0096:犯行動機
悠馬達が魔術学園…ひいては、魔術都市から去って数日。
正式に学園長となったライオは、自身の書斎こと新学園長室へと足を踏み入れた。
その両手には、幾つかの嘆願書と申請書の山。
いつもの暴虐武人然とした空気は何処へやら。
ゲンナリしたような表情のまま、ふさがった両手で器用に扉を開ける。
「やぁ」
「…なんで居るのか聞いてもいいか」
入ってすぐ、応接用の机を使って仕事をする存在。
不老不死でありながら、自然公園管理人をしつつ、生物化学者をする。
それでありながらダンジョン構造学を専攻し、その非常勤講師であり、自身の学科をも持つ男。
不死身のフロードと呼ばれる男が、さも当然のように居た。
ひと段落着いたのか、その手には紅茶のカップ。
紅茶を一口、そして再度カップを置いて一息ついた。
ライオは、それを忌々しそうに眺めると、そのまま自分のデスクへと付いた。
大量の書類がデン、と音を立てて机に山積みとなる。
「忙しそうだね」
「見てわかるだろうが……
奴め、学園を独裁運用してたせいで尻拭いは全部俺だ」
そう、忌々しそうに書類の山を叩いた。
元・学園長であるシェフィールドは、その地位を得るや否や、自分の足場をガッチリと固めた。
たとえ多少の事があろうと、一切揺るがない土台を用意する為に。
その為に行ったのが、自身の権限と権力を総動員しての、全方位への印象工作である。
学園内、学園外、市民、貴族、その他諸々……
金と権力を使って、体外的には実にいい学園長であると、そういった印象を持たせるべく。
…だが、その実態は黒も真っ黒。
全方位への印象はよかった物の、ソレを維持するべく学園運営費の一部を利用。
金をばら撒くように使って、そういった工作を続けていた。
そのしわ寄せは、当然学園内部の維持に響く。
が、その運営費を捻出するべく、数多の不正行動を繰り返していた。
一に維持費の削減と、備品の更新の無期延期。
二に学科の大幅削減と、廃科となった学科の備品売却。
三に学園内にある薬品や魔術の巻物の横流し。
etc、etc……
コレだけの不正行為を隠蔽し、隠し通し続けていた。
更に、この真実にたどり着き、不正行為を暴こうとした学生や賢者達を、嘘の犯罪行為で告発。
一部の衛兵と結託し、その捕まえた連中の財産すらも掠め取っていたと言う。
当然、不平不満が吹き上がるも、それらは直ぐに鎮火。
何せ彼の作り上げた印象によって出来た、「実にやさしく信頼の置ける学園長」の言い分。
彼が言うのであれば、と皆が一旦矛を収め、その不満は消えていった。
こうなると、誰もこの状況を変えることは出来ない。
当然、嘆願書や申請書何かも、彼の親切丁寧な謝罪等で煙に巻かれ続けていた。
ここまでくると呆れを通り越して、逆に尊敬できるな、とはライオの弁。
…さて、こうなってくるとその嘆願や申請はどうなるのか?
当たり前ながら、新しい学園長にも再申請として上げられる。
しかも今までさんざ断られてきたのは、全部前任の独裁と横領による物。
となれば、新任に今までの嘆願を全部ぶつけるのは道理でもある。
…ただ、全部を面倒見きれる訳も無く、ライオの疲労が溜まるばかりとなっているのが現状であるが。
閑話休題。
「…で、お前さんは何をやってるんだ」
「あぁ、コレはノイマン坊への報告書さ」
「閣下を坊呼ばわりたぁ…やっぱり不死身ってのは凄いもんだ」
「はは、コレでも250年近くここで生きてるからね。
なんなら敬語で話してもらえると嬉しいな」
「ほざけ」
ライオはハッ、と鼻で笑うと、自分の書類を放置して彼の前へと座った。
応接用の机の反対側、そこで書いている内容を覗き込むように。
「…で、奴は何が目的であんな事をしたと考える?」
「私利私欲、知識による更なる地位向上と……」
「後は邪魔者の排除か」
「だろうね」
そう言って、一度ペンを動かす手を止める。
フロードは、そのまま今一度ライオを見て、笑う。
対外的な印象とは間逆で、実に俗物的だったようだ、と。
「彼の実力行使は、確認出来るだけでつ。
一つ目は毒物入り賄賂を贈った事。
二つ目は刺客による物理的暗殺。
そして最後は、捕まったあの時、だ」
彼の言葉は続く。
「毒物…とは言っても、大部分は行動阻害系ばかり。
恐らくは毒で巻き込む事を恐れたのと、他の連中の口封じだろう。
動けなくなった連中を殺し、彼のみを連れ去る為と見て間違いないかな」
「…じゃあ何で態々警告をしたんだ?」
「狙われている事を実感させる為で、同時に警告の裏付け。
失敗した場合、自分が味方であると錯覚させる為と見える」
二重、三重に張った罠であった、と語る。
その表情は、まるで謎を解く事が楽しいかのように笑いながら。
「二つ目の刺客は、アルバート殿の物理的暗殺。
彼の殺傷の後、自分が後ろ盾になって保護しよう、といった考えかな」
「ほー…よく考えるもんだ」
ライオは、そう感心したように呟く。
「何、それに…もう1人の犯人も、ある程度浮かび上がってきたよ」
彼はそう、手を前に組み、更に笑みを浮かべた。
ギィィィィバタン!(CM前アイキャッチ)




