↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四角い部屋  作者: まゐ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/6

3

 その日の最後の授業の終了を知らせるチャイムの音が聞こえ始めるとほぼ同時に、隣の教室から悲鳴が聞こえて来た。

 今日は朝から暑かったものの、昼過ぎからは日差しが陰り始めて風が出て来ていた。なのでどの教室もエアコンを切り、窓を全開にしていた。それは私のいるC組も、そして悲鳴の上がったB組もで、その声はどちらかと言うと廊下よりも窓から大きく聞こえて来ていた。だからクラスのみんなは、自然と窓側に集まり、そこから外に顔を出しては隣のクラスを覗き込んでいる。

「蜂でも入って来たんか?」

「アシナガとか怖いな」

「蜂より俺セミが怖い」

 そんな囁きが群衆の中から聞こえて来ている。けど私には、蜂とかセミとか、そんなレベルではない悲鳴だったように聞こえた。

 壇上の教師が急いで隣のクラスへと移動して行くのが見えた。そして、その後に何人かの生徒も続く。その中に翔君の姿もあった。

 私は予感がした。

 行った方が良い。

 頭の中に警報のようにそんな言葉が浮かび上がって、工事現場の電光掲示板みたいにピカピカと光っている。

 私は、机の上はそのままで立ち上がって隣のクラスへと走った。

 既に廊下にも人だかりが出来ている。

「どきなさい、通して」

 そう言いながら生徒達をかき分けて進む教師の背にちゃっかり付いて私はB組の中に入った。

 『パチン』という音が聞こえた。ハッキリとその音を聞いた。

 ハッとなって顔を上げた瞬間、怒鳴り声が響いた。

「てめぇふざけんな!なに人の男に手出してんだよ!」

 その声の主はモナちゃん。何人かの男子生徒に腕肩を押さえられながら、誰かを睨み付けてその相手に吠えるように怒鳴っている。

 モナちゃんの視線の先を見ると、そこには、良行に庇われるようにして立ち尽くしている和美ちゃんがいた。和美ちゃんの頬は赤く腫れ上がっていて、モナちゃんに引っ叩かれたという事が状況から見て取れる。

 何これ・・・。

「貴方達何やってるんですか!」

 間に立ってそう言う先生。

 呆然とする私の前で、モナちゃんがもがいて男子生徒の腕から抜け出た。

 あっ、と思った時には、もう足が動いていた。

 私は無我夢中で人の輪から抜け出して、モナちゃんを背後から羽交締めにして押さえた。

「瀬菜・・・」

 良行がビックリした顔で私を見た。

 その時、誰かが呼んで来てくれたのだろう、B組のドアから誠君の声が聞こえた。

「モナ!大丈夫か?!」

 瞬間、モナちゃんの口から「あっ、」と、小さく声が漏れた。同時に和美ちゃんの方へと引っ張られていた強い力が抜ける。

 もう大丈夫だ。そう思って私は、モナちゃんから手を離した。

 モナちゃんは、十戒の海みたいにドアに向かって2つに分かれた人垣の間を進んで行って、その先にいる誠君の前に立つと、誠君の頬を勢い良く引っ叩いた。

「マコ・・・」

 消えそうな小さな声で誠君を呼ぶと、そのまま両手で顔を覆って声を上げて泣き出してしまった。

「あ、えっと、すいません。2人で話しますんで・・・」

 誠君が打たれた頬を押さえながらそう言って、泣き続けるモナちゃんの肩を抱いて教室から出て行った。

「はい、解散解散!用事のない人は早く下校しなさい」

 先生がそう言って、集まって来ていた野次馬達はバラバラと解散して行った。

 私は、良行に駆け寄って聞いた。

「ねぇ、何があったの?」

「良く分かんねぇけど、モナが和美に食って掛かった」

 そう言って和美ちゃんを見る良行。

 良行の横で和美ちゃんは、怯えたような顔で震えていた。

「私、何もしてないのに。モナちゃんが急に・・・」

 そう言いながら和美ちゃんは、良行の腕に掴まった。

 えっ・・・。

 驚いて私はその手を外そうとした。けれどもそれを良行が止める。掴まれた腕を見て一瞬眉を顰めた良行は、そのまま私を見て頷いたのだった。

 私は唇を噛んで、そして和美ちゃんを睨むように見続けた。


 それから、私は一旦C組に戻って自分の荷物をまとめてから再びB組に戻った。そして、良行の口から驚くべき事を聞かされる。

「瀬菜、悪いけど今日は和美を家まで送ってく。だからお前1人で帰って」

「はぁ?何で?」

 聞いた事が信じられずにそう聞いた。

「だって、和美ちゃんには翔君がいるじゃない。何で良行が送らなきゃならないの?」

「翔は、誠とモナの話し合いに立ち会ってる。だから俺が和美を送ってくしかないだろ?」

 そう言って良行は、横でずっと黙ったまま俯いている和美ちゃんを見た。和美ちゃんは時々鼻を啜っている。泣いているみたいだった。

 確かに1人にするのは可哀想に見える。

「だったら私も一緒に送・・・」

 一緒に送るよ。そう言おうとした私を、和美ちゃんが途中で遮った。

「ゴメン瀬菜ちゃん、ちょっと良行君に相談したい事があって・・・」

 言いながら俯いたままで、良行の腕に掴まる和美ちゃん。それを振り払わない良行。

 振り払わない所か、今度は眉を顰める事すらしない。

 胸の辺りがモヤモヤとした。

「じゃあな、後でLINEするわ」

 良行は、私の頭をポンポンと叩きながらそう言って、和美ちゃんと一緒に帰って行く。

 私は、2人の帰って行く姿を見れなかった。振り返らずにそのまま俯いて、泣くのを必死で堪えた。

 昼休みには「和美がウザい」って言ってたのに、泣いたらもうウザくないの?こんな事されたら、私だって泣くのに。泣いてる私よりも、泣いてる和美ちゃんを優先するの?

