、断片的な噂ぐらいでしか耳に入らないはずだ。まったく面識もないのに、確信を持って言い当てるのは不可能に近いのでは……?


 そのとき、無反応を装う私の代わりに「えっ!」と驚きの声を発した者がいた。私の背後に立つ女——「影」だ。


「なにを驚いているんだい?」とシモン皇子が呆れる。

「いや、まさか……。本当ですか?」

「そのくらいすぐに見抜いてほしかったなぁ。消す、なんて言いだすから慌てたじゃあないか」


 シモン皇子の声色は、叱責というよりも親しみを込めた揶揄に近かった。


「申し訳ございません」

「冗談だよ」

「あの……」

「おおっと、失礼! お嬢さん。もう帰っていいよ」

「その前に、一つ質問しても良いですか?」


 よせば良いのに、私はまた余計なことを言ってしまう。

 

「どうぞ」

「私がここで見たことを、外で言いふらさないという自信があるんですか? もし私が言いふらしたら、その……シモン様は困るんじゃないですか?」


 声に挑発の色が乗ってしまう。

 こんなこと、聞かない方が良いのは分かっている。

 だが、終始シモン皇子のペースの乗せられてしまうのは腹立たしかった。かつてヘルムート皇子の言葉に操られた自分を思い出すからだ。

 これは確信に似た予感だが、ここで何か一つくらい、自分の意志で言葉を発せないと、私は回帰前と同じ運命を辿るような気がしたのだ。誰かの掌の上で踊り、誰かの利益のために死ぬ、きっとそんな哀れな女にしかなれない。


 シモン皇子は一瞬ポカンとした表情を浮かべたが、やがてクスクス笑いはじめた。


「きみは面白いね、ディートリンデ・アルトナー。さすがは勇敢なる女神の後裔とでも言うべきか、怖いもの知らずだ」


 私は無言のまま、シモン皇子を見つめる。


「僕は困らないよ。年端もいかない公爵令嬢が、『皇宮の植物園に忍び込んだら、普通の人みたいに喋るシモン皇子を見ました』だなんて言ったところで、誰が信じる? きみの正気が疑われるだけだよ。それに……まぁいいや」


 皇子は何かを言いかけて、微笑んだ。


「そんなことより、僕としたことが手土産の一つの渡さずに失礼した。はい、これ。怖がらせたお詫びも兼ねて」


 シモン皇子は、後ろ手に隠していたものを私のほうに差し出した。

 ご丁寧に、それはさっき私から奪った覆面で包んであった。


「これって……」

「きれいだろう? これは銀月草と言ってね、夜にしか咲かない花なんだ。明日の朝にはしなびて消えてしまうから、今夜のうちに楽しんでほしい」


 月光を反射して銀色に光るそれは、まぎれもなく銀月草の花だった。


「見送りは出来ない。気を付けて帰ってね」

「……ありがとうございます」


 私は虚勢を張って、落ち着き払った様子で覆面を直し、「では失礼いたします」と皇子に一礼した。

 そして踵を返し、悠々とした足取りでその場をあとにした。


「じゃあ、またね」


 背後からシモン皇子の面白がるような声が聞こえたが、私は振り返らず、返事もしなかった。

「面白くなりそうだなあ」と思ったら、評価やブックマークをお願いいたします。

「いいね」や感想もいただけるとうれしいです。


本作はちょっとスロースタート気味だったのですが、そろそろエンジンが入ってきた気がします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