21-17 踊ってみました
四月十日……ついに迎えた、アナザーワールド・オンライン一周年の日。
今日も今日とて、合同動画の参加者達がダンス練習の為に集まっていた。集まった場所は、クラン【無限の可能性】と【ルーチェ&オンブラ】が共同管理する[ギュールズ高原]だ。
とは言っても、一番の懸念事項であったダンスの振り付け……運営メッセージを見た参加者達は、解決の目処が立ったと考えている様だった。
「これでいよいよ、動画撮影に入れるか」
「ようやくって感じだな。まぁ、プロ級は無理でも……なぁ?」
そんな会話をしながら、参加者達はシステム・ウィンドウを操作していく。開く画面は、期間限定ショップのものだ。
「お誂え向きに、俺達が踊る曲もモーションデータがちゃんとあるな」
「まぁ、人気の楽曲だからね。ふむ、成程……【モーションプレイ】に登録できるモーションデータは、十まで……まぁ、そんな所だろう」
まずは一度、試してみよう。そんな提案を受けた一番パートの担当メンバーが、それぞれの配置に付く。
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【一番パート担当】
クラン【十人十色】ヒイロ・ハヤテ
クラン【騎士団連盟】アーク・ライデン
クラン【開拓者の精神】アーサー
クラン【導きの足跡】タイチ
クラン【無限の可能性】ヒューズ
クラン【ルーチェ&オンブラ】シモン・ロゴス
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「それじゃあ、ミュージックスタート!」
その合図と同時に、一番パートを担当する九人が【モーションプレイ】を発動。流れ出す音楽に合わせて、九人のメンバーがダンスの振り付けを忠実に再現し始めた。
「おお……!」
「ちゃんと、踊れてる……!」
「フッ……これが、深淵なるスキルの力……!!」
実際にダンスを踊っているメンバー達から、思わず感嘆の声が漏れていた。
プログラムに従って、動く身体。今まで間違えそうでビクビクしていた振り付けは、自信を持って踊っている様に見えているだろう。
実際に踊っている面々の反応は、手ごたえを感じている様に見える。
一方、その様子を見ている面々……彼等は、客観的な視点でダンスを見ている。そこで、違和感を感じていた。
確かに動きは滑らかで、一つ一つの動作にキレもある。振り付けが揃うべきタイミングも、コンマ単位でピッタリ一致するのは完璧だ。
だが——
「……なんか、動きが硬い……?」
「うん。動きは合ってるんだけど……踊らされている? みたいな」
「あぁ……それこそスキル名の通りに、ただ“再生してる”って感じだな」
そんな声が上がると、見ていたメンバーの視線が自然と“細部”へ向かい始める。
「あ、今の……腕の振りは合ってるのに、肘の抜きが無い……」
「うーん、重心の移動がなんか……一直線で、微妙な感じ?」
「一つ一つの動作が、繋がってない感じがしてるな。言い方が悪いけど、ロボっぽい」
曲の一番が終わり、BGMがそこで中断される。踊っていた当人達は、まだ違和感には気付いていない様子だ。
「なぁ、どうだった?」
タイチがエルリアに問い掛けるも、彼女の反応は微妙そうなものだった。
「あー、うーん……ちょっとこれは、そのまま使えないと思うかな……?」
思っていた反応と違ったからか、一番パートの面々は「えっ!?」と驚いた様子だった。
「え、でも……ちゃんと動いてたよな?」
「スキルオーブの動きだし、ミスは無かったと思ったんだが……」
困惑するタイチに、ヒューズも不思議そうな表情だ。
「そうねぇ……二番の担当の動きを視聴者側の視点で見れば、言いたい事がわかるんじゃないかしら」
フィオレの言葉に、一番パートの面々は難しい顔で頷いた。
完全に納得した訳ではないが、否定する理由も無い。
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【二番パート担当】
クラン【十人十色】ジン
クラン【騎士団連盟】ギルバート
クラン【開拓者の精神】オリガ・ラグナ
クラン【導きの足跡】ロビン・マックス
クラン【無限の可能性】カーマイン・ヴァーミリオン
クラン【ルーチェ&オンブラ】ネーヴェ
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二番パートの担当メンバーが前へと出て、軽く手足を解しながら、それぞれの配置へ。
