21-18 話が広がりました
ジン達がダンス特訓法を確立させた、その翌日。
合同企画の為に【開拓者の精神】の拠点である[アジュール湖畔]集まった面々は、謎の緊張感に襲われていた。
その原因はダンスの特訓が難航している訳でも、集まったメンバーの関係が悪い訳でも無い。
彼等の目の前で踊る九人の人影と、その状況を作り出したある人物のせいである。
「という事で、これが【モーションデザイン】で製作してみたモーションだ。配布されたものよりも、より実際の踊りを再現してみたよ!」
そう言って朗らかに笑うユージンは、ダンス参加者や支援者達に微笑み掛ける。とても爽やかで、清々しい笑顔だ。
そんなユージンの言葉に、集まった面々は動揺していた。
「……凄い、としか言いようが無い。他に何も言えない」
「あぁ、確かにモーションは凄い……完成度高いし、凄いんだけど……」
「その……ユージンさん? それ、何なんですか?」
「プレイヤーでも……PACでも無い……ですよね?」
問題はユージンでも、ダンスモーションでも無い。実際にそれを踊ってみせた、何かである。
九人……いや、九体の人型の何か。その見た目は、何故かスーパーで戦隊な感じだ。ダンスのモーションが九人用だからなのか、一人一人がスターな九人のレンジャーっぽい。
そしてそれらの頭上には、本来あるべきモノが無かった。
プレイヤーやNPC、モンスターでさえ、その頭上には必ずカラーカーソルが浮かんでいる。しかし九体の究極で救世主っぽい見た目の何かには、カラーカーソルが浮かんでいない。
実はその正体は、彼等も良く知っているものだった。
「あぁ、これかい? これはね、君達も持っているはずだよ? ≪天使の素体≫さ」
ユージンがそう言うと、タイチとエルリアが真っ先に反応を見せた。
「≪天使の素体≫……って、アレか!? 第五回イベントの!!」
「あぁ、あのマネキンみたいなヤツ!!」
驚いてみせる二人を見て、ユージンは機嫌良さそうに頷いた。彼は悪戯が成功した、子供の様な笑みを浮かべていた。
無事にネタばらしを成功させたユージンは、すぐに普段通りの穏やかな表情で詳細を説明し始める。
「どうやら≪天使の素体≫には、スキルオーブをセットできるらしい。そこで試しに【モーションプレイ】をセットしてみたら、ほらこの通り」
「スキルオーブを、セット出来る……へぇ……」
「実に興味深い……流石は【創造神】……」
どうやらユージンにまで、厨二称号が付与されていたらしい。しかし、他のものに比べると大分シンプルだ。シンプル・イズ・ベスト。
その話を聞いていたスカーレットは、興味を示して自分の≪天使の素体≫を取り出す。ユージンの物とは違い装備は無しで、名前通りの素体らしいマネキン状態だ。
「……本当だわ、スキルオーブをセット出来るみたい。セット出来るのは……一つまでみたいね?」
驚きを滲ませた彼女の言葉に、すぐ側で同じ様に≪天使の素体≫を確認していたセシリアも頷く。
「その様ですね……PACの物と同様、プレイヤーのシステム・ウィンドウ内で設定できるようです。でも、何も起きませんね……」
スキルオーブをセットしても、≪天使の素体≫はピクリとも動かない。
すると、シモンがセシリアに声を掛ける。
「女王よ、魂無き人形に命を宿す……その儀式に最も重要な聖遺物は、既にその手の内にあるはずだ」
「≪天使の核≫ですか? 既に装備してありますよ」
「万策尽きたか……」
思い付いた提案は既に実行されていた事を悟って、シモンは天を仰ぐ。ちなみにその視線の先にあるのは、ただの天井だ。
「諦めが早い」
「相変わらず、セシリアさんはよく解読できるな……」
そうこうしているメンバーから視線を外して、アークがユージンに歩み寄る。アークが一歩踏み出すと、空気がわずかに重くなった。
「少し質問があるのだが、良いだろうか」
「あぁ、何かな?」
低い声で投げ掛けられたその言葉を、ユージンは普段通りの飄々とした態度で受け止める。そんな二人の様子に、周囲の面々は口を噤んで耳を傾ける。
「俺達もいくつかの実験を行い、≪天使の素体≫について調査した。これはスキルオーブや装備品、第五回イベントの報酬品をセットする事が出来る」
どうやら【騎士団連盟】は、スキルオーブをセットする事が可能な事は気付いていたらしい。実際、先程【モーションプレイ】を装備させているという話題で、彼等は特に驚いた様子は見せていなかった。
ちなみにそれは、【開拓者の精神】と【導きの足跡】も同様だ。
