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第三十九話 クレアとシュノー Ⅶ

 ハルがシュナのもとに向かってすぐ、クレアはベッドの上の大きな氷の塊を見ながら呟いた。


「なんか斬りたくなるわね……!」


 絶望の表情をしたシュノーが入った氷の塊。その氷の厚さはシュノーの肉体から50~60cm程あるように見える。


 決して悪意によるものではない。一割くらいの暇潰し、三割くらいの故郷の件の恩返し、六割くらいの剣の腕試しといった動機がクレアの頭を占めていた。


 だいたい、看病をするにしてもこんな分厚い氷が解けるのを待つとなると数日はかかるだろう。


 それから更にシュナからの自立を考えると、故郷の件を考えても借りを返すどころかそこそこ大きな貸しができるくらいだ。


 それなら自分の剣の腕で極力氷を削ってしまえばかなりの時間短縮になる筈だ。


 そう言い訳をして、腰に差している二本の剣のうち短く軽い方を抜いた。


 その顔はこれから氷像を彫刻する楽しみが滲み出ている。


「まずは立てたいわね」


 とりあえず、ベッドに寝かせた状態で斬るのは難しいので立たせた状態にしたい。


 剣を足先の氷の上に置く。


 シュタークも贔屓にしているクールン王国最高峰の鍛冶屋によって鍛造されたその剣は、刃を立てるだけでも自重(じじゅう)で氷の半分程まで沈んだ。


 少し力を加えて氷を裂くと、凹凸の全く無い切断面が二つ生まれた。


 この剣をこんな風に使ったことは初めてで、クレアは更に心を踊らせる。


 端が欠けたアーモンドのようになった氷の塊を持って剣の振れそうな場所に立てる。


「これでいいわね!」


 早速始めようかと思ったが、先にベッドの上の切れ端の方の氷を処分することにした。


 切れ端と言っても底の長径は1m以上あるし高さも50cmはある。


 大人が二人がかりで運ぶようなその氷塊に指をめり込ませて片手で持ちながら窓へと歩く。


 そして、窓を開けると衛兵達にバレないように思いっきり投げた。


 王国最強の怪力を誇るシュタークには及ばないもののクレアも怪力の持ち主だ。


 投げられた氷塊は文字通り衛兵の目にも留まらない速さで飛んでいき、山へと消えた。


 準備はできた。


 絶望の顔を浮かべるシュノーの前に立つ。


「さっきはありがと」


 一応感謝の言葉を口にすると、猛烈な勢いで剣を振り始めた。


 それはまるで竜巻に巻き込まれたかのような光景だったが、クレアにしてみれば正確さを最優先にして丁寧に彫刻をしていた。


 そして、一分も経たないうちに氷像が完成した。


 その氷の厚さは概ね数cm程度だ。元の厚さと比べれば無いに等しいほど薄くなった。


 これなら数時間もすれば解けるだろう。


「こんなところね!」


 クレアはその出来栄えに結構満足して、周囲に散らかった氷の切れ端の処分を始めた。

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