黄泉の想い人
「まぁ來、聞きなさい」
空国王が來を諭すように言う。
「黄泉も明日で20歳を迎える。20歳を迎えれば結婚を迫る名家のものが押し寄せてくる」
來はそれを聞いてつまらなそうな顔をする。
「つまり、俺が黄泉様の男除けになれという事ですか?」
「早い話がそういう事だな」
來はそれを聞いて盛大にため息を吐く。
「それなら光様に頼めばいいじゃないですか?」
頭を掻きながら來は言う……その様子は拗ねた子供のようだ。
「光……か」
「ええ……あの方なら王家の者、しかも先王空国王陛下の兄君であらせられる海国王の息子……黄泉様の従兄に当たる御方婚約をするとなれば誰もが納得し手も出される方はいないかと」
來は笑顔でそう伝える。これで自分が黄泉の専属従者になる事はないとタカを括っていた……というのもあるが。
來は目の前にいる黄泉の顔を覗き込む。黄泉の顔はほんのりと赤く色付いている。
(相変わらず……バレバレな事で)
そう、その光という人間を黄泉は好いている。來は黄泉の後髪に差されている薔薇を型どった簪に目を向ける。
去年黄泉が19歳になる時に光が黄泉に贈った物だ。
(黄泉様と光……お互い想い合ってるんだから付き合えば良いのに)
黄泉と光なら誰も文句を言わない……むしろ、祝福されるだろう。
真華王国の王女様に真華王国の国王の兄君の息子……。
こんなに結婚に向いている二人はいない。
來はこの国に来てからずっと二人を見てきたがこの二人なら生涯添い遂げ合う仲になったとしても上手くやっていくんだろうな、と黄泉の照れてる顔を見てぼんやりと思った。
「残念だが私は二人を結婚させる気はない」
だが、來の思惑と違って空国王は來が口にした考えを一蹴する。
「どうしてっお父様っ!!」
酷く傷付いた顔で父である空国王に悲痛な声で問いかける黄泉。
「そうだな……。お前には黙っていたが今この真華王国では2つの派閥に分かれている……。」
來はその言葉に目を瞑る。
「1つは、私の思想を信じてこの国に忠義を誓ってくれている……現国王派」
人差し指を立ててゆったり含みを乗せて語る空国王。
「そして前国王、海の息子……光を次の国王にさせようと目論み暗躍している前国王派……奴らはこの機にお前に刺客を差し向けるかもしれん」
「でもそれと光は無関係でしょっ」
空国王は娘の黄泉の言葉に首を横に振る。
「そうとは限らない」
断固としてそう告げる空国王に眉間に青筋を立たせ歯を食いしばる黄泉……そして
「もう知らないっ!!」
そう言い放つと來の脇を走って通り抜けていく。
「ハァ……黄泉には困ったものだ」
盛大に溜息を吐きながら空国王はそう口にする。
「それは、国王陛下……貴方様も同じでは?」
來は遠慮なしにそう口にする。
「來っ!! 少しは」
「構わないよ、慙」
片手を上げて慙を抑える空国王。
「良いんですか? 黄泉様怒らせちゃって」
空国王は來の言葉に苦笑する。
「よく分かってるな……ああなった黄泉は暫く口を聞いてくれない」
「恐れ多くも国王陛下……それでは言わない方が良かったのでは?」
慙が険しい表情で問いかける。
「だがいずれ知ってもらわなければならない。5年前……我が后であり、黄泉の母である鈴が殺されたのだから」
來は今でもその光景を覚えていた……というのも目の前で黄泉の母親である鈴が斬殺される瞬間を見ている。その殺した人間は來が殺した……当時10歳の子供がだ。
丁度それを思い返していたのか、空国王が來を見て微笑む。
「來……君のお陰で幸いにも黄泉は守れた。君には本当に感謝しかない」
深々と頭を下げる空国王。
「いやっ……どうか頭を上げてください。空国王っ!!」
そう言われて頭を上げた空国王。
「だから、20歳を迎えた黄泉の専属従者に來……。お前を充て、ゆくゆくは将軍にしてやるつもりだ」
來はその言葉を聞き驚愕する。そんな事をされたら、ただでさえ周りから日頃疎まれているのに将軍になどなったらより一層風当たりが強くなる。
「大変嬉しいですがやはり……俺は平民です。それに……」
「能無し……だからか?」
來は空国王が言い放った言葉に口を噤む。
「気持ちは分かるがそれ以上に結果を残している。誰も咎めはしない筈だ」
空国王の言葉に首を横に振る來。
「もう充分俺は国王陛下に良くしてもらいました。これ以上は罰が当たります」
今度は逆に來が深々と頭を下げる。
「せっかくのチャンスだったのにな」
慙の言葉に面を上げ声のした方向に顔を向ける來。
「黄泉王女とずっといられたのにな〜」
「……ばっ」
慙の言葉に顔を赤くする來。
「來……お前、そうだったのか?」
來の様子を見て驚く空国王。
「いやっあの……はい」
顔を真っ赤にしながら頷く來。
「ガハハハッ。ずっと隠してきたんですよ……コイツは」
威勢よく空国王に告げると來を見てニヤついた顔をする。
(師匠……後で覚えてろよ)
來は恥ずかしさから赤く火照った顔を慙に向ける。その顔を見て慙は盛大に笑う。
だが空国王は真面目な顔をしたまま、黙って來を見つめる。
「そうか……。だが來、その思いは」
來は空国王の言葉に頷く。
「ええ、分かってます。俺の思いは叶うことはない。それに……黄泉様の想い人は決まってますからね」
來は笑顔で答える。
(また痩我慢をして)
慙はその姿を見てそう思う。昔から來は隠し事をするとき必要以上に笑う。
「俺……黄泉様を探してきますね」
そう言って來は謁見広間を後にする。空国王は悲しげな表情を浮かべながら去っていく來の背中を見送った。




