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煤まみれの騎士  作者: 美浜ヨシヒコ
第六部
216/217

216_蹂躙1

 スアビニ村から少し北。

 遭遇戦は未だ続いていた。

 連合軍が徹底した籠城戦術を展開し、第五騎士団を削り続けているのだ。


「チッ……」


 馬上のエミリーは、ごく小さくだが舌打ちを漏らしていた。

 これからダオハン族との大きな戦いに臨まねばならないのに、百程度の相手にこの有り様である。


「遭遇戦で摩耗したくない状況です。もう切り上げても良いのでは?」


「エドガー。あそこに居るのは魔族と、それに与する者たちだ。この王国領でそれを捕捉しておきながら、見過ごすことは出来ない」


 イェルドのそれは、ごく常識的な発言であった。

 自国内を敵軍が移動しているのだ。魔族云々の話を抜きにしても、素通り出来るはずが無い。

 正論を前に、エドガーは肩を竦めてみせた。


「申し上げます!」


 そこへ騎士がやって来て報告を上げる。

 エミリーにとって、決して無視出来ぬ報告を。


「南側の戦域で、ロルフ・バックマンの姿が確認されました!」


「え……?」


 イェルドやこの場に居た騎士たちが、驚きに言葉を失っている。

 エドガーだけは表情に変化が無く、そしてエミリーは血相を変え問い返した。


「確かなの!?」


 下馬し、胸倉を掴まんばかりに騎士へ詰め寄るエミリー。

 イェルドが間に入って諫める。


「落ち着けエミリー!」


「間違い無いのね!?」


「は、はい。確かにロルフ・バックマンであったと」


 敵将はロルフだった。

 たまたま遭遇した敵軍の中に、彼が居たのだ。

 呆けたように立ち尽くすエミリーの隣で、イェルドはやや苦々しい表情を見せた。この兵力差で苦戦を強いられている理由を知り、それに一瞬納得してしまったことが悔しかったのだ。


