表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、王国が私を失って崩壊しました。英雄辺境伯に攫われて溺愛されています  作者: 夜炎 伯空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/11

10話『元婚約者が泣いて謝っても、もう遅い』

「王都で暴動拡大! 税務局は機能停止! 役所は封鎖されています!」


 騎士の声が廊下を走る。


 その声は焦っているのに、どこか現実味がなかった。


 まるで遠い国の話を聞かされているようだった。


 ただ一人だけが、それを現実として受け止めている。


 アスラ王太子。


 だがその肩書は、すでに形だけのものになっていた。


「……戻ってくれ」


 声は掠れていた。


 命令ではない。


 祈りだった。


「戻ってくれ、エレノア……!」


 一歩、踏み出す。


 その動きは遅い。


 重い。


 何かに追いつこうとして、追いつけない人間の歩き方だった。


「国が……もう持たない……」


 そこで言葉が途切れる。


 それ以上言えば、自分が崩れると理解していた。


 私は、その姿をただ見ていた。


 怒りはない。


 悲しみも、すでに遠い。


 ゆっくりと目を伏せる。


 ほんの一瞬だけ。


 そして、終わらせる。


「そうですか」


 それだけだった。


 その瞬間、過去は閉じた。


 アスラの顔が歪む。


「待ってくれ……!」


 叫ぶような声。


 だがそれは届く言葉ではなく。


 失ったことを確認する声だった。


 その横で、キリアが一歩前へ出る。


 空気が変わる。


 静かに、しかし確実に。


「王太子殿下」


 低い声。


 揺らぎがない。


「あなたの役割は、すでに終わっています」


 アスラの目が鋭くなる。


「な、なんだと……!」


 まだ“王太子”という形だけが残っている。


 キリアはそれを見ていない。


「彼女は戻る対象ではありません。選んだ側です」


 その言葉で、世界の構造が変わる。


 “呼び戻す側”と“戻る側”という関係が、ここで崩壊する。


 アスラの顔がわずかに歪む。


 理解ではない。


 崩壊だった。


「俺は間違っていたんだ……!」


 初めて、本音が零れる。


 遅すぎる本音だった。


「全部知ったんだ……!」


 一歩、また一歩。


 だが距離は縮まらない。


「お前がどれだけ……!」


 そこで言葉が切れる。


 それ以上は、自分の罪になると気付いたからだ。


 その沈黙の中で、私は静かに言った。


「もう遅いです」


 たった一言。


 刃ではない。


 裁きでもない。


 ただの“結果”だった。


 アスラの動きが止まる。


「エレノア……」


 その呼びかけは、もう名前ではなかった。


 過去を呼ぶ音だった。


 そのとき、キリアがもう一歩前へ出る。


「王都は崩れています」


 淡々とした声。


「原因は彼女の不在ではありません――依存です。あなたは失ってから、それに気付いた。ですが……」


 断定だった。


 そこに余白はない。


「彼女はすでに選んでいます」


 一瞬の間。


 そして言い切る。


「あなたではない側を」


 その言葉で、アスラの中の何かが完全に折れる。


 音はしない。


 ただ、形だけが崩れた。


 誰も動かない。


 やがて、私は背を向けた。


 迷いはない。


 キリアが並ぶ。


 距離が近い。


 しかし、触れない。


 それは意味のある距離だった。


「終わったな」


 キリアが言う。


 背後で何かが崩れる音がした。


 それでも二人は振り返らない。


 歩きながら、キリアが低く言う。


「戻れなくなりましたね」


 私は答えずに。


 ただ前だけを見ていた。


 その視線の先にあるものが、まだ何かは分からない。


 ただ一つだけ確かなことは――


 もう、後戻りはできないということだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