0023:それぞれの思惑
パチパチと音を立てる薪。
ゆらゆらと揺らめく火。
ドワーフのドランと少年タクトは、日が落ちて尚この場に留まっていた。
到着したのはつい先程。
互いに別々のテントを建て、明日の朝にと別れた。
しかも食事も取らずに、である。
対して彼らは焚き火を置いて食事を用意する。
ただシャルリアはシャルリアで、軽食を取ったら祈りをささげる為にテントへと入っていった。
残されたのは二人。
硬い黒パンに、日持ちしない葉野菜と塩漬けされた肉を乗せて喰らう。
街にいた頃と比べて、実に質素だ。
「…にしても、お前さんは分かりやすいなぁ」
「うぐ…」
そんな食事をしながら、彼らは簡単な反省会をしていた。
反省会の内容は、ギルドからの密命について。
「だってさ…怪しいって言われて……」
「怪しいから見張れ、なんて言われて睨む奴がどこにおる」
「うっ……」
そんなドランの正論に、彼は言葉に詰まった。
「別にとっ捕まえろとは言われとらん。
何を企んでて、何をしようとしているのか、それを知ればええ」
「…でも、少し悩んでるんだ」
「ぬ?」
その一言に、パンにかぶりつこうとしていたドランの手が止まる。
「ギルドは怪しいから見張れ、とは言ったよ?
でも…シャルリアは大丈夫だって……」
「…確かに」
彼ら二人はよく知っていた。
彼女が語る神託の内容は、いつも間違ったことは無かった。
ふむ、とドランは一息つくと、腰の二つある水袋の一つを取り、グビリと飲み込んだ。
長旅で水が手に入らない間、水の代用品として腐らない酒。
グレードの低いその赤い水ことワインを煽り、ふぅと一息ついた。
こんな辛気臭い話をしていては、元から不味い質の悪い酒も余計に不味くなる。
相手側のテントを見ると、その天辺に例の毛玉がこちらを睨んでいた。
~~~
「で、例の教会ってのは何なの?」
テレビを見るイーリスを横目に、俺はそう言った。
夜に入って直ぐ、7時過ぎの我が家。
夕飯を早めに終え、全員揃って風呂も終えた。
後はのんびりして寝て、明日に備えるのみ。
今の机の上にはオカズでありおつまみとして用意されたメンチカツの姿。
コップに移したチューハイを一口飲んで、ふぅと一息。
晩御飯の時間は終わり、半ば大人達の酒飲みタイムとなりつつある。
「大人って…大人って…!」
ふりかけでも食ってろ。
「教会ですか…と言われましても、私に言える事はごく小数ですが…」
「それでもかまへんがな、むしろ少数でも情報が欲しい」
何せ自分達は異世界間を行き来して、のんびり冒険ライフを楽しんでるに過ぎない。
それがもし相手にばれた場合、どうなる事か。
こっちの世界の歴史を振り返れば、どんな事になるかなんて火を見るより明らか。
もしこっちが知られれば、その神のなんらかをさも当然のように否定しかねない。
そうなれば…
せ、戦争じゃ……!
宗教戦争とまでは言わないが、下手をすればその教会に延々と追われる羽目になる。
逆に戦争にならなかったとしても、例の彼女が上に伝えた場合どうなるか。
…自分の利用価値が高い事ぐらい、ヤバイほど判っている。
ならば判る範囲でも情報はあったほうがいい。
それ故の判断。
「なんという冷静で的確な判断力なんだ!」
喧嘩売ってんのか。
…国の収益の為の宗教であり、教会である、と。
とりあえず判ることだけ聞いた物の、やっぱそんな物よね程度の感想しかない。
それ以上に冒険者達や一定の知識層には、既に作られた存在と知れ渡ってるのが何とも。
「確かに治癒布は、冒険者達にとっても有益なアイテムです。
それがあれば、もしも病気にかかっても直ぐに治癒が可能です。
まぁその分、非常に高価にはなりますが…」
「高価で教会支持者じゃなきゃ手に入らんと…なるほど考えてるな」
「はい。
…ですが彼女の…神託でしたかな、あれに関しては何とも……」
「やっぱり判らんかね」
その問いに頷きで返される。
そうなってくると半ばお手上げだ。
最早残されるのは現代知識での憶測しかない。
「精神的疾患とか?」
「精神病ぅ? それで聞こえてくる声が神託って?」
「可能性はあるんじゃない?」
「むしろ身体的障害で聞こえてくる異音を神託と思ってる可能性…」
「うわー…マンガに出てくるサイコパスのそれやん」
そんな事を言いながらあれやこれやとあやめと適当抜かす。
本人に聞かれたら怒られそうな内容ではあるが。
「…とりあえずは転移扉と異世界間移動、コレを隠せばどうにかなるかね」
「それぐらいじゃないかな」
「同感です」
一応、ばれないようにという形で話はまとまった。
とは言え、ばれたらばれたでどうなるかはまだ判らないが。
「ゲームやっていーい?」
そんな硬い空気を、イーリスのその一言で解された。
よっしゃ配管工のレースゲーム(初代)で戦ってやろうぞ。
ィヤッフー。
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その狭いテントの中、シャルリアは祈りをささげる。
神エヴォリアの神託を聞き、そしてその声に導かれるままに。
彼女の脳内に声が響く。
今を的確に示した言葉で。
「…では、彼らは今この世界にいない、と?」
――………
「…成程、何れ私達にも判る時がくる…そういう事でしょうか?」
――………
「…畏まりました、我が神よ……」
彼女は聞いた。
確実ではない、だが何れ、彼らの世界へと行けるやも知れぬ、と。
その、異世界という存在へ、と。
彼女は祈りを終え、テントの外へと顔を出す。
それを見たタクトは、今まで通りに彼女の元へと向かった。
テントの外をドランが、中をタクトが護衛する。
その為に、彼女はタクトと一緒に旅布団へと包まる。
半ば抱き枕のように、少年は彼女に抱かれながら眠りに落ちる。
明日に備えて。
…彼女のみ、だらしない顔を浮かべたまま。
「うえへへヘ……」




