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「さっき翔が言ってたけどさ、普通1人増えるんだよな。四隅の怪って」
良行が言う。
「そうなの?」と聞く私に良行は「お前は何にも知らないなぁ」と、馬鹿にしたように言う。ムッとして睨み付けるものの、良行はそれを無視して翔君と話し続ける。
「何で2人も増えたんだろな」
良行のその言葉に翔君が言う。
「危ないから・・・」
「あ?」
声が小さくて聞き取れなかったのか、良行が聞き返す。それに慌てたように翔君は首を振り「何でも無い。何でだろうね?」と誤魔化すように言って笑った。
何だろう、何だが、すごく引っ掛かるな・・・。
そう思って翔君の事を見ていると、良行が急に背中側から私の両頬をツネった。
「痛!」
悲鳴のような声を上げてもがくものの、良行は離してくれない。
「良行やめてよ」
そう言いたいものの、強く引っ張られて口が歪んで上手く喋れない。
「やめなよ良行君、瀬菜ちゃんが可哀想」
翔君がそう言って、良行の腕を掴む。そのお陰で良行の手が片方だけ外れた。
「ぁあ?何だよ。うちらの事に口出すなよ」
それに腹を立てた良行が、私の頬からもう片方の手も離して翔君に詰め寄る。
やだ、喧嘩になっちゃう。
焦って私は2人の間に入った。良行の胸を押すようにして2人に距離を取らせる。
「ゴメン、そんなつもりじゃ無かったんだ」
両手を上げて降参の姿勢を取りながら、翔君は何歩か下がった。そして「じゃあ、僕こっちだから。またね」と言って、分かれ道を私の家とは違う方向へと行ってしまった。
その後ろ姿を、良行と2人で呆然と見送った。
「何だアイツ、変なの」
良行はそう言ってから私に向き直り、そして言う。
「つーか瀬菜、お前何で翔の事ジッと見詰めたんだよ」
良行の顔は怒っていた。
「え?何の事?」
私はそう言いながら、少し前の事を思い出してみた。そして思い当たる。翔君の発言に引っ掛かりを感じていた事に。
「分かった。アレだ。翔君が気になる事を言ってたから、ちょっと気になって見ちゃってた」
「気になる事?」
「うん。ほら、良行が和美ちゃんを送らなくていいの?って聞いたでしょ?その時翔君『二手に分かれた方がいい』って言ってたの。それに、何で1人じゃなくて2人増えたのかって言ってた時も、その理由として『危ないから』って言ってて」
「んな事言ってたか?」
「良行には聞こえなかったかも知れないけど、小声で言ってたの。それが気になって、ちょっと見ちゃったかも」
そこまで言って、私は良行が不機嫌になった理由に気付いた。良行は翔君にヤキモチを焼いているのだ。
「妬いた?」
そう聞いた私の頬を、良行は再びツネった。今度は片方だけ。しかも、優しく。
「痛いよ」
笑いながらそう言う私の手を引いて、良行は私の家までの道を大股で進んで行った。
翌日、一限目の授業が終わった休み時間に、翔君が私の席まで来て話しかけて来た。
翔君と私は同じクラスで2-C。良行とモナちゃんと和美ちゃんは隣のクラスで2-B。誠君はちょっと離れてG組だった。
「瀬菜ちゃんはさ、辛くない?」
「え?何が?」
「えっと、さ、良行君と付き合ってて。彼は少し暴力的な所があるだろ?」
そう言われて、私は昨夜翔君と別れた時の事を思い出した。ツネられた私を助けようとして、良行と喧嘩になりそうだった事を。
翔君は、私を心配してくれてるのかも知れない。
座ったままで、机の横に立つ翔君を見上げる。
私の顔を見ながら、また右手の爪を噛んでいた。
「大丈夫だよ。腹が立つ事はあるけど、辛いと思った事はないから」
私がそう答えると、翔君は「そう」と小さく答えた。
私は逆に翔君に気になっている事を聞いてみた。
「ねぇ、昨日和美ちゃんを送って上げなかった理由を聞かれて『二手に分かれた方が』って言ってたじゃない?アレってどういう意味?」
