216_蹂躙1
スアビニ村から少し北。
遭遇戦は未だ続いていた。
連合軍が徹底した籠城戦術を展開し、第五騎士団を削り続けているのだ。
「チッ……」
馬上のエミリーは、ごく小さくだが舌打ちを漏らしていた。
これからダオハン族との大きな戦いに臨まねばならないのに、百程度の相手にこの有り様である。
「遭遇戦で摩耗したくない状況です。もう切り上げても良いのでは?」
「エドガー。あそこに居るのは魔族と、それに与する者たちだ。この王国領でそれを捕捉しておきながら、見過ごすことは出来ない」
イェルドのそれは、ごく常識的な発言であった。
自国内を敵軍が移動しているのだ。魔族云々の話を抜きにしても、素通り出来るはずが無い。
正論を前に、エドガーは肩を竦めてみせた。
「申し上げます!」
そこへ騎士がやって来て報告を上げる。
エミリーにとって、決して無視出来ぬ報告を。
「南側の戦域で、ロルフ・バックマンの姿が確認されました!」
「え……?」
イェルドやこの場に居た騎士たちが、驚きに言葉を失っている。
エドガーだけは表情に変化が無く、そしてエミリーは血相を変え問い返した。
「確かなの!?」
下馬し、胸倉を掴まんばかりに騎士へ詰め寄るエミリー。
イェルドが間に入って諫める。
「落ち着けエミリー!」
「間違い無いのね!?」
「は、はい。確かにロルフ・バックマンであったと」
敵将はロルフだった。
たまたま遭遇した敵軍の中に、彼が居たのだ。
呆けたように立ち尽くすエミリーの隣で、イェルドはやや苦々しい表情を見せた。この兵力差で苦戦を強いられている理由を知り、それに一瞬納得してしまったことが悔しかったのだ。
また、エミリーにも悔しい思いはあった。
あの魔法剣が効果を為さなかった時、どうして気づかなかったのか。
あれは魔法を消失させられたのだ。
そのような芸当を可能とする人物が、ほかに居るはずも無いのに。
「ロルフはまだ敵陣に?」
「いえ、南側の斜面を下りて行きました。あの村に向かったものと思われます」
騎士が指さす先、高台を下りた場所に農村がある。
地図によると、スアビニ村というらしい。
「さっき、どこの隊かは分からないが、騎士たちがあの村へ入っていったな」
それが何を意味するのか、あの村に何があるのか。いや、誰が居るのか。
何となく想像はつくが、イェルドは、目にした事実を述べるに留めた。
一方、エミリーは落ち着いていられない。
「イェルド。ここの指揮は任せるわ」
「何?」
言うやエミリーは馬に乗り、即座に走らせる。
行く先は当然、スアビニ村だ。
「エミリー!? おい!!」
あまりに馬鹿げた行動。
珍しく、イェルドの叫び声にはエミリーへの怒気が含まれていた。
「行かせてあげれば宜しいかと」
「何を言っているんだエドガー!」
「イェルドさん。指揮権を預けられた以上、戦いに目を向けなければ」
全速で駆け出したエミリーの姿は、すでに遠ざかっている。
あの様子では、追い縋って説得したところで、どうにもならないだろう。
騎士たちは呆気にとられている。
イェルドは、嘆くように額へ手をやった。
エドガーの顔に浮かぶ微かな笑みには、誰も気づかない。
◆
「やはり私は行く」
「駄目です! 隠れててください!」
外に出ようとするエステルを、エイラは必死に引き留める。
しかしエステルとしては、大人しく隠れてもいられない。
敵は手段を選ばぬ者たちなのだ。
放っておけば、村人に害を為すこともあり得る。
「出て行けば殺されます!」
「そうかもしれない。だが……」
エステルは冷静な戦術家である。勝ち目の無い戦いはしない。
深手を負っているうえ丸腰の身で敵前へ出ていくなど、本来ならあり得ぬ振る舞いである。
しかし、賢いフリをして犠牲を正当化するようなことは、もう御免だった。
愚かかもしれないが、逆らえぬ本音がそこにある。
「すまないエイラ。私は行かせてもらう」
傷だらけの身でも、若い村娘に力負けするエステルではない。
エイラを押し退け、木戸に手をやった。
同時に、その木戸が開く。外から開けられたのだ。
彼女の決意を嘲笑う表情でそこに立っていたのは、三人の騎士だった。
「おっ、居たな」
騎士はいずれも体格が良く、下卑た笑顔を浮かべている。
そして品定めをするように、エステルの身体に視線を這わせた。
「お前は……確かブロル。後ろの二人も見た顔だな」
「おお、知っていてくれたとは光栄だ。何千人も部下が居るのにな」
可能な限り部下の顔と名を覚えようとするエステルである。
このブロルのことも、おぼろげに記憶していた。
だが、それだけだ。
彼の性根に気づけなかったことを、エステルは悔やむ。
