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第三十話 商人と大切な商品 Ⅴ

 多くの野次馬の歓声を聞きながらトレーネの家を発ち、フリューの案内で情報屋の家の前に来ると、フリューは俺とトリスタンを門の前で待たせて一人先に中に入って行った。


 情報屋の家は貴族向けと平民向けの家が混在する俺の家のような場所にあり、その外装はかなり年季が入っているように見える平民向けのものだった。所々にヒビも入っていて、庭も雑草が生えているだけで特に何も無い質素なものだ。いや、率直に言おう。ボロい。


 平民向けの住宅にもピンからキリまであるが、ここは中の下か下の上といったものだろう。情報屋という職業なだけあって外装はあえてこのような形にしているのかもしれない。


 そんなことを思いながら家の外観を見ていると、フリューが戻ってきた。


「入って。あなたのこと楽しみにしていたわ」

「俺を?」


 フリューは微笑みながらコクリと頷く。


 どうやら相手は俺のことを知っているらしい。しかし、どこまで知っているのか。まあ、知られていたところで特に困るようなことは無い筈だが、少し警戒を強める。


 フリューに従って家の中に入ると、外装から想像した通りにボロかった。亀裂は内壁にも見られ、床板は所々腐食が進んでいるのか足を乗せると大きくしなる箇所もある。まるでカルテと泊まった宿のようだ。


 一体どんな情報屋なのか。この家の状況から察するにだらしない性格か、あるいは不必要なことには時間も金も掛けない性格の女を想像した。


 その女は俺達が家の中に入ったというのに挨拶に現れもしない。だが、フリューは気にせずに進む。そして、寝室に入ると、ベッド横の棚に手を乗せた。


 その瞬間、視界が一変した。


 今まで見てきたボロい内装は貴族向け住宅のように小綺麗なものになり、窓の外に見える庭も手入れのされていない雑草が華やかな彩りを持った花々に姿を変えた。


 あまりの驚きに絶句しながら周囲を見回すと、俺の後ろに見たことのない女が立っていた。


 今度こそ俺は心臓が止まりそうになるほど驚き、バランスを崩して後ろにあったベッドに座り込んでしまう。俺の後ろについてきていたトリスタンも同様に腰を抜かし、床にへたり込んだ。


 その様子を見て女とフリューは顔を見合わせて笑っている。


 それで気付いた。この女が情報屋だ。


「ラッテよ。よろしくね。ハル」


 ラッテは笑みを浮かべながら手を差し出した。


 それを握り返しながら答える。


「ハルだ。よろしく」


 まだ収まらない心臓の鼓動を感じながら手を引っ込めようとするが、ラッテは握手したまま離そうとしない。


 それどころかその手を右から左に変えて指を絡ませると、俺の左側に座って身を寄せてくる。


「ふぅん。あなたがハルね」


 そう言いながらジロジロと俺の顔や体を見る。冒険者達のいる料理屋に入った時のような反応だ。いや、それよりも遥かに距離が近い。


「そうだ。フリューから聞いていると思うが、急ぎの話がある。協力してもらえると助かる」


 俺がそう言うと、ラッテは驚いたようにしてフリューの方を向く。


「ねえ、この子あたしの色仕掛けが効かないわ」

「珍しいわね。とりあえず、約束通り試させてあげたからもう話に入っていい?急いでるのよ」

「もうちょっと試したいけど、仕方ないわね」


 そう言うとラッテはようやく手を離して立ち上がる。


 聞き捨てならない話を聞いたが、とりあえず今は流しておく。だが、急に視界が変わった件といい、この女は危険すぎる。警戒を更に強めた。


 ラッテについてくるように言われて寝室を出ると、他の部屋も漏れなく様変わりしていた。そのうちの一つの部屋に入ると、そこには魔石やら魔石をはめ込んだ道具やらが数多くあった。


 その中から一つ道具を取ってテーブルに置くと、俺達に向き直る。


「それで、えっと……」

「トリスタンです」


 ラッテの視線を受けてトリスタンが名乗る。


「トリスタンね。あなたを襲った盗賊の特徴は、スキンヘッドのリーダーと、土魔法の魔法使いが一人、他は剣を使っていた、ということで間違いない?」

「はい」

「で、シャイセ公爵領ね」

「はい」

「盗まれたものはシャイセ公爵領の中心街で購入した金細工の宝飾品じゃない?」


 それを聞いたトリスタンは目を丸くする。


「なぜそれを!?」

「ついでに、それらを買う前に結構儲けたんじゃない?商品が予想以上に高く売れたか、ギャンブルとかで」


 トリスタンは口を開けたまま言葉が出ない。


「で、その場にたまたまいた行商と意気投合して、金製品のことを聞いたとか?そうね、『ここの金細工の商品は王都で高く売れる。王都に住むお前が羨ましい』とか言われたのかしら」