「しかし、実際にこうして……躍らせるといった事は出来ていない。一体、どんな要素が必要なのか教えて貰う事は出来るだろうか。勿論、相応の報酬を用意するつもりだ」
そんなアークの言葉に、他の面々は息を呑む。
部屋の中は緊張感で満たされ、余計な口出しをする者は一人としていない。
そんな張り詰めた空気を気に留めず、ユージンはニッコリと微笑んだ。
「それは構わないよ。ただ、報酬は別に良いかな……いや、本当に大した事じゃないし」
そう言ってユージンは、セシリアとスカーレットに視線を向ける。
「セシリア君、スカーレット君。君達が装備させた、スキルオーブは何だい?」
そんなユージンの言葉に、二人は目を丸くし……そして、一つ頷いて答える。
「私が装備させたのは、【体術の心得】になります。恥ずかしながら、レベルは3になりますが」
「私のは【槍の心得】ね。ドロップしてからずっと、予備スロットに眠らせてたからレベル1よ」
「すぐに実演出来るのは、セシリア君の方だね。それじゃあ、セシリア君に質問だ。武技を発動する時に、必要なものは何かな?」
「え? あっ……もしかして!!」
全員がセシリアと、彼女の≪天使の素体≫に目を向ける。
「その場で、誰にも当たらない様に……【ナックル】!!」
セシリアが武技発動宣言をすると、≪天使の素体≫がその場で拳を振るう。彼女の指示通り、その拳は誰にも当たらずに空振りした。
「……こんな単純な事に、気付かないとは」
「恥ずかしながら、私も気付かなかったわ~」
アークが溜息を吐いて首を左右に振り、シンラが小首を傾げながら苦笑する。そんな二人の横で、カイセンイクラドンは真剣な様子で唸っている。
「もしかして、武器を持たせれば……≪天使の素体≫を、戦わせられるって事か?」
そんな彼の言葉に、ユージンは肩を竦めた。
「いいや、カイ君。そのままじゃあ無理だろうね、≪素体≫の耐久値は、お世辞にも高くない。洋画風に言うと、ただのカカシですな」
「日本語吹き替え版じゃあないか……」
「あ、知ってます。野郎オブクラッシャーの人ですよね」
「そうそう~私からも質問良いかしら、ユージンさん~?」
「あぁ、シンラ君。何かな?」
間延びしたシンラの言葉に、ユージンはリラックスした状態で首肯する。そんなユージンの様子を見たシンラは、少し視線を細めて口を開いた。
「第五回で手に入れられた≪天使シリーズ≫、四つが限度だったでしょう~? でも、ユージンさんは九つも持っている……これって、何でなのかな~って思ったの~」
そんな彼女の質問に、ユージンは「あぁ、それね」と頷いた。この質問も、彼の想定の範囲内だったのだろう。
「これはね、昨日の内に【取引掲示板】で購入しただけさ。用途が解らず、売りに出すプレイヤーが増えているらしい。売買が成立すると、売った側にはダイヤコインが入るらしいし、それ目当てかもね」
既出の情報では≪破損品≫シリーズを売るとダイヤコインが五枚貰えるが、≪天使の素体≫や≪天使の核≫は十枚らしい。恐らくは、期間限定アイテムだからだろう。
「あら~……貴重な品かもしれないのに、勿体ない事をするのねぇ~」
「あと余談だけど≪天使の素体≫の【取引掲示板】での相場は、一千万ゴールドコインらしいよ」
「……お高い買い物だったのね~」
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予想外の連続で、話が脱線どころか別路線に乗り換え状態だったが……本題はユージンが調整した【モーションプレイ】だ。
「公式掲示板の限定スレッドに、【モーションデザイン】で作成したモーションデータをアップロードしてある。ダウンロードして【モーションプレイ】にセットすれば使えるよ」
ユージンの言う”限定スレッド”とは、開く際にパスワードを入力しなければならないというスレッドだ。これは主に情報屋プレイヤーなどが、情報売買で使用している。トレード機能を使用して、報酬とパスワードを交換するという使い方が主流らしい。
ユージンの設定したパスワードを口頭で聞き、この場に集まった面々は限定スレッドを開く。そこには確かに、ユージンが作成した【モーションプレイ】用のデータがアップロードされている。
「……あの、ユージンさん?」
「うん? 何だい、アリアス君?」
「データ……なんか、たくさんあるんですけど」
ユージンの作ったデータは、今回の動画で使用する曲のものだけではなかった。
