第二十一話 就職
とても恐縮な評価をありがとうございます。
ご期待に応えられるよう、精進してまいりたいと思います。
怒涛のような一日を終えた翌朝。
俺は、目が覚めると昨日のことを思い返していた。
カルテの告白やクライネの炎魔法、フロインドリッヒの蘇生魔法も強く印象に残っているが、それ以上にフロースを抱き締めて泣いて喜ぶ両親のことが頭から離れなかった。
あの家族の幸せを守れたことに、俺はかつてないほどの達成感を覚えていた。
そして、それを仕事としているクライネの両親に対して羨望のような感情があった。
クライネの言葉が思い出される。
『ウチで働いてみるのもいいかもしれません』
もはやそれ以外に選択肢が無いように思えた。
働かせてもらえるか、聞いてみよう。
俺がそう決意をした時、ドアがノックされた。
「ハルさん。起きてますか?」
クライネの声だ。
「ああ。今起きたところだ」
そう答えると、「失礼します」と言ってクライネが部屋に入ってきた。
クライネはパジャマのような格好で、更に結構派手に寝癖もついていた。
起床してすぐなのだろうと思われた。
「おはようございます」
「おはよう」
「昨日はお疲れさまでした」
「ああ。クライネも。助かった」
「いえいえ。ウチの仕事を手伝ってもらったんですから、助けられたのはこちらですよ。それで、ハルさんにお話があって来ました」
「というと?」
「ハルさん。ウチの――」
「ちょっと待ったーーーーー!!!」
突然の大声と共にバタバタと足音が近づいて来る。
クライネは何が来るのか分かっているというように溜め息を漏らす。
慌ただしく部屋に入ってきたのはこれまた寝癖の酷いベリービッヒだった。
「抜け駆けは駄目だろ、クライネ?」
それを聞くとクライネは舌打ちする。
一体何が始まった?
「ハル。昨日はウチの仕事を手伝ってくれてありがとな。本当に助かった。ついては――」
「ハルさん。ウチのパーティに入りませんか?」
「ちょ、こら!ハル!ウチで働かないか!?」
クライネとベリービッヒが睨み合いを始めた。
「クライネ。昨日の夜、父さんが最初に『ハルがウチで働いてくれたらな』って言ったよな」
「ハルさんとは前にミーレの皆と食事をしてるんですよ。私の方が先です」
「ちょっと待ってくれ。俺はまだ――」
「ハルさん。一度でいいです。旅に一緒に来てください。色々な場所で、色々な人々が、色々な生活をしています。そんな人達を知ることが出来るのも、冒険者という仕事ならではですよ」
「ハル。お前が自ら申し出て捜索に出た話を聞いて俺は雷に打たれたような気持ちになったんだ。ウチにはこの街の色んな人がやってくる。皆、困ってる人だ。でも、俺やグーテじゃどうしようもないこともある。昨日のがそうだ。人探しの仕事の時はそんなのばっかりだ。でも、お前がいれば救えるかもしれねえ。どうだ、ウチで働かないか?」
そう言って二人がグイと寄ってくる。
クライネには悪いが、俺の心は最初から決まっている。
……。
だが、クライネの言葉に胸がときめいたのも事実だ。
前にカルテが言っていた。
冒険者とは世界中を冒険する人達だと。
その時にも心が踊るような感覚があった。
クライネは、どんな景色を見てきたのだろう。
どんな人々を見てきたのだろう。
どんな体験をしてきたのだろう。
そんなことを、つい考えてしまった。
だから――。
「よろず屋として、働かせてほしい」
「よっしゃ!」
俺の言葉にベリービッヒが満面の笑みで歓喜の声をあげる。
一方でクライネは肩を落とす。
「だが、冒険者の仕事もたまにやっていいだろうか?」
その言葉に沈んだクライネの顔が明るくなる。
ベリービッヒも納得という表情だ。
「あー、そうだな。それならいいぞ」
「ハルさん。ありがとうございます」
「うまいこと良いとこ取りしたな」
「まったくですね」
俺は苦笑を返す。
どちらか一方だと後悔しそうだと思ったのだ。
仕方あるまい。
「さーて、じゃあとりあえず朝メシでも食うか」
「ハルさんも食べてってください。その後で、一緒に家探しを手伝いますよ」
「ありがとう。でも家探しまでいいのか?結構時間かかると思うぞ?」
「大丈夫ですよ。私は休暇中なので。風魔法についての話もしたいですし」
そう言うと、クライネはニヤリと笑う。
「あ、ああ……。じゃあ、すまないが、よろしく頼む」
そのクライネの目に不安を覚えながらも、ひとまずその申し出を受け入れることにした。