 トリスタンは顔面を蒼白にしながら項垂れてしまった。


「それで、その人には知人に貸金業者がいて、金利を特別に安くしてもらって大金を借りた、とかね」


 ラッテはトリスタンの反応を楽しむように笑みを浮かべながら話している。


 どうやらトリスタンは騙されていたらしく、そのことに今になって気づいたようだ。


 その様子を見ていたフリューが口を開く。


「何?知ってるの?」

「いいえ。当てずっぽうよ」

「そう?それにしては図星みたいだけど?」


 トリスタンの反応を見ればそう思うのが自然だろう。


「だから当たってるみたいで嬉しかったの。金貨千枚分にもなる商品でシャイセ公爵領で買えるものといえば金製品。それをいかに行商相手に売りつけるかとなると、そんな感じかと思ったのよ。まあ、本当にそんな大規模な詐欺を始めたなんて驚きね。少なくとも、あたしでも今までに聞いたことが無いわ」

「聞いたことが無い?ということは、その盗賊のことも見つけるのは難しいのか?」


 俺は思わず口を挟んだ。推理が当たっていたところで金の回収ができなければ意味が無い。


「ハル。あなたはその盗賊から盗まれたお金を取り返してトレーネを買い戻そうとしてるのよね?」

「ああ。だからなんとしても盗賊を見つけ出したいんだ」

「盗賊を見つけたところでお金は持ってないわよ」

「なんで分かるんだ?」

「だって、シャイセ公爵に雇われただけの冒険者崩れでしょうから」

「……は?」

「これ、全部シャイセ公爵が仕組んだってことよ」


 ラッテの言葉に理解が追いつかない。


 これを?全部?色々な登場人物が出てきたが、その全員がシャイセ公爵とやらの差し金だったって言ってるのか?


「奴隷商も繋がってる可能性が高いわね。シャイセ公爵の奴隷になる可能性が高いわ」

「待ってくれ。俺にはまだシャイセ公爵とやらが仕組んだっていうのが信じられない。証拠でもあるのか?」

「証拠はこれからあなたが見つけるのよ」


 再び言葉を失う。


「つまり、あなたがお金を回収する相手はシャイセ公爵ということになるわ」

「……シャイセ公爵がやったと確信しているようだけど、その理由は何?」


 俺の代わりにフリューが問う。


「少し前に王女様の暗殺未遂があったことは知ってるでしょう?」


 ラッテは微笑を浮かべながら俺に向けて言う。まるで俺が知っていることを確信しているかのようなその視線から、ラッテが事件の詳細を知っていると確信する。


「その時はヴァイト伯爵っていう少し遠い地の領主を訪問したのだけど、その帰り道にシャイセ公爵領で事件が起こったの。でも、王女様を襲った連中は突然現れた風魔法の使い手によって、プフッ、吹っ飛ばされたのよ」

「笑うな。俺だよ。どうせバレバレだし隠さなくていい」


 ラッテが突然吹き出すのでもう自分からばらすと、フリューは何やら納得したような顔でニヤリと微笑んだ。


「城の上空を飛んだって噂もあなたでしょ?なるほどねえ。アタシにもラッテにもなびかないわけだわ」

「あたしの色欲魔法ですら通じないんだからさすが王女様よね」

「だー、もういい、さっさと話を進めろ」


 またしても聞き捨てならない言葉を聞いたが、今は話が逸れている場合じゃない。


「えーと、それで、その吹っ飛ばされたところを見ていた人がいたのよ。運良く生き残った王女様の護衛の一人ね。その人は傷を負いながらも襲撃者達が飛んでいった先を探して、見つけ出すと、既に瀕死の状態だったの。それで、王のもとへ連行したかったけど諦めて、自白を促すと、シャイセ公爵の名前が出たって訳」

「あれもシャイセ公爵が仕組んだことだったのか……」

「そう。その情報が城に届いたのは五日前ね。当然、王も把握しているし、シャイセ公爵とは以前から確執があったから、前々から疑っていたみたい。ただ、証人はもういないし、証拠も無いから罰も与えられない状況なの」


 話を聞く限りシャイセ公爵というのはとんでもないクソ野郎だな。


 そういえば、率先して悪事に加担している領主もいると前にクライネが話していた気がする。シャイセ公爵のような者も少なからずいるということか。


 この世界に転生してから初めて知る悪意の塊のような人間にどうしようもない嫌悪感を覚える。


「おそらく、表に出ていない悪事はまだまだあるわ。悪い噂は色々聞くのよ。その一つが気に入った少女を奴隷に落として手に入れるというもの。さっきの話と合わせて、シャイセ公爵を疑うには十分じゃない?」


 耳を疑った。


 気に入った少女を奴隷に落とす?


 まさかその為にトリスタンを陥れたのか?


 トリスタンに視線を向けるとその目には隠しきれない殺意が浮かんでいる。


 同感だ。


「トリスタン」

「はい」

「さっきは乱暴にして悪かったな」

「いえ。元々は、騙された私が悪いのです。この愚か者に喝を入れてくれて、こんなにして頂いて、感謝しかありません。ですが、無茶を承知で、あらためてお願いさせて頂きます。どうか、娘を救ってください」

「ああ。もちろんだ。絶対に救う」


 そして、トレーネを救う為の作戦会議が行われた。


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