 また、エミリーにも悔しい思いはあった。

 あの魔法剣が効果を為さなかった時、どうして気づかなかったのか。

 あれは魔法を消失させられたのだ。

 そのような芸当を可能とする人物が、ほかに居るはずも無いのに。


「ロルフはまだ敵陣に?」


「いえ、南側の斜面を下りて行きました。あの村に向かったものと思われます」


 騎士が指さす先、高台を下りた場所に農村がある。

 地図によると、スアビニ村というらしい。


「さっき、どこの隊かは分からないが、騎士たちがあの村へ入っていったな」


 それが何を意味するのか、あの村に何があるのか。いや、誰が居るのか。

 何となく想像はつくが、イェルドは、目にした事実を述べるに留めた。

 一方、エミリーは落ち着いていられない。


「イェルド。ここの指揮は任せるわ」


「何?」


 言うやエミリーは馬に乗り、即座に走らせる。

 行く先は当然、スアビニ村だ。


「エミリー!? おい!!」


 あまりに馬鹿げた行動。

 珍しく、イェルドの叫び声にはエミリーへの怒気が含まれていた。


「行かせてあげれば宜しいかと」


「何を言っているんだエドガー!」


「イェルドさん。指揮権を預けられた以上、戦いに目を向けなければ」


 全速で駆け出したエミリーの姿は、すでに遠ざかっている。

 あの様子では、追い縋って説得したところで、どうにもならないだろう。

 騎士たちは呆気にとられている。

 イェルドは、嘆くように額へ手をやった。


 エドガーの顔に浮かぶ微かな笑みには、誰も気づかない。


 ◆


「やはり私は行く」


「駄目です! 隠れててください!」


 外に出ようとするエステルを、エイラは必死に引き留める。

 しかしエステルとしては、大人しく隠れてもいられない。

 敵は手段を選ばぬ者たちなのだ。

 放っておけば、村人に害を為すこともあり得る。


「出て行けば殺されます!」


「そうかもしれない。だが……」


 エステルは冷静な戦術家である。勝ち目の無い戦いはしない。

 深手を負っているうえ丸腰の身で敵前へ出ていくなど、本来ならあり得ぬ振る舞いである。

 しかし、賢いフリをして犠牲を正当化するようなことは、もう御免だった。

 愚かかもしれないが、逆らえぬ本音がそこにある。


「すまないエイラ。私は行かせてもらう」


 傷だらけの身でも、若い村娘に力負けするエステルではない。

 エイラを押し退け、木戸に手をやった。

 同時に、その木戸が開く。外から開けられたのだ。

 彼女の決意を嘲笑う表情でそこに立っていたのは、三人の騎士だった。


「おっ、居たな」


 騎士はいずれも体格が良く、下卑た笑顔を浮かべている。

 そして品定めをするように、エステルの身体に視線を這わせた。


「お前は……確かブロル。後ろの二人も見た顔だな」


「おお、知っていてくれたとは光栄だ。何千人も部下が居るのにな」


 可能な限り部下の顔と名を覚えようとするエステルである。

 このブロルのことも、おぼろげに記憶していた。

 だが、それだけだ。

 彼の性根に気づけなかったことを、エステルは悔やむ。

 眼前の男がどういう人間なのか、向けて来る表情から明らかであった。


「殺っちまう前に楽しませてもらうぜ」


 言って、エステルの喉を掴み、そして奥へ放り投げた。

 エステルは壁にぶつかり、そのまま床へ倒れる。


「ぐっ! げほっ!」


 彼女が咳き込む姿を見て、ブロルは心の底から楽しそうに笑った。

 そして黄色い歯を剥き出しに言う。


「よし、それじゃあ脱げ」


「……くたばれ!」


 エステルの返事は、まさにブロルの望んだものであった。

 そうでなければいけない、と満足げに相好を崩す。

 こういう女を組み伏せることにこそ、無上の悦びを感じるのだ。

 ブロルは、浮きたつ心と踊るような足取りでエステルへ近づき、その腹を蹴り上げた。


「がはっ!」


「いい声だ! もう一ついこう!」


「ごふぅっ!!」


 硬い軍靴がエステルの腹にめり込む。

 第一騎士団の一員であるブロルは、間違いなく強者であり、その蹴りも強力であった。

 だがエステルは、それを受けて蹲ることも出来ない。

 ブロルが彼女の髪を掴んで引き上げたのだ。


「ぐ……あ……!」


「綺麗な髪だなあ。お前らもそう思うだろ?」


「思う思う。こういうのを汚したいんだよね」


「うははは! 同感っすよ!」


 ブロルの仲間たちも、下劣な品性の持ち主であるようだ。

 エステルは怒りに歯を噛みしめ、ブロルの腕を掴んだ。

 そして魔力を込め、握りしめる。


「くくっ」


 ブロルは嬉しかった。

 身に着けた銀装備に魔力を通し、充分に防御しているはずの彼だが、いま腕に痛みを感じている。

 満身創痍であっても、やはりエステル・ティセリウス。

 なお強さを失っていない。


 それを折るのが最高に愉しいのだ。

 ブロルは髪を掴んだ腕に力を込め、再度エステルを投げる。

 後頭部を壁に打ちつけ、床に崩れるエステル。

 ずいと近寄ると、ブロルはエステルの衣服へ手をかけた。

 そして思い切り引きちぎる。


「……っ!」


 エステルは、村人より貸し与えられた簡素な寝間着だけを身に着けていた。

 それが破かれ、布の切れ端になっていく。

 男たちの前に、乳房が露わになった。


「おおーう、でかいっすね」


「いつもそんなのを鎧で押さえつけてたのかい」


 辱めるように言う仲間たちに、ブロルは笑みを張り付けた顔で告げた。


「下も剥くぞ」


「へへ……オーケーっす!」


 仲間たちがエステルの手足を押さえ、床に縫い付ける。

 そしてブロルは、彼女の下衣(かい)へ手をかけた。

 三日月に歪ませた唇の間で、粘ついた唾液が糸を引いている。

 仲間たちは、ぎらぎらと目を光らせていた。


「団長殿! どんな気分でありますか?」


 ブロルの問いに、エステルは何も答えない。

 ただ瞳にすべての力を込め、目の前の男を睨みつけた。

 その視線を受けて破顔すると、ブロルは肌着ごと下衣を引き下ろす。


「……っ!」


「はっは! こっちも髪と同じ色だな!」


「しかし、見事に傷だらけっすねー。勿体ねえ」


 一糸纏わぬ姿にされてしまったエステル。

 仲間の男が言ったとおり、その身体は傷だらけであった。


「胸んところのそれなんか、なかなかキモイね」


 ざくりと胸を一文字に走る傷を指さし、彼らは嘲笑する。

 無理やり衣服を剥ぎ取ったうえ、その言い種。

 残忍と言うほか無いが、エステルは悲しみに耐える。そして、なおも強く睨み返した。

 押さえつけられたまま動けずとも、眼で抗っていた。


 そんな(さま)に舌なめずりをし、ブロルは手を伸ばすと、白い乳房を鷲掴みにした。

 節くれだった指の間から、柔らかい肉がはみ出てくる。


「教えてくれよ。俺らみたいのにこんな目に遭わされて、どんな気持ちだ? ん?」


 愉悦に歪むブロルの顔。善性のかけらも感じられない。

 彼は、エステルを逃さず組み伏せていた。


「無敵の英雄サマが俺の下で何も出来ねえ。楽しいぜ、本当によお!」


 ブロルは、他者を辱め、痛めつけることに性的な快楽を覚える男である。

 第一騎士団に潜り込む前は、娼婦への暴力が原因で、幾つもの娼館を出入り禁止になっていた。

 だが、彼はそれを嘆いていない。娼婦を殴ることに、もう飽きたのだ。

 もっと上等な存在をこそ踏みつけたい、と願っている。

 恐らく娼婦たちは彼より下等などではないが、ブロルはそう思わない。


 そして、もっと強く高貴な者を貶め、屈服させたい。

 高みに居る者を引きずり下ろし、踏みにじり、尊厳を奪いたい。

 そいつが美しければなお良い。

 美しい顔が屈辱に歪む(さま)は、何よりブロルを興奮させるのだ。


 よってエステル・ティセリウスはまさに、最高の獲物。

 歯茎を剥き出しに、満面の笑みを見せるブロルであった。


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今回も大幅加筆修正!
Web版では出番の無かった人気キャラも登場!
どうぞよろしく!

8巻カバー


― 新着の感想 ―
傷だらけのエステルは同じく傷だらけのロルフの隣に立つに相応しいヒロインだと思った
胸のキズを違和感なくロルフに見せるための演出だと思いたい。
うーん、もう少し女性も読んでいること配慮してほしいかな
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