5
エレナ視点に戻ります
食堂は昼時らしく賑わっていた。騎士達の笑い声や食器のぶつかる音。焼き立てのパンと肉料理の香り。そんな騒がしい空間の中で、私は向かい側に座るレオンさんを見つめながら、内心で大混乱していた。
(やばい。
普通にランチ一緒にしてる……!)
しかも真正面。
近い。
近い近い近い。
黒髪がさらっと揺れる度に格好いいし、眼鏡を外して水を飲む仕草まで様になってるし、長い指でナイフを持つだけで絵になる。
なんなのこの人。
顔が良すぎる。
私がぽかんと見つめていると、レオンさんが怪訝そうに眉を寄せた。
「……先程から、ずっとこちらを見ていませんか?」
「っ!? み、見てません!」
「見てます」
即答だった。
(うっ。だって顔が良いから……!)
気まずさを誤魔化すように、私は勢いよく口を開いた。
「ご、ご趣味は!?」
「は?」
レオンさんが完全に虚を突かれた顔をした。
「いやその! こういう時の定番かなって!」
「こういう時?」
「お見合いとかでよくあるじゃないですか!」
言った瞬間。
ゴホッ、とレオンさんが盛大にむせた。
「あっ、だ、大丈夫ですか!?」
「……誰と、誰が、お見合いです?」
低い声で返されて、私はハッとした。しまった、完全に失言だった。
「ち、違います! 変な意味じゃなくて!」
慌てた瞬間。恥ずかしさで顔が赤くなる、頬が熱い。
なんで毎回こうなるの!?
レオンさんは呆れたようにため息を吐きながら、スープを口に運んだ。
「……それで? 趣味、でしたか」
「あっ、はい!」
しまった、流されてしまった。
でも普通に答えてくれるらしい。
やった。
「読書です」
「わ、素敵!」
思わず身を乗り出した。本読むイケメンとか絶対似合う。レオンさんが少しだけ目を細める。
「……そうですか?」
「はい! どんな本を読むんですか?」
「歴史書とか、政治関係とか」
「うわぁ、頭良さそう!」
「いや実際そういう仕事なので……」
「格好いい……」
ぽろっと本音が漏れた。
レオンさんがぴたりと動きを止める。
「あ」
やばい。また思ったことそのまま言った。
「えっと、その! 知的な人って素敵だなって!」
慌てて言い直す。するとレオンさんは数秒黙った後、小さくため息を吐いた。
「……あなた、距離感がおかしいって言われません?」
「最近ちょっと言われます」
「最近なんですね……」
なんだろう。呆れてるのに、前よりちょっと優しい気がする。私は嬉しくなって、さらに質問を続けた。
「休日は何してるんですか?」
「仕事ですね」
「うわぁ……」
「その反応やめてもらえます?」
「いや、働きすぎじゃないですか!? 休んでください!」
「騎士団の書類量を見たことあります?」
「あっ」
ある。めちゃくちゃある。私はスン……と真顔になった。
「……いつもお世話になっております」
「本当ですよ」
レオンさんが呆れたように言う。でもその口元が少し笑っていて、私はまたドキドキした。
(うわ、笑った顔も好き……)
やばい。ずっと見てしまう。
「……本当に見ますね」
「っ」
またバレた!
レオンさんがコーヒーカップを持ちながら、じっとこちらを見る。
「そんなに珍しい顔ですか」
「え?」
「あなた、最初からずっと俺の顔ばかり見てるでしょう」
ド直球だった。私は完全に固まった。だってその通りだから。
「いやその……」
誤魔化せない。どうしよう。でもここで否定するのも変だ。私は恐る恐る口を開いた。
「……だって、格好いいので」
カタカタ…
テーブルの塩瓶が震え始めた。
「あっ!!」
やばい!
慌てて押さえる。
レオンさんが片手で顔を覆った。
「……だから無自覚でそういう事言うの、やめてもらえます?」
「えっ!?」
「いやもう本当に……」
深いため息。でもよく見ると耳が少し赤い。
えっ。
(照れてる……!?)
その事実に、今度は私の心臓が爆発しそうになった。やばい。イケメンが照れてる。しかも私の言葉で。
無理。
嬉しい。
また顔が熱い。
私が机に突っ伏しそうになっていると、レオンさんが呆れたように声を落とした。
「……そんなに顔が重要ですか?」
「重要です」
即答だった。
レオンさんがぽかんとした顔をする。
「即答します?」
「だって顔良いじゃないですか!」
「そんな堂々と言われたの初めてなんですが……」
「えっ!? 嘘ですよね!?」
「本当です」
いやいやいや。こんなイケメンが今まで放置されてた!?ゾウ獣人どうなってるの!?私が本気で困惑していると、レオンさんが小さく笑った。
「……変な人ですね、本当に」
「えへへ」
褒められてない気がするのに、なんだか嬉しい。私はスープを飲みながら、こっそり頬を緩めた。
(レオンさんのこと、いっぱい知れちゃった……!)
読書好きで。
真面目で。
働きすぎで。
ちょっと呆れっぽくて。
でもちゃんと優しい。
しかも顔が良い。
最高では?
そんな風に能天気なことを考えていた私は、この時まだ知らなかった。
向かい側でレオンさんが。
(……なんなんだ、本当に)
と頭を抱えながら、自分の中に芽生えた好意を自覚し始めていた事を。
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