第四十一話 出発
翌朝、いつもより遅い朝を迎えた。とは言っても普段は朝日が昇る前に起きて、今朝は日が昇って少ししたら起きたくらいの違いだ。普段が早すぎるのだ。しかしこの国の国民の朝は皆早い。すでに外は騒がしくなっている。国民からしてみるとタローの起きた時間は十分に寝坊したと言える時間なのである。
タローが寝坊した理由といえばもちろん昨日の食事のせいである。あれから様々な料理が運ばれてきてそれの一品一品に感動して舌鼓を打った後その場にいたララドやガンドル、農騎士といった人々と会話を楽しんだ。どれもこれも雲の上だと思っていた人々で未知の領域の話をしてくれる。その話に感動するあまりであった。
その際フィーの服やタローの服のことなど聞かれたのだが借り物なので詳しい話は知らない。そのため途中からはポチの周りに人だかりができていた。そのあまりの人気っぷりにタローは嫉妬したものである。
そんなことよりも今は急がなくてはならない。何せ今日はリカルドの農場に久しぶりに行こうと思っているからだ。そして場合によってはそのまま帰ろうと思っている。やることはもうやりきったしトマトのことが心配だ。しかも農地を増やしたのでそれに合わせて苗も増やさなくてはならない。戻ってからやることがありすぎるのだ早いところ戻らなければと少し焦っているのも確かだ。
しかし今日だけは楽しもうと心を入れ替え急いで準備を始める。ポチはすでに起きているようでしたで食事をしている声が聞こえた。覗きに行くとポチとおばあちゃんが一緒に食事をしていた。見ているといつもよりも調子が良いように見える。今回の帰省では忙しくてあまり話していないのだが母曰くタローが帰ってきてくれたおかげで調子が良いと言っていた。まあその後もっと長い間いてくれればと話し始めたので途中で逃げたのだが。
しかしそこでフィーがいないことに気がつく。いつもならいるのだがタローと同じで昨日騒いだせいで疲れていたのかもしれない。寝かせておいてやりたいところだがやることがあるのでそういうわけにはいかない。急いでフィーの部屋に向かいそのまま扉を開ける。
しかし開けている途中で部屋から声がすることに気がつく。そこでタローはノックをしていないことに気がつく。まずいと思ったがもう止められない。そのままの勢いで扉を開く。そこには
「はっ!夜叉の構え!!」
なんか変な動きをしているフィーがいた。はっと目が合ってしまったがタローはゆっくりと扉を閉める。タローも大人なのだ。何も見なかったことにするくらいできる。そっとポチのいるリビングへと降りていく。
しばらくしてフィーが下に降りてくる。その表情に羞恥心などは一切ない。それどころか明るく挨拶までしてきた。そのまま食卓に着くと食事を始めた。タローはあまりの気まずさにうつむいてしまう。それを見たフィーが思い出したようにタローの方を見る。
「タローさん。いくらなんでもノックもせずに女性の部屋に入るのはどうかと思いますよ。前もありましたが今回は何もなかったので許しますが次からはちゃんと注意してくださいね。」
「え?あ…うん。気をつけます。」
どうやらなかったことにしたいらしい。そう思ったタローはそれもまた大人の対応だと思い食事を再開する。自分も大人になったものだと少し誇らしく思った。
『またやったのかこやつは…懲りんやつだな。』
「本当ですよ。まあ着替えの最中じゃなくてヴァンパイア体操第4をやっていた時だったので特に起こりませんけど。」
(え?ヴァンパイア体操第4!?なにそれ!今まで見たことも聞いたこともないよ!というか第4ってことはその前もあんの!?)
パニック状態になるタローである。そんな大層聞いたことがなかった。農地にいる時も見たことがなかった。しかし実際はヴァンパイア国内では有名な体操で国民全員が知っている。タローが知らないのは農地にいる子達は普段の業務が始まる前に各自で行ったり空いた時間にやっているので見たことがないだけである。
ヴァンパイア国内では大人は特にやらない。なぜなら面倒だから。やるのは子供や老人なのだが朝日が昇る前にやるので見る機会がないのだ。孤児院に関しても同様の理由である。タローが行くのは日が昇ってから少し経ってからである。見る機会はない。
今タローの中ではものすごく聞きたい気持ちでいっぱいである。できることならなにそれ!と大声で叫びたい。しかしタローは未だに信じられずにいる。もしかしたらポチがうまいこと口裏を合わせているのかもしれない。ここで聞いたら馬鹿にされるかもしれないと思うとなかなか聞けない。
そんなもどかしい気持ちになっているといつの間にか食事を終えていた。正直もやもやしすぎて味がわからなかった。せっかくの母の味だというのに…
「食事も終わったことですし行きませんか?時間も多くはないのでしょうし。」
「あ、ああ…そうだね。行こうか。」
結局聞けずに数日後にあまりにももやもやしすぎて聞きに行くことになるタローであった。
その後母とおばあちゃんに別れをすませ移動を開始する。父は既に仕事に行ってしまったらしく話すことができなかった。その後大通りを通りながら門に向かう際に手土産一つなしというのはさすがにまずいと思い適当に買い物をすませる。その際にフィーとポチがまた変なものを見つけ買うはめになるのだった。
城門ではまた面倒なことになるかと思いきや初日にあそこまで騒ぎになったせいでタローたちのことを知らない人間はいなかった。そのためすぐに手続きが終わり出ることができた。そのままポチに乗り移動を開始したがさすがにポチの足では数分でついてしまった。タローの足でも5時間もあれば着くのだがそれでもここまで短時間で済むのはさすがである。
タローは懐かしく思う。数年前にここを飛び出してから様々なことがあった。苦しく辛い時が長かった。挫折しやめようと思った時もあった。それでも今こうしてここにいる。いや、あれがあったからこそ今ここにいると言えるだろう。
既にリカルドの農場に立つ家が見える。ポチの足なら数秒で着く距離だ。それでもここからは歩いていきたいとポチに降ろしてもらうことにする。自分の足で歩きたくなったのだ。ポチも何かを感じ取ってくれたようで降ろしてくれた。フィーも何かを察してくれたのか一緒に降りてきた。何も言わずにただ微笑んだフィーを見た時なんだか無性に嬉しくなった。
その後ゆっくりと一歩一歩踏みしめながらリカルドの農場にむかう。その一歩一歩が何だかとても嬉しくなる。まさか自分がこうしてここに来れると思っていなかったであろうか。何を思っているのかは自分でもよく分からない。
ただタローは前を向いて堂々と歩く。一歩一歩を踏みしめ自分を成長させてくれた場所へと歩む。
書いている途中で最終回っぽいなとは思ったんですがまだ続けます。
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今後もよろしくお願いします。
こんなことを言うと本当に最終回っぽいな(笑)