他にも、動画サイト等で人気の楽曲の名前が記載されたデータがあるのだ。それも各パート用に、いくつも。
スレッドをスクロールしても、中々終わりが見えない。明らかに、一晩で作った量ではない……ジェバンニも、一晩でやってくれない量だろう。
「多い多い多い!!」
「えっ、この曲もデータ作ったんですか!?」
「これ! この曲、私好きなやつ!!」
「待って? このデータ、ダンスパートごとにデータあるんだが!?」
「あっ、公式のに入ってなかった曲のデータまで!?」
歓喜や驚愕の声が上がる様子を、ご機嫌そうに見つめるユージン。そんな彼に、ミモリが問い掛けた。
「これ、全部ユージンさんが作ったんですか?」
「あぁ、勿論。昨夜の内に、一曲分は全てのデータを完成させてね……そこから、他の曲にも手を付け始め……テンション上がって、作りまくってしまったよ」
「やり過ぎですよ、ユーちゃん。もう、一度作り出したら止まらないんですから」
ケリィが困ったものだと言わんばかりに、彼にジト目を向ける。
チラッと見ただけでも、楽曲数は非常に多い。正直、これを一晩で作るなど人間業ではない。
すると、ユージンの下にギルドマスター達が集まって来た。
「ユージンさん、これ歌合戦やれる数あるんですけど!!」
「こ、このデータ……使っても良いんですか!?」
「流石にこのデータの数々を、無償提供という訳にはいかないだろう?」
「えーと、使用した分に対する報酬をお支払いすれば良いのかしら~?」
「この曲、今度踊ってみたいと思ってたやつなんですけど……その、配信で使う許可って、頂けますか!?」
流石にここで無償で良いと言っても、彼等は納得しないだろう。それが解っているので、ユージンはフッと笑みを浮かべながら、人差し指を一本立てる。
「じゃあモーションデータ一つにつき、一万ゴールドでどうかな。今回のイベントで、動画に使用した分だけで良いよ」
一万ゴールドコインは、高くもないが安くもない絶妙な金額だった。しかしユージンの言葉、その中に込められた本質……ギルドマスター達は、それに気付いた。
「……他にも、動画を作るきっかけ。これだけの量を用意したのは、その為か」
「さぁ、どうかな? そこまで口にする権限は、僕には無いからね」
カイセンイクラドンが真剣な表情でユージンを見るが、彼はそれに対しては明言しなかった。それは他の勢力に対する、干渉になると判断したからである。
「クランやギルドでモーションデータを使いたいと言うなら、さっきの報酬で構わないっていうだけさ。あと配信で使うのは良いけど、僕としてはジン君式特訓法の方をオススメするよ」
……
モーションデータ配布の熱が一度落ち着いたところで、フィオレが静かに口を開いた。
「今回の合同企画は、AWO一周年を盛り上げるって趣旨だったわよね? そこでちょっと、ギルマスの皆さんに提案があるのだけれど……」
彼女が言わんとするところは、ギルドマスター達も既に思い付いていたらしい。彼等はフィオレの言葉に、力強く頷いてみせた。
「言いたい事は、理解できている。ギルドやクランでも、動画を作るのはどうかって事だな?」
ヒューズがそう言って視線を巡らせれば、他のギルドマスター達は笑顔を浮かべていた。
「これだけのデータがあるならば、ギルド単位でやっても良いのではないか?」
「確かに、アークの言う通りだな。折角用意して貰ったデータだ、有効に使いたい」
ユージンが用意したデータの数から、六つのクランで終わらせるのは勿体ない。アークとカイセンイクラドンは、そう考えた様だ。
「それなら、この合同企画は最後にアップロードするのが良いのではないでしょうか?」
「セシリアさん~、それ良いわね~♪ 絶対に盛り上がるはずよ~」
「最後に一番インパクトがあるものが来ると、より盛り上がりますからね。俺も賛成です」
セシリアは各ギルドの動画を徐々にアップロードしていき、最後に合同企画動画を公開する事を提案。シンラとヒイロも、その方がよりインパクトを与えられると賛成した。
「クリムゾンにRAINで確認したら、【真紅】もやりたいって。で、もし良かったら……うちの方でやる楽曲、これを使わせて貰いたいな~と……」
スカーレットが提示したのは、錬金術で武装するアニメの主題歌だ。アニメ放映からかなりが経過しているものの、未だに動画サイトなどでは人気の曲である。
一番重要なのは、彼女達のギルド【真紅の誓い】にとって決して譲れない……タイトル的に凄くシナジーがある点だろう。
