雨の日の昼
離界 この世の裏側の世界、時は法則がこの世と違うが流れている
魑魅魍魎、古いモノ、あるいは忘れられたモノ、この世では絶滅したものが流れ着く異界の一つ
コトは一本の電話から起こった。雨の日の昼、バイトが外仕事なので急遽休みになり、部屋でゴロゴロしていた時にその電話は来た。
美煙「たーつーきーちゃ~ん~、助けて~~」
スマホから聞こえる何とも力の抜けた声、美煙だ、話を聞いたら雨の日は弱り、気分が落ち込むらしい
反対に私は雨の日が好きだ、この何とも言えない雨音がちょっと特別な気分にしてくれる
私は美煙の部屋のドアを開ける。瞬間何とも言えないジメェっとした湿気が身体を包む
タツキ「湿気多すぎだろ・・・美煙ー!!いるかー?私だー!」
とりあえず暗い部屋に向かって美煙を呼ぶ、小さくここだよ~と声が聞こえる。私は中に入り、声のする布団をゆっくり剥がす。そこには小さな少女が居た。
「助かったぁ~、もう突然の湿気と雨で体が縮んじゃってさぁ~、何も出来なかったんだよ」
どうやらこの小さな少女が美煙らしい、妖怪って不思議だ
タツキ「煙草吸ってどうにか元に戻んないの?」
私はありきたりな解決法を提示する。
美煙「一時的には戻るんだけど・・雨に負けちゃうんだよね~、ねぇタツキちゃん、お金渡すから煙草買って来てくれない?ハイライトのメンソール、タツキちゃんの分も買ってきていいから」
そう言われお金を渡される・・一万円だ、
タツキ「カートン?」
美煙「カートン」
迷わず言われた。私は近くのコンビニまで傘を差しながらダッシュし、カートンを買い戻ってきた
美煙「あれ?タツキちゃんの煙草は?」
袋をガサガサと開け、私の良く吸っている銘柄が無いことに気づく美煙
タツキ「美煙が吸ってるのでいい、メンソール入ってれば吸えるし」
そういって卓の前に座る。なんかぬいぐるみやら派手な下着やらが転がっていてちょっと落ち着かない
美煙「あ、あはー・・部屋汚いのは許して、私スナック帰りはいつもそのまま寝ちゃうから」
それを察してか、気まずそうに言い訳する美煙、相変わらず少女の姿だ
タツキ「お先に一服失礼するよー」
私は迷わずカートンから一箱とり、包装紙を破り煙草を取り出し一服する。ふむ、ハイライトのメンソールも悪くないな、吸いやすい。
美煙「あんむあんむあんむ」
私の吐いた煙と副流煙を美味しそうにパクパク食べる小さい美煙、
タツキ「いやいや・・煙草吸えよ」
思わず突っ込みを入れる。ハッとしたように煙草を咥え、火を付け始める美煙、そんなにおいしいか?私の呼気煙、聞いてみると口臭も少なく、なにより本当においしそうに煙草を吸う人の呼気煙は美味しいんだそうだ。う~ん、煙の妖怪なりに誉めているんだろうかこれは
タツキ「ふーーーーっ」
思わず美煙の顔に煙を吐きたくなって吐いてみる。すると煙草そっちのけで口を動かし、美味しそうにあんむあんむ言いながら私の呼気煙を食べ始める。本当に美味しいのか
美煙「あーあー、職場にたつきちゃんが煙草吸いにきてくれたらなぁ~、勤務中でもこの呼気煙を食べられるのに」
煙を補充して高校生くらいの姿になった美煙がポツリと漏らす。スナックかぁ・・行ったことないな
タツキ「てか・・他の人間の居る前で煙パクパクしちゃだめだろ、不思議っ子すぎるわ」
想像してみる。知らないお客さんの前で美味しそうに私の周りの煙をパクパク食べる美煙を、ダメだ
どう頑張っても不審者過ぎる
美煙「だーいじょうぶ、だーいじょうぶ、スナックのママも妖怪だし、従業員も何人か妖怪いるから」
は?社会に紛れているとは聞いていたがまさか妖怪がスナックの経営までしてるなんて、なんとまあ気づかないものだ。そもそもスナックとか洒落た店に縁が無いんだが
タツキ「上手く溶け込むもんだねぇ妖怪も」
ゆっくりと煙を吐く・・だから食うなって
美煙「私達みたいなのは良いけど、上手く化けられない子達や人間社会とは合わない妖怪たちは離界っていって、こっちのせかいの裏側で暮らしてるよ」
ようやくいつもの美煙の姿に戻り、煙草をふかす、そんな世界があるのか
タツキ「その離界ってどんな世界なの?」
気になったことをなんとなく言ってみる。
美煙「離界はねー常夜の世界なんだ、そこで人間社会に馴染めない妖怪たちがずっとどんちゃん騒ぎしてるの、百鬼夜行って聞いたことない?」
タツキ「百鬼夜行」
あの・・あれだろ?魑魅魍魎いろんな妖怪が群れを成して練り歩くアレ
美煙「ずっとみんな踊ってるんだぁ、もちろん休憩もあるけどね、そんでいろんなものが流れ着くの、
こっちの世界では忘れられた物や神様、絶滅した動物なんかが流れ着くの、」
美煙が膝を抱えて懐かしむように語る
美煙「私、ずっとあそこで踊ってても良かったんだぁ・・けどある日突然外の神様がさ、人間のお嫁さん連れて現れたの、」
まるで今見ているかのように美煙の瞳が輝き、嬉しそうに話す。そして虚空に向かって煙草の煙をゆっくり吐き出す。
美煙「私久々に人間見てびっくりしちゃってさ、怖くてコッソリ見てたんだ、そしたら妖怪の差し出した食事を変な顔しないで当たり前のように全部食べちゃったの、そしたらみんな大盛り上がり、名のある神様の嫁ってこともあったけどね、まだこんな人間居るんだぁって嬉しくなっちゃった」
人間の嫁ねぇ・・
タツキ「昔よく童話で聞いた話だな、人間の女がホレた妖怪か神様の男に嫁入りする話は」
新しい煙草に火を付ける。それから煙を吐く、しかしまあ現実にそんなことあるなんて・・なんて言ったっけ?事実は小説より奇なり?
美煙「あ、お嫁さんは男の人だよ」
タツキ「はい?男が嫁?どゆこと?」
美煙がうーーーーーんと考え込むポーズをとり固まる
美煙「人間はお嫁さんっていえば女の子が普通みたいなんだけど、妖怪や神様の場合ちょっと事情がちがくてぇ、妖怪が女でも男でも人間を気に入って守るって決めた場合人間はお嫁さんになるのよ」
ほぁー、よくわからんが男が花嫁衣裳着るのか・・よく嫁入りしたなぁ
タツキ「何にしてもその男の人、度胸あるなぁ・・こっちでの生活捨てていくなんて」
ぽわ~と煙草の煙で輪っかを作る。美煙があむあむと食べる。だから食うなっつーの、せっかく上手くできたのに
美煙「タツキちゃんもこっち捨てて離界くるー?」
笑顔だがなんか獲物を狙う目でこっちをまっすぐ見つめてくる美煙
タツキ「こっちの生活に困ったら頼むわ」
煙草を吸いながらそう答える。うん!そうなったら連れてくね~!と元気に答える美煙を後目に外で降っている雨の音に私は耳を澄ました




