0092:包囲
「全員、動くな」
そう、槍を構えた衛兵がそう言い放つ。
扉を開ければ道が開けると思った?
残念!扉の先は槍の山でした!
判るかこんなもん!
しかも一本一本、しっかり整備されてるであろう、ちゃんとした長槍。
挙句、それらをしっかり俺たちを包囲するべく喉元へと突きつけてる。
しかも1人2人所か十数人の衛兵が、同じようにこちらへと槍先を向けてきていると来たもんだ。
突然の武器という事もあり、抵抗の意思無しと示すべく小さくホールドアップする。
が、俺の背後の猫共に上げた手を下ろされた。
なんでや。
…とりあえず現状把握なんだけど…大分摘んでますねコレ。
正面大門は衛兵を横に置く形で閉鎖済み。
周囲背後にも、衛兵達が長槍構えて包囲中。
挙句エントランスに飛び出したはいいが、進むも戻るも出来ん始末。
どーしろと。
そんな中、不意にエントランス中央に光が起こる。
光の元は地面であり、そこには細々とした魔術陣の姿。
一瞬、パッと閃光を生んだと思えば、次の瞬間には見覚えのある姿。
「…さて、大人しく捕まってもらえますか?」
学園長が転移して現れやがった。
成程、廊下に居たのは転移で先に飛んでたからか…
そう思いながら、全員揃って戦う姿勢を取る。
武器を構え、杖を構え、挙句拳を構えて。
が、相手は一切同様も、慢心も無い。
「…成程、大人しく捕まる気は無い、と」
「当たり前じゃ!」
その物言いに、アルバート氏は噛み付いた。
が、そんな声すらも飄々と受け流し、呆れた様子で鼻で笑った。
「状況はわかっておいでですかな?
君達は学園長たるこの私を暗殺しようと画策し、挙句補佐官であるエンヴァー君に手をかけた」
まるで自分が被害者であるかのように、そう言い切った。
挙句自衛によって起きた被害を、さもこちらが一方的に殺したかのように。
更にカツリ、カツリと靴を鳴らしながら、俺たちを見定めるように包囲網を歩き周り始める。
「大人しく捕まるのであれば、それなりに寛大な処置をしよう。
…だが抵抗するのならば……」
そう、ねっとりとこちらへと視線を向けてくる。
が…
「被害者面すんじゃねぇ!」
「法廷でアンタらの悪事をバラしてもいいんだぞぉ!」
その視線に耐え切れなくなったのか、双子は声を荒げた。
だが、ソレを前にハッハッハと大仰に笑い返してくる。
「そうか、私を悪人として仕立て上げるのかね!
いやぁ実に面白い…だが……」
学園長はそう言うと、顔を伏せたかと思えば、ニヤリと笑みを浮かべてこちらを見返してきた。
今までの静かな笑みとは違う、あまりにも邪悪の篭った、底冷えするような表情で。
「誰も君達の言うことなど、信じる訳がない」
「んだとォ!」
「考えても見たまえ。
一介の賢者、しかも犯人たる暗殺者の言い分と、被害者たる私の言い分。
…どちらを信じると思う?」
その言葉に、声を荒げたトールはウッ、と声を詰まらせた。
「フフ…仮にその言い分が通ったとして、ソレを信じる者がどれだけ居る事か……
コレでも自分、市民一般、この都市の貴族達、学園内に至る大部分の人々に信用されているのですよ?
私が、犯罪者の語る悪人であると!誰も信じる訳が無いではないですか!」
そう、言い切った。
…確かに、信頼と言う点ではこちらは一切勝てない。
それ所か、俺達の方が怪しい。
何せアルバート氏達の学園内の地位は低い。
そしてそんな彼らに付いている俺たちは、完全な部外者。
…俺だって信用できねーわ。
そんな状態の中、奴の背後から別の衛兵の姿。
誰ぞ捕らえたのか、2人でもって連行してきた。
連行されてきたのは……
「学園長室攻撃の実行犯と思われる人物を連行しました」
「ご苦労さまです」
「ナッナイアッ!」
そう、後詰に待機してもらっていたナイア嬢。
あの爆撃後、一応念話で合流の為に書斎へと戻るように報告を入れておいた。
…のだが、あの後のゴタゴタのせいもあって再連絡出来てなかった。
結果、書斎への待ち伏せに赴いたのであろう衛兵に拘束されたんだろう。
「先手、先手は戦術の基本。
現に、エントランスに衛兵団を待機させたのも、功を奏しましたし…」
「アンタの作戦ガバガバじゃにゃーか!」
「俺に言うな!想定できるか!」
「頭痛くなってきた…」
えぇいエールにテレーザと言いたい放題言いよってからに!
「…ではもう一度聞きましょう。
大人しく捕まってもらえますか?」
そう、奴は言い切った。
正直、間に合うかと思っていたが…無理だった。
こうなると抵抗は無駄だろう。
全員に合図を送り、武器を置いて戦闘態勢を崩していく。
忌々しく、奴をにらみ付けながら。
…が、そんな折に空気が変わった。
ギギギ、と音を立て、空気を振るわせていく。
音の聞こえた場所は、正面の大門。
何事かと慌てる大門に待機していた衛兵を他所に、その扉はゆっくりと開いていく。
開けたのは、青を基調とした全身鎧の騎士団。
そしてその中心に居るのは、装飾のある服に身を纏った、一人の貴族。
その姿を見て、アルバート氏が名を呟いた。
この魔術都市マギスティアを管理する公爵。
―ギルバート・トール・ノイマン6世




