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四角い部屋  作者: まゐ


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2

「さっき翔が言ってたけどさ、普通1人増えるんだよな。四隅の怪って」

 良行が言う。

 「そうなの?」と聞く私に良行は「お前は何にも知らないなぁ」と、馬鹿にしたように言う。ムッとして睨み付けるものの、良行はそれを無視して翔君と話し続ける。

「何で2人も増えたんだろな」

 良行のその言葉に翔君が言う。

「危ないから・・・」

「あ?」

 声が小さくて聞き取れなかったのか、良行が聞き返す。それに慌てたように翔君は首を振り「何でも無い。何でだろうね?」と誤魔化すように言って笑った。

 何だろう、何だが、すごく引っ掛かるな・・・。

 そう思って翔君の事を見ていると、良行が急に背中側から私の両頬をツネった。

「痛!」

 悲鳴のような声を上げてもがくものの、良行は離してくれない。

「良行やめてよ」

 そう言いたいものの、強く引っ張られて口が歪んで上手く喋れない。

「やめなよ良行君、瀬菜ちゃんが可哀想」

 翔君がそう言って、良行の腕を掴む。そのお陰で良行の手が片方だけ外れた。

「ぁあ?何だよ。うちらの事に口出すなよ」

 それに腹を立てた良行が、私の頬からもう片方の手も離して翔君に詰め寄る。

 やだ、喧嘩になっちゃう。

 焦って私は2人の間に入った。良行の胸を押すようにして2人に距離を取らせる。

「ゴメン、そんなつもりじゃ無かったんだ」

 両手を上げて降参の姿勢を取りながら、翔君は何歩か下がった。そして「じゃあ、僕こっちだから。またね」と言って、分かれ道を私の家とは違う方向へと行ってしまった。

 その後ろ姿を、良行と2人で呆然と見送った。

「何だアイツ、変なの」

 良行はそう言ってから私に向き直り、そして言う。

「つーか瀬菜、お前何で翔の事ジッと見詰めたんだよ」

 良行の顔は怒っていた。

「え?何の事?」

 私はそう言いながら、少し前の事を思い出してみた。そして思い当たる。翔君の発言に引っ掛かりを感じていた事に。

「分かった。アレだ。翔君が気になる事を言ってたから、ちょっと気になって見ちゃってた」

「気になる事?」

「うん。ほら、良行が和美ちゃんを送らなくていいの?って聞いたでしょ?その時翔君『二手に分かれた方がいい』って言ってたの。それに、何で1人じゃなくて2人増えたのかって言ってた時も、その理由として『危ないから』って言ってて」