「二番のメンバー、準備はいい?」
「あぁ……」
「とりあえず、やってみるか」
システム・ウィンドウを開き、モーションデータを選択。
一拍の間を置いて——
「ミュージック、スタート!」
再び音楽が流れ出すと同時に、二番パートのメンバー達の身体が一斉に動き出した。
やはり、キレ、タイミング、動作精度は完璧だった。
どれを取っても、一番パートと同様に整っている様に見える。
……だが、それだけだった。
「……あぁ」
「こういう事か……」
一つ一つの動きは、間違いなく正しい。だが、それだけだった。
ただただ、プログラム通りに動くだけ。そのせいで、踊り自体が機械的に思えてしまう。
そして、二番のサビが終わったタイミング。シルフィが音楽を止めようとするが、一人の少年が声を上げた。
「シルフィ殿! もうしばし、そのままで!」
そう声を掛けた少年に、踊っている面々……そして、その様子を見守っていた面々が視線を向けた。
「ジンくん?」
そんなジンの要請通り、二番のサビが終わって間奏へと入る。
そのまま二番パートのメンバーが、間奏の振り付けを再生する中……ジンの動きだけが、他のメンバーとは変わっていく。
「……あれ?」
誰かが、思わず声を漏らした。
同じ振り付け。
同じ【モーションプレイ】。
にも関わらず、ジンの動きだけ明らかに違う。
一つ一つの動きが、更に滑らかになっている。
そして振り付けが終わって次の振り付けに移る瞬間、停止と再生といった瞬間が消え去っている。
動き自体は、他のメンバーと変わらない。しかし、そこに”熱”を感じさせる。
それは……確かに”ダンスを踊っている”姿だった。
「うん、ジンさんの動き……なんか、自然に見えます!」
「そうね。まだ拙いところはあるけど……えぇ、ここまでの動きとは段違いね」
配信者であり、自分でダンスを踊る事もあるコヨミとフィオレも、その違いに気付いていた。
ここまでのメンバーのダンスは、ただスキルオーブ【モーションプレイ】を発動しただけだった。
だが、ジンは二番のサビが終わった所で……本当の意味で、ダンスを踊り始めていた。
……
ラストのサビに入る前、そこで二番パートのダンス実演が終わった。
まず、真っ先に側に居たメンバー……ギルバートが、ジンに問い掛けた。
「ジン、驚いたぞ! 君には、ダンスの才能もあったのかね?」
彼はそんな事を言いながら、少し表情に陰を残していた。ジンが目を見張る動きを見せたのにも関わらず、自分達の踊りはてんで駄目だと自覚していた様だ。
そんなギルバートに、ジンは苦笑を浮かべてみせる。
「ダンスの才能については、微妙な返事になるでゴザルな」
そう言って、ジンはこの場に集まった面々に視線を巡らせ……そして、口元を覆う≪闇狐の飾り布≫を下げた。それは、ジンの忍者ムーブをオフにするという事である。
「……皆、少し聞いて欲しい。この【モーションプレイ】、便利だけどそれだけでは踊らされるだけなんだ」
そう言って、ジンは参加者全体に視線を巡らせた。彼等は皆、思った成果が得られなかったせいか……少し、眉尻を下げている。
――それじゃあ、思い出して貰おう……踊るのはスキルじゃなく、自分自身だと。
「タイチさんに聞きたいんですが、戦う時って動きをスキルに任せます?」
そんな事を言われ、タイチは「そんな馬鹿な」と言わんばかりに肩を竦める。
「まさか! 動きを全てシステムのアシストに任せてたら、トッププレイヤーになんて……なれ、ない……?」
言葉の途中で、タイチの表情が変わる。
自分で言って、自分で気付いたのだ。
「えぇ、でしょうね。つまり、そういう事です」
そう言ってジンは、フッと笑みを浮かべた。
「……システムアシスト。そっか、あの動きはそういう事……」
「初めてAWOを始めたプレイヤーが、おっかなびっくりスキルを使った時を思い浮かべたら……あぁ、納得する事が出来るな?」
シンラとカイセンイクラドンがそう言うと、他の面々も真剣な表情で頷いた。
「そうか……つまり先程の我々は、大舞台における大切な試合で“全部オートにしている”ようなものだった……と、そういう事か。そう考えると……うわっ、怖ッ!!」
「ギル、口調が崩れているよ。ま、気持ちは解るけどね……成程、そう考えると腑に落ちた。道理でおかしいはずだよ」
「しかし、そうするとやっぱ練習あるのみだよな?」
「ま、そりゃそうだ」
