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第四十六話 クレアとシュノー XIV

 老人に扮して尾行していたシュノー達は、ハルとシュナが料理屋に入っていくのを見届けると日も暮れてきたので先に城に戻ることにした。


 シュノーとクレアがラッテと話すのは初めてのことだったが、ハルとシュナのデートを尾行しようという誘い文句に釣られてついていく羽目になったのだ。


「どう? 面白い発見はあったかしら?」


 シュノーの部屋で変装を解いたラッテが面白がるように問うと、シュノーは口を引き結ぶ。


 一方でクレアは興奮したように口を開く。


「ラッテの演技はすごいわね! 言われないと本当におばあさんに見えると思うわ。あとは、シュナちゃんは完全にハルに惚れてるわね!」


 それを聞いたシュノーは目を瞑って天を仰いだ。


 認めたくないが認めざるを得なかった。


 ハルと街を歩くシュナの顔や態度は、変装をしていても分かるほどに恋する乙女のものだった。


 そしてそれはシュノーに大きな葛藤をもたらした。


 シュナの幸せを願う気持ちと妹への強すぎる愛情が衝突したのだ。


 シュノーにとって、ハルは噂通りに塞ぎ込んでいた妹を救ってくれた恩人だ。感謝してもしきれない。


 だが、恋人となると恩があるだけでは認められない。


 シュナが納得する相手であり、ヴィンター家も認める知性と人柄を持った相手であり、シュノー個人としては妹を守れる強さも兼ね備えていて欲しい。


 そのような人間は今までに現れたことがなく、深層心理には常に「自分よりシュナに相応しい者はいない」という自負があった。


 そこにハルが現れた。というか、シュノーから招いた。


 ハルは申し分なかった。シュノーでさえその風魔法には感心させられた程だ。何よりも、シュナが惚れていることが一目瞭然だった。


 故に、シュナの恋人として認めざるを得ず、より現実的に将来を想起してしまう。


 恋仲になればいずれ結ばれることになるだろうが、それはシュノーにしてみれば生まれてから最も愛を注いできた存在が去っていくことに他ならなかった。


 ここにシュノーの人生で最大の葛藤が生まれた。


「でしょ? でもねえ、ハルはモテるのよ」

「そうなの? 他に誰かライバルはいるの?」

「ここだけの話だけど、王女様までハルを狙ってるわ」

「ええ!?」

「秘密よ?」

「それはいいけど、王女様が相手なんてシュナちゃんもかわいそうね」

「それはどうかしら。シュナちゃんなら可能性はあると思うわよ。まあ家の支援が無いと厳しいとは思うけど」


 クレアは尾行に誘われた時からなんとなくラッテはシュナをハルにくっつけようとしていることを察していた。なので純粋にシュナを応援したい気持ちとシュノーのシスコン治療のこともあってラッテの誘導と気付きつつ乗っていた。