眼前の男がどういう人間なのか、向けて来る表情から明らかであった。
「殺っちまう前に楽しませてもらうぜ」
言って、エステルの喉を掴み、そして奥へ放り投げた。
エステルは壁にぶつかり、そのまま床へ倒れる。
「ぐっ! げほっ!」
彼女が咳き込む姿を見て、ブロルは心の底から楽しそうに笑った。
そして黄色い歯を剥き出しに言う。
「よし、それじゃあ脱げ」
「……くたばれ!」
エステルの返事は、まさにブロルの望んだものであった。
そうでなければいけない、と満足げに相好を崩す。
こういう女を組み伏せることにこそ、無上の悦びを感じるのだ。
ブロルは、浮きたつ心と踊るような足取りでエステルへ近づき、その腹を蹴り上げた。
「がはっ!」
「いい声だ! もう一ついこう!」
「ごふぅっ!!」
硬い軍靴がエステルの腹にめり込む。
第一騎士団の一員であるブロルは、間違いなく強者であり、その蹴りも強力であった。
だがエステルは、それを受けて蹲ることも出来ない。
ブロルが彼女の髪を掴んで引き上げたのだ。
「ぐ……あ……!」
「綺麗な髪だなあ。お前らもそう思うだろ?」
「思う思う。こういうのを汚したいんだよね」
「うははは! 同感っすよ!」
ブロルの仲間たちも、下劣な品性の持ち主であるようだ。
エステルは怒りに歯を噛みしめ、ブロルの腕を掴んだ。
そして魔力を込め、握りしめる。
「くくっ」
ブロルは嬉しかった。
身に着けた銀装備に魔力を通し、充分に防御しているはずの彼だが、いま腕に痛みを感じている。
満身創痍であっても、やはりエステル・ティセリウス。
なお強さを失っていない。
それを折るのが最高に愉しいのだ。
ブロルは髪を掴んだ腕に力を込め、再度エステルを投げる。
後頭部を壁に打ちつけ、床に崩れるエステル。
ずいと近寄ると、ブロルはエステルの衣服へ手をかけた。
そして思い切り引きちぎる。
「……っ!」
エステルは、村人より貸し与えられた簡素な寝間着だけを身に着けていた。
それが破かれ、布の切れ端になっていく。
男たちの前に、乳房が露わになった。
「おおーう、でかいっすね」
「いつもそんなのを鎧で押さえつけてたのかい」
辱めるように言う仲間たちに、ブロルは笑みを張り付けた顔で告げた。
「下も剥くぞ」
「へへ……オーケーっす!」
仲間たちがエステルの手足を押さえ、床に縫い付ける。
そしてブロルは、彼女の下衣へ手をかけた。
三日月に歪ませた唇の間で、粘ついた唾液が糸を引いている。
仲間たちは、ぎらぎらと目を光らせていた。
「団長殿! どんな気分でありますか?」
ブロルの問いに、エステルは何も答えない。
ただ瞳にすべての力を込め、目の前の男を睨みつけた。
その視線を受けて破顔すると、ブロルは肌着ごと下衣を引き下ろす。
「……っ!」
「はっは! こっちも髪と同じ色だな!」
「しかし、見事に傷だらけっすねー。勿体ねえ」
一糸纏わぬ姿にされてしまったエステル。
仲間の男が言ったとおり、その身体は傷だらけであった。
「胸んところのそれなんか、なかなかキモイね」
ざくりと胸を一文字に走る傷を指さし、彼らは嘲笑する。
無理やり衣服を剥ぎ取ったうえ、その言い種。
残忍と言うほか無いが、エステルは悲しみに耐える。そして、なおも強く睨み返した。
押さえつけられたまま動けずとも、眼で抗っていた。
そんな様に舌なめずりをし、ブロルは手を伸ばすと、白い乳房を鷲掴みにした。
節くれだった指の間から、柔らかい肉がはみ出てくる。
「教えてくれよ。俺らみたいのにこんな目に遭わされて、どんな気持ちだ? ん?」
愉悦に歪むブロルの顔。善性のかけらも感じられない。
彼は、エステルを逃さず組み伏せていた。
「無敵の英雄サマが俺の下で何も出来ねえ。楽しいぜ、本当によお!」
ブロルは、他者を辱め、痛めつけることに性的な快楽を覚える男である。
第一騎士団に潜り込む前は、娼婦への暴力が原因で、幾つもの娼館を出入り禁止になっていた。
だが、彼はそれを嘆いていない。娼婦を殴ることに、もう飽きたのだ。
もっと上等な存在をこそ踏みつけたい、と願っている。
恐らく娼婦たちは彼より下等などではないが、ブロルはそう思わない。
そして、もっと強く高貴な者を貶め、屈服させたい。
高みに居る者を引きずり下ろし、踏みにじり、尊厳を奪いたい。
そいつが美しければなお良い。
美しい顔が屈辱に歪む様は、何よりブロルを興奮させるのだ。
よってエステル・ティセリウスはまさに、最高の獲物。
歯茎を剥き出しに、満面の笑みを見せるブロルであった。
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