「ふむ……それで、どこまでモノに出来るか……流石に、プロレベルは無理だろう?」
ラグナがそう言うと、雰囲気はまた重い空気になり始める。
「まぁ……一朝一夕ではなぁ……」
「限られた時間で、どこまでモノに出来るか……かぁ」
ジンの理論には、理解が及んだし納得が出来た。しかし、それだけだ。
結局、簡単な事ではない……それを、実感させられてしまっただけである。
だが、そうは思わない者も居た。
「……なぁ、ジン。つまり、この【モーションプレイ】って……」
ヒイロがジンにそう問い掛けると、ジンはフッと笑みを浮かべて頷いた。彼ならば、気付くだろうと思っていたのだ。
「うん、良い教材になるよね? どう、ハヤテ」
ヒイロの横に立つハヤテに視線を向けてみれば、彼は口元を歪めていた。
「ジン兄ってば、マジでストイックなんスから……でも、うん。それならいけるはずッスよ!」
【七色の橋】の三人が、何かを確信している。その様子を見た他の参加者達は、その顔に戸惑い……そして、期待の色を浮かべていた。
「横槍失礼する、【九尾忍者】。まだ何か、深淵に通ずる道が残されていると?」
「……? あっ、僕? 僕の事ですか?」
こういう時くらい、普通に喋って欲しい。そんな想いを抱きながら、ジンはシモンに向き直る。
「シモンさんも、覚えがありません? 武技やスキルを使いこなす為に、ひたすら実戦で使って身体に覚え込ませるって特訓」
「無論、熟知しているとも。我が拳は世の理をなぞりつつ、己が存在の証明を歴史に刻むべく磨いたもの。それはさながら、繰り返される争いの歴史を……」
「アッハイ、長くなりそうなのでそれくらいで。まぁ要するに、身体に覚え込ませるためのモノって思っておけば良いんじゃないかって話で」
「……えーと、それ、ホントに効果ある? 所詮、スキルの動きをなぞるだけになるんじゃないのか?」
オリガの疑問に、同じ意見のメンバーがちらほらいる様だ。参加者以外も、本当にそれで大丈夫なのか? と言いたそうな顔をしている。
よろしい、ならば実演だ。
「ん-、じゃあ……ちょっと、特訓の成果のお披露目って事で」
そう言うと、ジンは服に仕込まれている≪苦無≫を取り出した。
「ん?」
「おっ?」
「何で苦無?」
そんな困惑する面々に微笑みながら、ジンは≪闇狐の飾り布≫で口元を覆い直す。
「あっ……これはアレだな? 忍者ムーブだな?」
「そうッスね、これは忍者スイッチ入るッスね」
「ジンくん、もしかしてスーパー忍者タイムですか!?」
「え? あー、じゃあうん。スーパー忍者タイム、いざ開幕って事にして……鍛錬すると、こんなことが出来るでゴザルよ」
軽い調子でそう言うと、ジンは手に持ったゴールドコインを無造作に投げた。
「えっ?」
「んん?」
「いやいや、まさか……」
何をする気かは、薄っすら理解できた。しかし、そんな事を出来るのだろうかという考えが頭を過ぎる。
「はっ!!」
掛け声とともに投げた≪苦無≫は、空中に放り投げられたゴールドコインに命中。そのまま弾き飛ばされたゴールドコインは、天井近くのジンの頭上に飛び……
「疾!!」
更に放たれた≪苦無≫で、再び弾かれる。しかし、その方向はあらぬ方向……ジンの死角になる、背後へ飛んでいく。
「そこっ!!」
振り返り様に、手にした≪苦無≫を振るうジン。その瞬間に標的の位置を見定め、更に落下予測地点を予測。そのポイントに向け腕を揮うと同時に、スナップを利かせて≪苦無≫を投げ放つ。
放たれた≪苦無≫とゴールドコインが接触して、キンッという金属音が鳴り……そのままゴールドコインは、ジンの下へと飛んで来た。それを右手でつかみ取って、ジンは目を細めて笑う。
「ほら、練習を重ねればこんな風に……」
「「「「いやいやいや!?」」」」
何でも無い風に言うジンに対し、四方八方からツッコミが飛び交った。
「おかしいだろ!? 何だよ、アレ!! 忍者なの!? 忍者でしたね!!」
「今のは何だ、ジン!? スキルか!? また新しいスキルか!? ユニークスキルだろあんなの!!」
「背後に飛んだのに当てるとか、マジ何!? 未来視のスキルか何か!?」
そんな好敵手達の後ろで、シモンが何かポーズを取っている。
「驚いたぞ、【九尾忍者】……!! 貴殿、まさか……見えて居るのか!!」
「えっ、何を?」
思わずジンも、マジレスしてしまった。ちなみに、背後のコインの位置は目視しかしてない。
