0024:異世界生物録
翌日の昼。
再びの野原の道。
休日も無く、行ける時に行けるだけ進む毎日。
丸一日休んでいては、食料や物資の問題が出てくる。
異世界の事を言えない以上、完全週休二日制と行く訳には行かない。
6~8時間をかけて、延々と歩くだけ。
途中モンスターが現れて、血沸き肉踊る戦いが起こる。
…なんて訳も無く、普通に進んでいく。
…そらこんなだだっ広い草原で襲ってくるアホは居らんか。
むしろ野生生物を見かけ、何だ何だと近寄れば逃げられる、なんてのが続く。
大体はウサギのようだったり、トカゲのようだったり、猫や犬のようだったり……
猫見つけて近寄ったら逃げられる、なんて光景思い出すわ。
そんな風に歩き続けるのはいいが、休憩は当然入る。
休み無く歩き続けるのも可能だが、現代のように舗装されて無い以上、逆に足が持たんわ。
今回は道がそれなりに広くなっている場所があったので、そこで休息を取る。
全員が全員、腰を下ろして荷物を漁る。
飲み物や食べ物を口に、そんな感じに簡単な休憩。
そんな中、あいも変わらずクルルと声を上げながら、シャルリア様を顔だけ出して睨む大福。
せめて袋から出て来い毛玉。
一応一緒のパーティーなので、ある程度は協力する。
…とは言っても、水袋の補給の為に水球を出す位ではあるが。
そんな風に休憩している際に、ふと視界内に何かが写る。
「…? 何だあれ?」
「今度は何のフレンズなのー?」
やかましいわ。
とりあえずあやめと共に近くに行って見てみる。
草を掻き分けた先には、白っぽいゼリー状の何か。
ふるふると揺れるだけで、逃げもしない。
「…何コレ」
「さぁ…?」
ふと手を伸ばそうとして、後ろからやって来ていたテクス氏に手を止められる。
「素手で触れないほうがいい。
コイツは麻痺毒を持っているからな」
「うぇっ!?」
咄嗟に手を引き、距離を置く。
だが、その動きと声にも一切反応せず、それはただふるふると揺れるだけ。
「ほぉ、スライムか」
「…え、コレが?」
後ろから聞こえてきたドランの言葉に、一瞬ギョッとする。
某国産RPGのようなひょうきんな顔をしている訳でもなく、ポンポン跳ねてこっちに迫るわけでも、大慌てで逃げる訳でもない。
見た目も、科学的に作られたおもちゃのゼリーとも、お菓子のグミとも言えない。
正直スライムのような印象は欠片も無い。
横ではあやめが、見えないようにカメラでパシャリと撮影してるし。
でもコレ採った所でスライムには見えんだろ。
にしてもコレは…単細胞生物なのか、生物の集合体なのか。
近くで棒を拾い突いてみると、てよん、てよん、と鈍く跳ね返りを覚える。
逆に強く突くとずぶりと刺さった。
…とは言え血や体液が出る様子は無い。
それ所か、枝に向かってゆっくり動き出した。
「このスライムってどんな生物なの?」
「何と言えばいいんでしょうか…
生物の死体や糞等をエサに徘徊するとの事で…」
「つまりは分解者?」
「そういう立場ですな」
背後のテクス氏とあやめのやり取りを背景に、更に実験を続ける。
手にするは、この異世界産のクッソ硬いジャーキー。
それをスライムの上に放り投げる。
ペチリ、となると思ったらジャーキーにつぶされた。
「弱っ」
「潰れない様に極端に軟く軽いのかなぁ?」
「…何書いてんの」
「記録」
「好きだねーお前そういうの」
そう言ってあやめは、俺の横で手帳にガリガリ記載していく。
確かゲームでも、クリアよりそういった図鑑集めたり考察するの好きだったな、なんて。
対するスライムは、自分の上に乗ったジャーキーを下に。
そのままそれに乗りかかると、ゆっくりと体内に取り込まれた。
半透明の白い体の中に、ジャーキーが浮かぶ。
「お、取り込んだ…けど、瞬間的にシュワッとは行かんのか」
「どれ位で消化するんだろ…」
「大よそ半日はかかると聞いたことがあります」
「長っ」
取り込まれたジャーキーのお陰で、体表面の構造がそれなりに見える。
ゼラチン状の体に、粘性の体液を纏ってる感じ。
動く為にあるのは体表下にある大量の細々とした無数の足のような何か。
薄っすらと触手のような物も見える。
単細胞生物でも、集合体でもない。
むしろコレって……
「陸生の…クラゲ?」
「だね」
ほぼほぼ見た目通りの生物だった。
体表の粘性液は乾燥防止。
触れると危ないのは…なんだっけ、刺胞細胞とか言う奴か?
軽かったり軟いのは自重で潰れない為、と考えれば…まぁ違和感は無いか。
そして触れたり動いたりでエサを探す…と。
「そろそろ出発するぞぉ!」
ドランの一言で、観察を終える。
ジャーキーを体内に取り込んだまま、動く事無くじっとしている。
最後に棒でぺしり、と叩いてみる。
やはり叩かれた方に移動しようとする。
「本能で動いてる感じだね」
「コイツ何も考えてないんだな」
陸生クラゲ…実に生命の不思議である。
そう思いつつ、次の集落へと歩を進めるのだった。
ボク わるいスライムじゃないよ




