0091:手の内の陽光
一閃。
一撃。
一瞬。
そんな言葉でしか表せないような、瞬時の戦い。
テクスはそれに勝利し、静かに剣を鞘へと収める。
後、緊張の面持ちのままに、大きく息を吐いた。
「てっ…テェクスゥゥゥゥゥっ!」
「よっしゃぁおっちゃん流石だぜぇぇ!」
「あぁぁうるせェッ!」
そんな猫共の歓声が響き渡った。
一時はどうなるかと思った戦いではあったが、無事勝利したテクスに歓声を送るのはわかるよ、うん。
でも、ただ一言言いたい。
うるさい。
…なんて、今はおいておこう。
そう思いつつ、今度は視線を前に移した。
正面には杖を構えたまま、魔術を発動する訳でもなく、その場に佇む学園長の姿。
攻撃する訳でもなく、近寄る訳でもない。
ただただ、俺たちを見続けるのみ。
「…態々待ってくれた、なんてのは勘違いかね」
「あぁ、勘違いだよ」
俺のそんな悪態に、そう素直に返される。
「何せ、自分の魔術では威力がありすぎる。
君を巻き込んでは、目的は達成できないからね」
「だから攻撃しなかった、って事か?」
「あぁ、自慢ではないがね。
…とは言え」
彼はそう返すと共に、視線を倒れ付したエンヴァーへと向けた。
その視線は冷え切り、期待外れと言わんばかりの表情。
そうして2、3秒見つめたかと思えば、今度は大きくため息をつく。
…補佐官だったのにもかかわらず、随分と酷い仕打ちだな。
「少しはできると期待した、自分が馬鹿でしたかね。
まさか、誰一人潰す事が出来ないとは……」
「もう少し、部下にはやさしく…するべきじゃぁッ!」
その言葉と共に、不意打ち気味にアルバート氏が杖を振るった。
同時に、小さく聞こえる高速詠唱。
次いで、稲光が学園長へと走った。
攻撃系魔術である雷撃…その初歩的な物。
威力こそ一瞬の痛みや暫くの痺れ程度。
だがその真価は、瞬時着弾とでも言える高速雷撃にある。
半ば一瞬。
防御する時間も無い。
…が、しかし。
彼はフッと笑いながら、手にもてる様な小さなその杖を振るう。
その途端に、飛び出した雷撃はその杖の先端へと収束する。
それはまるで吸い込まれるように……
「…いい高速詠唱だが…やはり威力が足りないね」
そう呟くと、彼は収束した雷撃をそのままに、ゆっくりと杖を振るう。
…途端、空気が震えた。
即座に俺とテレーザ、そしてアルバート氏は杖と手を前に構える。
同時に現れるのは、魔力で構成された複数の防壁。
とは言え俺のは無色透明だけどな!
が、ソレを見て、奴はなんて事も無いように杖を振るった。
…その顔に、微笑を蓄えながら。
「…在れ」
…次の瞬間、空気が揺れ爆音が響き渡った。
半ば一瞬の出来事であった。
振るった杖より莫大な電撃が生まれ、ソレが俺たちを襲った。
とは言え、その雷撃は防壁へと突き刺さり、そして同時に炸裂する。
空気と共に風景が揺れる…!
何だこの威力ッ…!?
次いで、その光の合間から再度杖を振るう姿。
瞬時に雷撃は消え去り、何事もなかったかのような表情で彼は微笑んだ。
「攻撃とは、こうやる物だよ」
「…さいで」
…正直言おう。
威力差が、おかしい。
なんて思いつつ、俺はアルバート氏の体に隠れながらも、手元で魔術を練る。
水平思考、マルチタスクは魔術の基本。
そう習い、ポンポンできた魔術より延々唸りながら習得したんだなコレが。
ふふ…だからこそコソコソ用意できたんだ。
超威力な必殺技…とまでは行かんが、偶然の産物によって出来上がった投擲型爆裂系魔術が!
「だったら…コイツも評価して見なッ!」
即座に前に立ち、両手で抱えた熱球を腰ダメに抱える。
コレは撃ち出すのではない!投げつけるのだ!
「ストナァァァァァァァァ!! サァァァンシャインッッ!!!!」
そう叫び、投げつける光球。
…コレは元々、ファイアボールとしてやってみた自作魔術。
本来のファイアボールは、詠唱でもって炎を生んで飛ばしている…シンプルな炎系魔術。
…ま、所詮炎の玉とばしてるだけだし、自分もやってみればソレっぽくなるやろ。
そんな考えの元、半ば偶然に出来てしまったのがコレ。
当初は外部圧力で魔力で構成された球体が破裂するように調節し、内部に火炎を搭載した程度だった。
投げて当たればファイアボールだ、的な思考で作った訳で…まぁ適当であった。
…当然、内部で燃える炎を圧縮して球体状にし、燃料が無いままに燃やし、そして投擲する。
それこそ、ただの炸裂する炎程度の認識…だったんだが。
…実際は酸素を失った炎が、周囲の空気を求めて即座に炸裂する。
所謂、バックドラフト現象を再現した炸裂球が、このストナーサンシャインである。
サンシャァァァイン、では無い。
サァァァンシャイン、である。
ココ、重要な。
そして当然、ただの放出された炎ではない!
魔力で構成され、いつ炸裂してもおかしくない爆弾同然よ!
止めた瞬間、ボンッ、だ。
そんな思惑を乗せたソレは、奴の杖によってふわり、と止められる。
当然魔力でもって減速して止めるのだから、その外圧で炸裂する!
…と、思ってたんだよね。
「…成程、こういった構造ですか」
さも、当然のように取られましたがな。
炸裂もせず、消えもしない炎の魔力球が。
全員、揃って、回れ右。
「返しますよ」
「ぬぉぉぉぉぉぉォォォ!?」
直後に、背後が炎上する。
瞬間的に燃え広がった炎は、もはや爆発のソレと大差ない。
「当たらなくて、よかった!」
「「言ってる場合かぁーッ!」」
猫'sから罵声を浴びながら、とにかく全力疾走。
逃げてきた道を一気に逆送する。
背後からの追撃は、無い。
「とは言えどうする、このままではまた学園長室に逆戻りだ」
「あっち確か行き止まりでしょ!?」
「…考えがある」
そう、テクスとテレーザの言葉に返す。
同時に、途中の丁字路を曲がった。
「おい!じじいの書斎から離れる気か!?」
トールの声を聞きながら、脳内MAPと相談をする。
確かに書斎からは離れる道である。
しかも各講義室や教室がある、いわば本校舎方面でもある。
…そして同時に、受付のある学園正面の大門のある方向。
「とにかく、一旦外に逃げる!」
「成程、エントランスか」
「…確かに、閉所よか幾分か有利かの」
戦うつもりは毛頭無いッス。
今は、逃げる事で精一杯デス。
そう思う中、長い廊下の先には、エントランスへの扉の姿。
未だ見えない学園長に怯えつつも、その扉を思い切り蹴飛ばした。