「そうだな、曲が被らない様にしたい所か。ふむ……シルフィ、ギルバート、ライデン。済まないが、俺はそちら方面に疎い。頼めるか?」
「じゃあ、ここは参謀の出番じゃないかい?」
「あぁ、そうだな。ライデン、君ならば出来る!」
「またそうやって、僕を酷使するんだから。じゃあギルとシルフィさんで、他のギルド……【聖印】と【絶対無敵】、【聖剣】の方に連絡しといてくれる?」
「皆~、やりたい曲はある~? それにクランのギルマスにも、声を掛けて~!」
「了解した、シンラ。では私が【庭園】に連絡を入れよう。アーサー、【朧月夜】の方を頼む」
「あぁ、姉ちゃん。【深緑】は……」
「私にお任せを、アーサーさん!」
「いやいや、そこは私が!」
「お兄ちゃん、私がやろうか?」
「……オリガ、よろしく」
「俺かよ!!」
「合同企画については、既に話はしてあるが……あいつら、参加するだろうか」
「まぁまぁ、あなた。とりあえず私は、リーリアさんに連絡しておくわ。タイチはユウシャ、エルはおでんさんに連絡してあげて」
「オーケー、トロさん」
「了解っ♪」
「それじゃあ、俺はブルースさんに連絡しときますよっと」
「えぇ、ありがとうロビン。よろしくね♪」
「【真紅】がその曲を選ぶなら、ウチはどうすっかな~」
「とりあえず、ギルドチャットでみんなの意見を聞いてみますね、ヒューズさん!」
「こういうのは、うちの得意分野ね! ステラ、ネーヴェ! 皆に連絡をして、曲を決めましょうか」
「あの、済みませんフィオレさん。私はこういうのに疎くて、アドバイスを頂ければと……」
「……セシーが手綱を握らないと、不安だものね。それじゃあ、一緒に考えましょうか」
更に盛り上がるギルドマスター達を横目に、ヒイロは【七色の橋】の面々を集める。今日は幸い、全員揃っているので丁度良い。
「まず、クラメンへの連絡をしようか。レンは【桃園】、シオンさんは【魔弾】を担当。ヒメは【ラピュセル】、ジンは【ふぁんくらぶ】でよろしく。ハヤテは【クロックワーク】に連絡を」
ヒイロが担当を割り振ると、指名されたジン達は笑顔で頷いてシステム・ウィンドウを開く。その様子を確認して、ヒイロは残るメンバーに視線を移した。
「で、うちのギルドは何の曲をやりたいか。そっちも決めないといけないし、意見があれば聞かせて欲しい」
すると、真っ先にセンヤが手を上げる。
「はいはい、ヒイロさん! 私、ノリが良い曲が良い!」
「ま、盛り上がりを意識するならそっち方面だな。他には?」
次に意見を口にしたのは、ナタクだ。
「話題性のある曲が良いと思います。タイトルだけでも、興味を惹かれる様な」
「確かに、見て貰えないと意味が無いもんな。ふむふむ、動画サイトで人気の曲から選ぼうか」
そうして意見を出している内に、他のギルドへの連絡も粗方完了。ギルドメンバー全員で、使用する楽曲を選定していく。
……
その後、希望曲が被ってしまうといった一幕があったものの、話し合いの末に曲の振り分けも完了。
そこから各自がモーションデータを手に入れて、【モーションプレイ】を実践教材にして振り付けを覚える手法……通称・ジン式特訓法でダンスの特訓に臨み始める。
ジンはギルド動画と合同動画の両方に出演するので、覚えるダンスが二つになるが……真剣に特訓をするうちに、ある程度の振り付けを覚える事が出来ていた。
そこで、ジンは他の面々の様子を見てみる事にした。これは”ある構想”の良い予行演習になると思ったからだ。
素体と並んで踊る者、画面を凝視する者、ステップを繰り返す者……その光景はまるで、ダンススタジオの練習風景みたいだ。
「ギルとロビンさんは、ほぼ完璧かな? オリガさんとラグナさんも、大分形になってる……って、マックスさんとカーマインさん、どうしました?」
疲れた様子で項垂れる二人は、ジンと一緒に二番パートを担当する【遥かなる旅路】のマックスと、【真紅の誓い】のカーマインだった。
声を掛けられた二人は、ジンに気付いて笑顔を見せる。だがその笑みには、力が感じられない弱々しいものだった。
「あぁ、ジン君か……いや、振り付けを覚えるのが難しくてな……」
「右からか左からか、解んなくなったりしてなぁ……思い出そうとしてたら、それでテンポが遅れてしまうんだよな」
どうやら二人は、躓いている様だった。肩を落とす二人の様子に、ジンは一つ頷いてみせる。
「僕で良ければ、アドバイス出来るかもしれません。少し、動きを見せて貰っても?」
そう言ってジンは、二人に柔らかい笑顔を浮かべてみせるのだった。