 今の会話を聞いていたシュノーは青ざめたような顔をしている。


「ちょっと、シュナちゃんの為にも何とかしてあげなさいよ!」

「い、いや、ハルがシュナを選ばないわけが……」

「相手は王女様よ? どちらが優位かなんて言わなくても分かるでしょう?」


 シュノーは押し黙る。


 クレアはあと一押しと思い、心にも無いことを大げさに言う。


「女の子にとっての一番の幸せは好きな人と結ばれることなんだから……! お兄さんなんだからシュナちゃんの恋愛を応援してあげなさいよ……!」


 クレアにとっての幸せは強者を求めて戦うことだ。恋愛には興味が無いがそういう価値観を持った女が多いことは知っている。


 シュノーはクレアがそんなことを言うのは胡散臭いとは思いつつ、言葉自体には納得した。


 そして、少しの間を置いた後、シュノーは決断を下す。


「……了解した。シュナとハルを結ばせる為に兄として全力を尽くすことを誓おう」


 クレアは少し妙な方向に誓われた気もしたが、とりあえずそれで良しとした。


 ラッテは思い通りに貸しをつくれたことに笑みを浮かべた。


≈ ≈ ≈ ≈ ≈


 シュナが城に戻って少しするとライツフォルの呼びかけにより親子四人での家族会議が開かれた。


 そこでライツフォルによってヴィンター家の女の魔力の秘密や今後の継承問題に対する方針について聞かされた母と子二人は少なからず驚かされた。


 しかし、シュナの健康を最優先にするという点に関しては全員意見が合致しており、家族の連帯感は強まることとなった。


 シュナはそんな風に三人が思ってくれていることを嬉しく思った。


「これもハル様のおかげね」


 そのシューネの言葉をきっかけに、シュノーは自分が話したかった本題を持ち出す。


「シュナ。ハルのことをどう思う?」

「とても親切な方だと思います。また、風魔法をあのように使う方というのはとても珍しいのではないでしょうか」

「そうではない。男としてどう思うか、ということだ」

「え!? えーと……素敵な方だと思います……?」

「……私は今までにクールン王国を含め様々な国で様々な男を見てきた。そのうえで言わせてもらうと、ハルは唯一シュナの将来を任せてもいいと思えた男だ」

「お兄様!?」

「だが、ハルを慕う女は多いそうだ。その中には王女であるカルテ様も含まれるとのことだ」


 シュノーの言葉に三人が驚愕する。


 王女の相手ともなれば今後の国の行く末にも影響してくるだろう。そう思ったライツフォルが事実を確認するように問う。


「それは本当か、シュノー?」

「情報屋の言葉だ。間違いは無いだろう」


 その言葉にシュナは俯いてしまう。


 まさかハルがそこまで異性に好かれているとは思わず、そうしたことを考えもせずに浮かれていた自分を身の程知らずと思ったのだ。


 夫妻はハルがそれほどの重要人物だとは思っていなかったので、畏怖を覚えると共に娘に対して同情的な気持ちになった。


「だから、あらためて問う――」


 シュノーは妹に対して覚悟を問うように鋭い視線を送る。


「ハルのことをどう思う?」


 シュナは今までに見たことのない兄の視線に気圧されながらも、その問いの真意にはすぐに気づいた。


 先程の「シュナの将来を任せてもいい」という言葉から察するに、覚悟を問うているのだと。


 ――王女に恋敵として相対する覚悟を。


「わ、私は……」


 (かな)うわけがない。


 諦めよう。


 辞退をするように言いかけた時――


 ハルの手の温もりが、体を包んだ風の暖かさが、飛びながら背中から見た景色が、笑顔が、声が、次々と脳裏に浮かんでくる。


「……ぁ……」


 言葉が続かない。


 シュナがハルと出会ったのはつい昨日だが、本気で恋をしてしまったのだ。


 それほどハルの存在は深く心に刻まれてしまった。


 諦める?


 無理だ。


 あんな人はこれから絶対に現れない。


 そうだ、絶対に現れない。


 あの人しかいない。


 シュナは心を決めた。


「私はハル様を心から愛しております」


 その言葉に両親が目を見開く中、シュノーは数瞬瞼を閉じる。


 そして、目を開けると言い放った。


「了解した。ならば、ヴィンター家を挙げてその恋を支援する」


 その言葉に再び両親が目を見開く中、兄妹は頷き合った。


 そして、家族会議はシュナの恋愛支援の為の作戦会議へと変わった。


≈ ≈ ≈ ≈ ≈


 翌朝。


 今日から人に触れる訓練を始める為にシュナの部屋を訪れると、既にシュノーがシュナの側に立っていた。


 二人共、どこか表情から決意めいたものを感じる。


「おはよう、ハル」

「おはようございます、ハル様」

「あ、ああ。おはよう。体の具合はどうだ、シュナ?」

「少し筋肉痛はありますが、とても良いです」

「そうか。あれだけ歩いたら仕方無いな」

「良い運動になったことだろう。ありがとう、ハル」

「大したことはしてないよ」


 やはり何か不自然だ。


 何かこう、二対一になっているような、シュノーとシュナがタッグを組んでいるような雰囲気がある。


 シュノーには以前見たシュナに対する過剰な優しさも無い。それ自体は良いことだが……。


 とりあえず訓練について説明をしていこう。


「それで、今日から人に触れる訓練に入ろうと思うんだが――」

「そのことだが、私から提案がある」

「シュノー? なんだ?」

「ここから先については王都で時間をかけてお願いできないかと思ってな」

「時間をかけて、か。それには賛成だが、なぜ王都なんだ?」

「先々を考えてのことだが、シュナの定期的な魔力解放をハルに手伝って欲しいのだ。場所に制限が無くなったとはいえ、街の中ではできないだろう? 人の少ない場所を探すにしてもここは山なので移動も容易ではない。体力の問題もある。いつ魔力暴走が再発するかも分からない。空を飛べるハルが常に近くにいてくれるととても助かるんだ」

「なるほど。言われてみればここだと難しいか。となると、シュナは王都に住むのか?」

「そのことですが……厚かましいお願いだと承知しておりますが、ハル様の住居に住まわせて頂くことはできませんか?」

「ああ。それなら構わない」

「え? いいのですか?」

「いいのか、ハル?」

「あ、ああ。別に構わないが……?」


 トラウマを完全に克服するまで一時的に間借りをしたいということだろう。


 シュナに対しては命を救われた恩があるので、できる限りのことはするつもりだ。


 自分の家を提供する程度なら全く問題無いのだが、二人は拍子抜けしているような表情だ。


「もちろん家族の許可は必要だが、既に取っているんだろう?」


 俺がそう言うと、後ろのドアの方から足音が聞こえてきた。


 振り向くと辺境伯夫妻がいた。


 ノックの音が聞こえなかったが? いつのまに来ていたんだ?


 前後から挟まれ、なんとなく逃げ場を塞がれたかのような錯覚を覚えた。


「実は私達からもお願いするつもりでした。ハル様には本当にどれほど感謝をすれば良いやら……。私のことは父と思って何でも仰ってください」

「娘のことをどうぞよろしくお願いします。この城にもいつでもお越しくださいね。私もハル様の母親になった気がします」

「ありがとう、ハル。私のことは兄と思ってくれて構わない。遠慮無く何でも言ってくれ」

「ハル様。これからどうぞよろしくお願いいたします」


 感謝をされていることも、お願いをされていることも分かるが、どうも前後から挟まれているのが落ち着かない。


 それにシュナ以外の三人がやたらと家族関係を強調するのも謎だ。何なんだ。母親になった気がするってなんだ。そんな風習でもあるのか。


 シュノーにまで「兄と思って」なんて言われるとは思わなかった。


 考えてみればシュナがウチに住むことに関してシュノーが許可を出したことも意外だ。


 シュナの件で恩を感じているようだがシスコンの方は改善したということだろうか。


 とりあえずシュナに向き直って答える。


「こちらこそ、よろしく頼む。じゃあ早速王都に行く準備をするか」

「はい!」


 シュナはベッドに腰掛けながら元気よく返事をした。


 この分ならトラウマの完全な克服にもそう時間はかからないだろう。


 少しの筋肉痛と言った割に膝がガクガクなシュナを手伝って準備を終えると、王都への帰路についた。

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