「そんな事言ったっけ?」
覚えていないと言った感じでそう言う翔君。
「うん、言ってたよ。あと、増えた人数が、普通1人なのに何で2人なんだろう?って良行が言った時に『危ないから』って言ってたじゃない?私それが気になってて」
私がそう言うと、翔君は困った顔をしながら言いにくそうに答えてくれた。
「僕と和美は、増えた2人が誰なのかを探ってるんだ。それで、和美が誠君とモナちゃんを調べて、僕が良行君と瀬菜ちゃんを調べてた」
それを聞いて、私はなるほどと思った。
実は私は、私と良行以外の4人のうちの誰か2人が増えた人間なのではないかと疑っていた。翔君と和美ちゃんの2人もそれと同じように考えていたって事なのかも知れない。それで、二手に分かれて和美ちゃんは誠君とモナちゃんを調べて、翔君は私と良行を調べていた、と。
そうやって調べてるって事は、もしかしたら増えたのは誠君とモナちゃんの2人なのかな。
私は、そんな風に思ってしまった。
「じゃあ『危ないから』ってのは?」
「僕、言ったっけ?そんな事」
また、誤魔化すみたいにしてそんな風に言う。
「言ってたよ。小声だったけど」
「うーん、それは本当に覚えてないから、適当に言っちゃったのかも知れない」
翔君がそう答えた所で予鈴が鳴った。
「和美がウザい」
昼休み、屋上で一緒に昼食を取りながら開口一番良行が言った。
「何?急に」
私は、作って来たお弁当を開けながら聞いた。
「何かさ、迫って来る」
言いながら勝手に唐揚げをつまみ取る良行。それを黙認しながら私は「え?」と聞き返した。
「休み時間に席まで来て、密着してくる」
唐揚げを口に放り込んでそう言う良行に、私は「何それ」と語気を荒げて言ってしまった。
「って言ったら、妬く?」
ニヤリと笑いならそう言う良行。それを聞いて、ああ、昨日の仕返しか、と私は気付いた。
大袈裟に溜め息を吐いて卵焼きを箸で持ち上げた。と、それを私が口に運ぶ前にパクリと食べてしまう良行。ムッとなった私は、仕返しに良行が袋を開けて手に持っている菓子パンに噛み付いた。
「あっ!お前、勝手に食うなよ」
自分が先に勝手に食べたくせにそんな事を言う。もう一口食べてやろうと身を乗り出した所で良行が言った。
「まぁ、密着はして来ないんだけど、色々聞いて来るんだよ。お前の事を」
それを聞いて、私は翔君に聞いた話を思い出した。
「もしかしたらだけど、和美ちゃんはさ、昨日のゲームで増えた2人が、私と良行だと思ってるのかも」
「どういう事?」
聞かれて私は、翔君から聞いた事を良行に話す。翔君と和美ちゃんの2人が、手分けをして増えた2人が誰なのかを探ってるという事を。
「そうなんか。ふぅん・・・」
そう呟いて、良行は菓子パンを一口齧る。そしてポツリと言う。
「なんかヤだな、そう言うの」
ご飯を一口食べながら、私は良行の顔を見た。良行が視線に気付いて私を見る。
「直に言わないで裏でコソコソ、感じ悪いじゃん?」
良行は陰口とか裏工作が嫌いだ。気に入らない事は全て面と向かって言うタイプなので、それが出来ない輩が許せないのだ。
「でもさ、そもそもコッソリ紛れ込んだ訳だしさ、普通に『アナタが増えたの?』って聞いても答えないよ」
私がそう言うと、「まぁ、そうだろうな」と呟いた。
「てか、どうでも良いじゃんか、もう。みんな知ってるヤツなんだし、友達増えたって思っときゃさ」
そう言ってブスっとした顔をする良行。
私は横で水筒のお茶を飲みながら「そうだね」と答えた。
確かに、人が増えただけなら、何の問題も無い。
増えただけなら・・・。
『危ないから』
そう言った、翔君の呟きが、どうにも心に引っかかってしょうがない。
何が『危ない』のだろうか。
分からない。分からない事だらけだ。
ブスっとする良行の横で、私もブスっとした顔をしてしまうのだった。