「酷い・・・」

 私は、誰も居なくなった教室で、1人そう呟いた。

 そう言った途端に、堰を切ったように涙が溢れ出て来た。

 こんな気分で帰りたくない。て言うか帰れない。和美ちゃんには翔君がいるのに、何で良行なの?良行が誠君とモナちゃんの話し合いに立ち会えば良いじゃない。良行に相談したい事って何よ。私に聞かれたら困る事なの?

 ムカつく。

 ムカつくムカつくムカつくムカつく。

 ドサッとカバンを床に落とした。

 そして私は、空いた両手で顔を覆って声を上げて泣いた。


 どれくらいの間泣いていたのかは分からないが、校庭から1、2、3、4、と、規則正しい体操の掛け声が聞こえ始めた。運動部の準備運動が始まったようだ。

 多分腫れている瞼がヒリヒリと痛む。

 私は、特大の溜め息を付いてから両頬を軽く叩き、落としたカバンを拾い上げて、そして「帰ろ」と独り言を言って昇降口へと向かった。

 階段を降り、陽当たりの悪い一階をトボトボと歩き、そして昇降口へと辿り着く。

 その間、誰ともすれ違わなかった。

 下駄箱から外履きを取り出して三和土に置く。その時、声が聞こえて来た。

「モナちゃんはさ、辛くない?」

 全開にされた昇降口の左端の外側、物陰になっていてこちらからは見えない死角辺り。

 その声は翔君のものだった。

 それを聞いて私は、3人がここで話し合っているんだ、と思った。

「えっと、何が?」

 続けて聞こえて来るモナちゃんの声。

 私は思わず、物音を立てないように注意して聞き耳を立ててしまった。

 何やってるんだろう私、3人の前まで行って話に加われば良いのに・・・。

 そう思うものの、足は動かない。それどころかその場にしゃがんで姿勢を低くして、もっと話を聞きやすい場所へと静かに移動し始めた。

「えっと、さ、誠君と付き合ってて。彼は少し浮気性な所があるだろ?」

 翔君のその言葉が耳に届いた時、私はその場に固まってしまった。

 変な既視感を感じる。それに何だろうこの内容は。

 そう思った時だった。誰かが私の肩を軽く叩いた。

「ヒッ!」

 盗み聞きをしているという罪悪感から、驚きが3倍増しになった。息を飲んだ私の口を誰かが塞いだ。

 耳元で「シーッ!」とその誰かが言った。

 目だけを動かして見上げると、それは誠君。

 え?何で誠君がここにいるの?3人で話してるんじゃ無かったの?

 疑問が私の頭の中を駆け巡った。けれども、会話は私の頭の中にお構い無しに進んで行く。

「そだね、確かに浮気性。でもさ、私が怒ると謝ってくれるよ?それで、いつも申し訳無さそうにしてさ、それが可愛くて好き。てか私の事より、翔君の方がヤじゃないの?あんな、人のモノ取るような女」

 過激な発言だった。その『人のモノ取るような女』と言うのは、間違いなく和美を指しているんだと分かる。

「んー、ちょっと大変。実は別れたいと思ってる」

 翔君のその言葉を聞いて、私も誠君も固まった。

「えっ、マジマジ?うっわー、和美ざまぁ」

 そう言ってケタケタ笑うモナちゃん。

 こんな感じの子だったんだ・・・。

 少し呆れた私だったけど、次の翔君の言葉を聞いて、再び固まってしまう。

「じゃあ、もし僕がモナちゃんの事好きって言ったらどうする?」

 誠君ももう一度固まった。固まってそして、少し震えてるような気がした。

「えっ?何言ってんのお前」

 笑っていたモナちゃんの声色が変わる。低くて冷たい。

「私とマコが、まだ1ヶ月しか付き合ってないからってバカにしてる?1ヶ月なのに何度も浮気されそうになってるから、自分でもイケるとか思ってんの?ふざけんなよ」

 その声と同時にドンッという音が聞こえた。どうやらモナちゃんに翔君が押されたみたいだ。

「いや、違うよ。例え、例えだってば」

「例えって何だよ。私がマコの事どんどけ好きか知らない癖に、おかしな事言ってんじゃねーよ」

「ご、ゴメン、変な事言って。忘れて。ホント忘れて。じゃ、僕行くね」

 そして、翔君がその場から逃げて行く足音が響いた。

 誠君の手が私から外れる。誠君は、そのまま立ち上がってモナちゃんの方へと小走りで向かった。

「モナ」

 呼び掛ける誠君。

「あ、マコ。もうどこ行ってんの?心配するじゃん」

 向かい合って話す2人。その姿を見て、私は思った。

 あの2人は、私の友達だったっけ?って。

 モナちゃんが、こんなに激しい人だって事を、私は知っていたっけ・・・?付き合い始めて1ヶ月?それも知らなかった。友達なのに?そんな事も知らないなんて、あるかな・・・?

 頭の中が『?』マークでいっぱいになってしまう。

 もしかしたら、昨日の夜『四隅の怪』で増えた2人は、誠君とモナちゃんなのかな・・・?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。