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結局、そのまま1人で帰宅した。そして、家に帰ってからずっとスマホを気にしている。
「じゃあな、後でLINEするわ」
別れ際に良行がそう言ったから。でも、一向にLINEは来ない。数学の課題を終わらせても来ない。テレビを見ても来ない。夕食を食べても、お風呂に入っても来ない。
とうとう痺れを切らして、私からLINEをした。時刻は21時。パジャマでリラックスしている時だった。
『ねぇ、和美ちゃんを送った時、何話したの?』
回りくどい言い回しをする心の余裕は無かった。直球で聞いた。でも、既読は付かない。
まだ帰ってないとか無いよね?もう21時だし・・・。でも、もしかしたら・・・。
『人のモノ取るような女』
モナちゃんのその発言が、頭から離れない。
俯いて泣いてるみたいだった和美ちゃん。
良行は自分よりも弱そうな人には絶対的に優しい。例え鬱陶しいと思うような相手でも、泣いていたら優しく手を差し伸べると思う。それは、私の思う良行の好きな所の一つ。
その良行の好きな所を利用するみたいにして、和美ちゃんは私から良行を奪い取ろうとしているんだろうか。
だったら許せない。
私はスマホの画面を見た。相変わらず良行の既読は付かない。
それを確認して画面を一つ戻し、そして和美ちゃんとのトーク画面を開く。
確認しなきゃ気が済まない。和美ちゃんが、良行を奪おうとしているのかどうかを。
そう思って通話を押そうとした時だった。
スマホが震え、呼び出し音が流れた。
一瞬固まって画面を確認すると、私宛の通話。相手は残念ながら良行では無かった。和美ちゃんでも無い。
翔君だった。
出るかどうか少し迷い、でも結局出る。
「何?」
棘のある声でそう聞いた。昇降口でのモナちゃんとのやり取りを聞いてから、翔君にはなんだか胡散臭さを感じてしまっていたからだ。
『あ、瀬菜ちゃん?ゴメンねこんな時間に。ちょっと伝言。和美から』
それを聞いて、私はカチンと来る。
和美から。
言いたい事があるなら、和美ちゃんが直接掛けて来るべきじゃないだろうか。何でわざわざ翔君に言付けを頼むのか。意味がわからない。
『・・・あの、聞いてる?』
何も言わない私が聞いてないと思ったのか、そう確認して来る翔君。
「聞いてるけど」
『そ、良かった。あのね、今から昨日の場所に来て欲しいって言うんだ。分かる?学校の一階端の窓の無い倉庫』
予想外の内容だった。私は驚いて聞き返す。
「何で?」
『理由は来てくれたら説明するって。誠君とモナちゃんも呼んでる。あと、良行君も』
え?
スマホの前で思わず固まった。
『後でLINEする』
そう言ったのに、私からのメッセージに既読すら付けない良行。その良行が、和美ちゃんの誘いには乗ると言うのか・・・。
「・・・何で?」
私は、温度の無い声でそう聞いた。
その私の心情には全く気付かない声で翔君が言う。
『だから、理由は来てくれたら・・・』
「そうじゃ無い!違うよ!」
見当違いな事を言う翔君に向かって、私は声を荒げてしまった。
「何で?何で良行、和美ちゃんの誘いに乗るの・・・?」
言ってる途中で、涙が込み上げて来た。言葉の最後の方は、震えていたと思う。ショックを隠せない。翔君相手に隠す必要も無いとは思うけど。
『あっと、成程。そうか・・・ゴメン・・・』
向こう側で、何故か謝る翔君。
「何、謝ってるの・・・?」
震える声で、なんとかそう聞いた。
『いや、その・・・』
歯切れの悪い翔君。声の感じが、何かを迷っているみたいに感じられた。
『(やっぱり、こんなの良くない)』
「え?何か言った?」
小さな声で翔君が何かを言ったが、聞き取れなかった。
『瀬菜ちゃん、君達には悪い事をした。謝りたい。けど、お願い。とりあえず昨日の部屋まで来て欲しい。アレの思い通りにはさせないよ。約束する。だから、来て。お願い』
今度は翔君の声がしっかりと聞こえた。けれども、言っている意味はよく分からない。
何なの?
そう聞こうと思った時、またあの音がきこえた。
『パチン』
スマホの向こう側から。多分、翔君の側から聞こえたんだと思う。
この音、何なんだろう・・・。
『あぁ、呼んでる。行かなきゃ。とにかく、待ってる』
そう言い捨てるようにして、翔君は通話を切った。
話す相手のいなくなったスマホを、少しの間眺めていた。
行った方が、良いような気がする。
私は立ち上がって、パジャマから適当な私服に着替えた。
時刻は21時30分。適当な私服に着替えた私は、学校の正門の前に立っていた。
昨日は4人で通った夜の門を、今は私1人で通る。
心細い。でも、行こう。暗くて怖いけど、怖いのは苦手だけれど。
今行かなければ、いつも通りの日常には2度と戻れないような気がして仕方が無い。
勇気を出して、私は1人で暗い学校を進んで行った。
昇降口を通るが土足だ。これは昨日と一緒。階段は登らずに一直線に未使用の倉庫に向かう。これは、学校中を巡り歩いた昨日とは違う。
頼りない月明かりが廊下を薄く照らす。いつでもライトを付けられるようにしてスマホを握り締める。
怖い。怖くて泣きそう。
でも、進まなきゃ、絶対に後悔する。
荒くなりそうな呼吸を抑えながら、ビクビクと最初の角を曲がる。と、その時だった。
「良かった。もしかしたら来てくれないかと・・・」
「キ、キャァァァア!」
突然後ろから声を掛けられて、私は大きな悲鳴を上げてしまった。
「ちょっ!」
誰かが私の口を背後から塞ぐ。
わっ!捕まった!!
焦って暴れる私の耳元で、翔君の声が聞こえた。
「待って、僕だ。翔だよ」
へ?翔、君・・・?
その声を聞いて、私は暴れるのをやめて背後を見た。翔君だった。翔君が、私が大声を出さないように、強過ぎず弱過ぎずの微妙な力加減で口を押さえている。
私は、コクコクと何度も頷いて、翔君だと分かったからもう叫ばないよ、とアピールをする。それに答えるようにして、翔君もコクコクと何度も頷いて応えてきた。そのまま翔君は私から手を離して距離を取り、お互いに見つめ合いながら、落ち着くまでそのコクコクを続けた。
心臓がバクバクしていた。コクコクしながらそのバクバクを収めると、私は深呼吸をして翔君に向き直った。
「あのさ、急に声とか掛けて来ないでくれる?驚くから」
「ゴメン、悪かった」
申し訳無さそうにそう言う翔君。謝って、そして少し笑った。
「意外と怖がりなんだね」
言われて少しムッとなるが、すぐにあれ?と思う。
私の怖がりは有名だった。何かとすぐに驚き、怖がり、悲鳴を上げがちなのだ。だから、友達はおろかそこまで仲の良くない知り合い程度の子も知ってる。
『意外と怖がりなんだね』?
引っ掛かりを覚える私に気付かずに、翔君は先に立って歩き始めた。
未使用の倉庫へと向かって。
「歩きながら説明するよ」
前を向いたままでそう言う。
あれ?説明は倉庫に付いてから和美ちゃんがするんじゃ無かったっけ?その疑問が伝わったのか、一度振り返って私の顔を見た翔君が言った。
「実は僕、死んでるんだ」
「・・・は?」
私は思わず立ち止まり、翔君の顔をマジマジと見詰めてしまったのだった。