「先程も言った通り、これは鍛錬の成果でゴザルよ。【投擲の心得】で発動した武技の動きを、自分の身体に覚え込ませる。その反復練習の結果、投げるだけならばこの通りでゴザル」
「……そういえばジン君が≪苦無≫や≪手裏剣≫を投げる時、やけに狙いが正確だとは思っていたけど……」
「成程、修練の賜物だった……という訳か」
ライデンとアークが感心した様に言うと、ギルバートが真剣な眼でジンに向き直る。
「つまりこの【モーションプレイ】で、振り付けを覚えれば……」
「うむ、スキルに踊らされるんじゃなく、自分で踊る事が出来るでゴザルよ」
その一言に、参加者達の眼に光が宿った。
そもそも彼等はVR・MMOプレイヤー……根っからの負けず嫌いなのだ。
「面白いじゃねーか……スキルをモノにするってのは、俺等の得意分野だぜ」
「確かにな。そうでなければ、トッププレイヤーなどと名乗れまい」
「何度も踊って、身体に覚え込ませる……成程な、見て覚えるより実践的な教材って事か」
「踊らされるってのは、確かに違うもんな。よっし、やる気出て来た!」
再び参加者達は、一番パートと二番パートに分かれて配置につく。
「よし、まずは動きを覚える所だな! 自分で身体を動かすように、意識してみよう!」
「なぁ、フィオレさん? 悪いけど、動きを見てて貰えるか? ダンス出来る人のアドバイスが欲しいんだ」
「えぇ、ヒューズさん。私で良ければ」
「じゃあ、こっちはコヨミさんに頼んでも良いかい?」
「はーい、お任せです!」
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そうして始まる、ダンスの特訓。あーでもない、こーでもないと試行錯誤を繰り返し、何度もダンスを繰り返すジン達。
印象に残っていたサビの振り付けは、すぐに全員がスキルの動きに適応。全員で同時に踊っても、違和感が無い程のキレを見せていた。
問題はAメロやBメロ、間奏の動きだ。
「ふーむ、さっきよりは良いが……まだ少し、ぎこちなさがあるな」
「そうですね……ジンさんの言う通り、地道な反復練習を重ねるしか無いのでしょうか」
「あ、それなら一度、【モーションプレイ】抜きで踊ってみるでゴザルよ。どこまで自分が動きを覚えられているか、実感として解るでゴザル」
「おぉ、成程!」
「確かにそれなら、自分の不足点を洗い出せそうだな」
そんな中、システム・ウィンドウを操作していたシオンが、レンにそっと声を掛ける。彼女の言葉に頷いて、レンは仲間達に呼び掛けた。
「皆さん、早速ダンス系の動画が投稿され始めている様です。勿論、【モーションプレイ】を使った物が」
その横に立つシオンは、既にその動画を流す準備を進めていた。投稿者はクラン【中華連合】の代表者で、使用されている楽曲はジン達が練習しているものと同じである。
「おっと、被ったか……」
「ふぅん……どの程度のクオリティなのか、見てみない?」
「そうッスね、見てみるッスよ」
そうして、再生される動画。ジン達はそれを真剣に見て……そして、違和感を感じ取る。
「これが、スキルに踊らされたダンスなんだな……なんていうか、これじゃない感がヤバい」
「あぁ、そうだな。何て言うか、自分で踊ってるっていう感じが全く無いぜ」
「俺達も危うく、こんな動画を上げる所だったのか……」
動画が終わると同時に、その場にいた全員が深い溜息を吐いた。
「動きやタイミングは完璧だけど、一つの振り付けで完結して、そこから次の振り付けが再生されてるわね」
「ですね。だから一つ一つの動きに、連続性が無い……間が繋がってないです」
フィオレとコヨミの言葉に、ヒイロが「成程……」と頷く。
「逆に言えば、次の動きに自分から持っていけば……ちゃんと繋がった動きになると」
「えぇ、その通りね。【チェインアーツ】よりは、楽だと思うわよ?」
「あはは、それなら良かった」
そんな会話を聞いていたギルバートが、フッと笑みを浮かべて立ち上がる。
「さて、それじゃあ……我々は、”自分で踊る”為の特訓に戻ろうか」
同時にアーサーも、ニヤリと不敵な笑みを浮かべている。
「おう。他の連中がただ”再生している”だけなら、俺達は”自分で踊って”やろうぜ」
二人はそう言って、ジンに視線を向ける。その眼は「景気付けに、お前も何か言え」と言っている様に思えた。
「あー、それじゃあ……どうせなら、ここは一つ……」
苦笑気味だったジンの眼が、そこで……全力で走り出す時のものに変わる。
「皆で、最優秀賞を目指してみるでゴザルか」