「んな事言ってたか?」

「良行には聞こえなかったかも知れないけど、小声で言ってたの。それが気になって、ちょっと見ちゃったかも」

 そこまで言って、私は良行が不機嫌になった理由に気付いた。良行は翔君にヤキモチを焼いているのだ。

「妬いた?」

 そう聞いた私の頬を、良行は再びツネった。今度は片方だけ。しかも、優しく。

「痛いよ」

 笑いながらそう言う私の手を引いて、良行は私の家までの道を大股で進んで行った。


 翌日、一限目の授業が終わった休み時間に、翔君が私の席まで来て話しかけて来た。

 翔君と私は同じクラスで2-C。良行とモナちゃんと和美ちゃんは隣のクラスで2-B。誠君はちょっと離れてG組だった。

「瀬菜ちゃんはさ、辛くない?」

「え?何が?」

「えっと、さ、良行君と付き合ってて。彼は少し暴力的な所があるだろ?」

 そう言われて、私は昨夜翔君と別れた時の事を思い出した。ツネられた私を助けようとして、良行と喧嘩になりそうだった事を。

 翔君は、私を心配してくれてるのかも知れない。

 座ったままで、机の横に立つ翔君を見上げる。

 私の顔を見ながら、また右手の爪を噛んでいた。

「大丈夫だよ。腹が立つ事はあるけど、辛いと思った事はないから」

 私がそう答えると、翔君は「そう」と小さく答えた。

 私は逆に翔君に気になっている事を聞いてみた。

「ねぇ、昨日和美ちゃんを送って上げなかった理由を聞かれて『二手に分かれた方が』って言ってたじゃない?アレってどういう意味?」

「そんな事言ったっけ?」

 覚えていないと言った感じでそう言う翔君。

「うん、言ってたよ。あと、増えた人数が、普通1人なのに何で2人なんだろう?って良行が言った時に『危ないから』って言ってたじゃない?私それが気になってて」

 私がそう言うと、翔君は困った顔をしながら言いにくそうに答えてくれた。

「僕と和美は、増えた2人が誰なのかを探ってるんだ。それで、和美が誠君とモナちゃんを調べて、僕が良行君と瀬菜ちゃんを調べてた」

 それを聞いて、私はなるほどと思った。

 実は私は、私と良行以外の4人のうちの誰か2人が増(・)え(・)た(・)人間なのではないかと疑っていた。翔君と和美ちゃんの2人もそれと同じように考えていたって事なのかも知れない。それで、二手に分かれて和美ちゃんは誠君とモナちゃんを調べて、翔君は私と良行を調べていた、と。

 そうやって調べてるって事は、もしかしたら増(・)え(・)た(・)のは誠君とモナちゃんの2人なのかな。

 私は、そんな風に思ってしまった。

「じゃあ『危ないから』ってのは?」

「僕、言ったっけ?そんな事」

 また、誤魔化すみたいにしてそんな風に言う。

「言ってたよ。小声だったけど」

「うーん、それは本当に覚えてないから、適当に言っちゃったのかも知れない」

 翔君がそう答えた所で予鈴が鳴った。


「和美がウザい」

 昼休み、屋上で一緒に昼食を取りながら開口一番良行が言った。

「何?急に」

 私は、作って来たお弁当を開けながら聞いた。

「何かさ、迫って来る」

 言いながら勝手に唐揚げをつまみ取る良行。それを黙認しながら私は「え?」と聞き返した。

「休み時間に席まで来て、密着してくる」

 唐揚げを口に放り込んでそう言う良行に、私は「何それ」と語気を荒げて言ってしまった。

「って言ったら、妬く?」

 ニヤリと笑いならそう言う良行。それを聞いて、ああ、昨日の仕返しか、と私は気付いた。

 大袈裟に溜め息を吐いて卵焼きを箸で持ち上げた。と、それを私が口に運ぶ前にパクリと食べてしまう良行。ムッとなった私は、仕返しに良行が袋を開けて手に持っている菓子パンに噛み付いた。

「あっ!お前、勝手に食うなよ」

 自分が先に勝手に食べたくせにそんな事を言う。もう一口食べてやろうと身を乗り出した所で良行が言った。

「まぁ、密着はして来ないんだけど、色々聞いて来るんだよ。お前の事を」

 それを聞いて、私は翔君に聞いた話を思い出した。

「もしかしたらだけど、和美ちゃんはさ、昨日のゲームで増えた2人が、私と良行だと思ってるのかも」

「どういう事?」

 聞かれて私は、翔君から聞いた事を良行に話す。翔君と和美ちゃんの2人が、手分けをして増えた2人が誰なのかを探ってるという事を。

「そうなんか。ふぅん・・・」

 そう呟いて、良行は菓子パンを一口齧る。そしてポツリと言う。

「なんかヤだな、そう言うの」

 ご飯を一口食べながら、私は良行の顔を見た。良行が視線に気付いて私を見る。

「直に言わないで裏でコソコソ、感じ悪いじゃん?」

 良行は陰口とか裏工作が嫌いだ。気に入らない事は全て面と向かって言うタイプなので、それが出来ない輩が許せないのだ。

「でもさ、そもそもコッソリ紛れ込んだ訳だしさ、普通に『アナタが増えたの?』って聞いても答えないよ」

 私がそう言うと、「まぁ、そうだろうな」と呟いた。

「てか、どうでも良いじゃんか、もう。みんな知ってるヤツなんだし、友達増えたって思っときゃさ」

 そう言ってブスっとした顔をする良行。

 私は横で水筒のお茶を飲みながら「そうだね」と答えた。

 確かに、人が増えただけなら、何の問題も無い。

 増えただけなら・・・。

 『危ないから』

 そう言った、翔君の呟きが、どうにも心に引っかかってしょうがない。

 何が『危ない』のだろうか。

 分からない。分からない事だらけだ。

 ブスっとする良行の横で、私もブスっとした顔をしてしまうのだった。

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