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四角い部屋  作者: まゐ


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「お前、怖がりなのによく来たな」

 良行がそう言って私の頭を撫でた。私は震えながら頷く。

 怖い。怖くて仕方がない。けれども、置いて行かれるのが嫌だったのだ。だから付いて来た。

 夜の学校は静かだった。静かで、当たり前だが暗い。窓から入る薄い月明かりを頼りに、前を歩く良行に必死で付いて行く。

  “肝試しをしよう”

 そう言い出したのは、良行の友達とその彼女だった。

 夜の学校に忍び込み、校舎をくまなく回って、1番奥の使われていない倉庫がゴール。

 お化け役も脅かす仕掛けも何も無い。呪われているとかそういう曰くも全く無い。ただ夜の学校を歩くだけ。忍び込むから見付かったら怒られるけど、良かった良行もどう?彼女連れて来たら?

 聞かれて二つ返事でokした良行は私を誘った。

 多分良行は、私を誘いつつも1人で参加するつもりだったんだと思う。それで終わった後にきっと、私に言う。

 楽しかったぜ、お前も来れば良かったのに。

 私が怖い事が苦手だという事を良行は良く知っている。断られると分かってて誘って、一旦断られて、そして後から私を馬鹿にするような口振りで言うつもりだったのだ。うん、きっとそう。

 それが分かっていたから、私は悔しくて、だから無理して参加したのだった。

 『パチン』という音が聞こえて来たのはその時だった。その音は、誰もいない筈の教室の中から間違いなく聞こえて来た。

 良行の友達とその彼女は、もう先に行ってしまっていた。今は私と良行の2人だけ。

 私はビクッとなって、掴まる良行の腕を引いて固まった。

「何?何かあった?」

 急に立ち止まった私を変に思った良行が、振り返って聞いた。

「今、聞こえなかった?何かの音が、パチンって・・・」

 指を弾くみたいな音だった。

 良行の腕に手を掛けたまま、私はその教室の中を窺おうとする。と、背中に何かが当たった。

「ヒッ!」

 声を上げて振り返ると、良行がお腹を抱えて笑っていた。どうやら持っているカバンを私の背中にわざと当てたみたいだった。

「ちょっ、何するの?」

 怒る私を更に笑う良行。

「瀬菜怖がり過ぎ。マジウケる」

 ムッとなって私は、良行の腕を引いて自分からグングン先へと進み始めた。

 一瞬で、その音の事は忘れ去ってしまった。


 到着した使われていない倉庫は、何も無い真四角の単なる空間だった。窓すら無いその部屋は、ドアさえ閉めてしまえば昼間でも真っ暗なんじゃないかと思う。

「なぁ、アレやろうぜ。丁度4人だし」

 良行の友達がそう言った。

 アレとは何だろう。そう思う私に、彼は説明してくれた。

 部屋の四隅に1人ずつ立って、時計回りに1人ずつ順番に進んで行く。次の角の人の肩を叩いて、叩かれた人がまた次の角に進む。それを繰り返し、4人目が次の角に辿り着いた時、そこには誰もいない筈なのに、何故か1人現れる。そういうゲームだった。

 私は、一度説明されただけでは今ひとつよく理解出来なかった。

「とりあえずやってみるか」

 良行がそう言い、その場の全員が賛成した。

 良行がスマホのライトを付けて明るくし、倉庫のドアを閉める。内側から見て右の角に良行、次の角に私、その次の角に良行の友達、最後がその彼女。全員が位置に付くと、良行が声を掛けた。

「良いな?じゃあ消すから。俺からスタートな。瀬菜は肩叩かれたらスタートだぞ」

 私が頷くと、スマホのライトが消された。

 闇は深く、本当に何も見えなかった。壁に触れていなければ、不安過ぎて私はそのまましゃがみ込んでいた事だろう。

 暫くすると良行の息遣いが聞こえて来て、私の肩に彼の手がトンと乗った。

 来た・・・。

 思って私は、そのまま壁伝いに先へと進む。何も見えなかったのが、少しずつ闇に目が慣れて来たのだろう。何となく周囲の様子を感じ取れるようになっていった。

 すぐ前に、良行の友達の気配を感じた。手を伸ばしゆっくりと進むと、制服の感触がある。それが背中だと分かると、そのまま斜め上へと手を滑らせて彼の肩を軽く叩いた。

 良行の友達がスタートする。私はそのままそこで立ち止まったまま待つ。

 1、2、3、4、5・・・、無意識のうちに心の中でカウントをしてしまう。

 ドアのあった辺りが何となく明るく見えて来る。隙間から光が入り込んでいるのかも知れない。けれどもやはり、部屋の中は暗くて、どこに誰がいるのかは分からない。確認出来るのは、すぐ目の前にある壁の角だけだ。

