第三十五話 獣神
今回短めです。
「まったく……ポチのせいで空気悪くなったじゃんよ。どうすんのこれ?」
『何を言うか!元はと言えばわれの土地を勝手に使ったこやつらが悪い。そもそもこの土地の協定がなぜなされたかも知らんのか?』
タローはもちろんそんなこと知らない。というか獣神さえもろくに知らなかったのだ。知っているはずがないだろう。だがギルドマスターのガンドルと農騎士たちは知っているようだ。
ガンドルは淡々と話し出した。
「この協定は初代国王陛下がとりなされたもので当時の大規模な土地の耕作地化による森林破壊を防ぐものだったというのが建前だ。まあそれが本心でもあったのだが本来は獣神と呼ばれる強大な力を持ったものたちとの戦争を恐れ契約によって人間たちに不可侵領域を設定した。それがこの領地の話なのだ。」
『うむ。まあ抜け道などは幾つかあるのだが基本的にこの契約は絶対だ。ただ契約がなされてから幾星霜の年月が経った。契約の更新をせねばただの口約束にしかならんからな。今回の件も契約の効力が薄れたから起きたのだろう。』
「へぇ〜〜」
「す、すごい話なんですよ!なんでタローさんはそんなに他人事なんですか!」
(いやだって他人事だし)
そんなことを考えているのを察したのかフィーはジト目でタローを見ている。いやんえっち、とふざけたタローに対して今度はゴミを見るかのような目で見てくる。
少しクセになりそうだったのは言わないでおく。
「けどそんなに大事な契約なら人間側にも地図とか残っているんじゃないの?」
「じ、実はな……盗まれたのだ。」
「はい?」
ガンドルは話してもいいものかと口ごもるが仕方ないと話し出す。
「他言無用で頼むぞ。実は20年ほど前に王国の宝物庫に賊が入ってな…国宝を含む数点が盗まれた。その中にこの契約によって取り決められていた地図も入っていたのだが…。未だに犯人も見つけられず、王国の宝物庫に賊が入ったなどそんな大恥を晒すわけにはいかぬから知っているものには箝口令が引かれておる。」
あ、やばい。国の機密を知ってしまったと青ざめるタロー。頭の中では自分がうっかり話してしまった後牢屋に入れられて拷問を受ける風景を思い描いている。
『犯人の姿も見ていないのか?気がついたら消えていたと?』
「うむ…警備だけは厳重にされておった。誰かが入った形跡すらもないのだ。」
ポチはガンドルの言葉を聞いてこれまでに聞いたことのないような大きなため息をつく。それがどんな意味のものかわからないタローを含めた一同はポチに注目する。
『あのジジイ…本当にろくなことをせんな……』
「は、犯人を知っているのか!?」
ポチの言葉にガンドル及び農騎士たちは「おお!」と歓声をあげる。長年追っていた犯人を知っているというのだ。これほど嬉しいことはないだろう。
『犯人は同じ獣神の…ネズミの次郎吉だ。奴は盗みが得意でな。誰にも気づかれずに侵入できるのは奴しかおるまい。今度会ったら我の方からそれだけでも返すように言っておこう。今はこの地図を複製しておくと良い。』
「獣神ってネズミもいんのか。どんなやつなんだ?」
『奴は最古参でな。12獣神が始まって以来一度たりともその座を変わったことはない。強いか弱いかは誰にもわからぬ。ただ一度も変わったことがないということからおそらく強いだろうと思われておる。』
ポチの言葉に皆感心するが一つだけ気になる点があった。一度も獣神の座から変わったことがないということだ。皆その点に気がついたのだろう。教えて欲しいと言わんとばかりにポチを眺める。ガンドルだけはもしかして、というおそらくの答えが考え付いているようだ。
『気になっているようだな。まあ隠すことでもないだろう。奴はこの世で唯一の不老不死の存在だ。どうやったかは知らんがな。おそらく盗んだものの中にそう言った霊薬があったのだろう。謎の多い小賢しいジジイだ。』
「ポチもあんまり好きそうじゃないな。何かあったのか?」
ポチの言葉に呆れと若干のいらつきがあったのを不思議に思い尋ねる。ポチは又しても大きなため息をついた。
『昔な。我が獣神になったばかりの頃だ。奴は一郎との思い出の品を盗みおったのだ。あまりの怒りに奴の領土の山々を幾つか消しとばしたくらいだ。その際に詫びと言って酒を共に飲んだのだが口達者なジジイだな。』
「酒一つで仲直りできるってことはそこまで悪い奴じゃないみたいだな〜」
「ちょっと待ってください。いま山を消しとばしたとか……」
「わしとしてもそちらの方が気になるのだが……もう突っ込んだら負けか…」
タローの感覚が他の皆と全く違う。というのもタローはあまりに弱すぎて強さのレベルがよくわからないのだ。山を消しとばしたと言われても強かったらそのぐらいできそうだなぁ、というくらいのものである。
タローとポチ以外はもう既に話がすごすぎてついていけなくなっている。
『そんなことはどうでも良いであろう。話を戻そうではないか。』
「元に戻すって何の話していたっけ?…ああ、地図を複製するってとこか。」
「それもあるが今回の詫びとしての報酬だな。細かい手続きを終わらせてしまおう。時間がかかりそうだが宿は取ってあるか?」
「それなら今日は実家に戻るだけなので大丈夫です。いいよね父さん?」
「あ、ああ…もちろんだ。」
後ろに立っていたタローの父は突然話を振られて驚いていた。なんせ話のレベルがすごすぎて今までついていけていなかったというのに急にこんな話を振られるとは思ってもいなかったからだ。
タローはそんなこととも露知らず急だったけど問題なさそうなことに一安心した。だがタローは思い違いをしていた。タローの父はタローだけが泊まると思っているようだが、タローとしてはポチとフィーも泊まると思っている。
このことでまた一悶着あるのだがそんなことを知らないタローは呑気な表情で土地の契約を済ませていく。