 カウントが30を超えた位の時、ドアの方の明るく見えた辺りが陰ったような気がした。きっと、良行の友達の彼女がそこを通ったのだ。

 という事は、そろそろその時が来る。4人目が最後の角に到達するのだ。

 そこには誰もいない筈だった。でも、イタズラ好きな良行だったら、もしかしたら私の肩を叩いた後に引き返して、最初の位置に戻っているかも知れない。

「えっ!」

 静寂の中、良行の友達の彼女の驚く声が響いた。

「どした?」

 良行の友達の声が聞こえた。その方向は私の位置から真っ直ぐ壁沿いに進んだ位置、最初に彼の彼女が立っていた位置だ。

「まさか、何かいる・・・とか?」

 続けて良行の声が聞こえた。その方向は、私がさっきまで立って良行が来るのを待っていた方向。

 良行は、イタズラをせずにちゃんと予定通りの場所にいるみたいだった。

 では、何があったのだろうか・・・?

「ライト、付けるぞ!」

 ちょっと慌てた良行の声と、トタトタと乱れる足音。それらと共に、スマホのライトが付けられた。

 パッと明るくなる四角い部屋。暗闇に慣れた目が一瞬眩む。私は、何度か瞬きを繰り返して、そして部屋の中を確認する。

「えっ!?」

「なっ・・・!」

 私と良行が同時に声を上げた。他の人はみんな、息を呑んで黙り込んでしまっている。

 そこには、私と良行と、他に4人の人が居たのだ。

「6人・・・?」

 そう、全部で6人。

 私と良行と、良行の友達が2人と、その彼女が2人・・・。全部で6人の人間がそこに居たのだ。

「あれ、変だな・・・さっきまで4人だった気がするけど・・・」

 良行の友達の誠君がそう言うと、

「そうだよ、4人だったよ!うちら2人とマコの友達とその彼女。それだけだったじゃん」

 誠君の彼女のモナちゃんが続けた。

「4人、だったよね。だから四隅の怪やろうってなったんだから」

 そう言ったのは和美ちゃん。

「6人って、斬新だな・・・。これ、1人増えるっつーヤツじゃ無かったか?」

 そう言いながら、右手の爪を噛んでいるのは和美ちゃんの彼氏の翔君だ。

「どう言う事・・・?全員、知ってる人なんだけど・・・」

 私がそう呟くと、みんながそれぞれに顔を見合わせる。

 その時、廊下をコツコツと歩く足音が聞こえて来た。

「まずい、見回りだ」

 良行がそう言ってドアを細く開けて、廊下を覗き込んで、そしてみんなに報告するように言った。

「今、向こう側の端から室内確認しながらこっち向かって来てるっぽい」

 それに翔君が続ける。

「このままだと見つかるな。とりあえず、今日は解散にしようぜ」

 みんなそれに賛成する。

 私達は、見回りがどこかの室内を確認している隙に倉庫を脱し、そのまま廊下の窓から校舎の外へと静かに飛び出した。

 声を顰めて外壁へと走り、そしてそれを乗り越えて学校の敷地外へと出る。

 全員がそこに辿り着いたのを確認すると、みんなで大きく息を吐いて、そして笑った。

「楽しかったわ。なんか増えたけど」

 誠君がそう言い、みんなもそれに頷く。

 私に良行、誠君にモナちゃん、そして翔君に和美ちゃん。みんな知ってる。友達同士だ。

「4人でも6人でもどっちでも良いって感じ」

 モナちゃんがそう続けて、私もそれに頷いた。

「じゃ、ここで解散!」

 威勢良く良行がそう言って、私達は各々の家の方向へ別れて帰る事となった。私と良行と翔君が右へ、そして誠君とモナちゃんと和美ちゃんが左へ。

「お前、彼女家まで送んないの?」

 良行が翔君にそう聞いた。

「ああ、うん。アイツらと一緒だからね。二(・)手(・)に(・)分(・)か(・)れ(・)た(・)方(・)が(・)良いんだ」

 向こうの3人を振り返りながらそう答える翔君。

 二(・)手(・)に(・)分(・)か(・)れ(・)る(・)?

 そう疑問に思った時、向こう側の3人の方から『パチン』という音が聞こえたような気がしたのだった。

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