第三十四話 契約と農地
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タローたちが現在行っているのはモンスター登録。モンスターとは魔物、魔獣などの総称である。魔物と魔獣の線引きは現在も問題があるのだが今のところ魔力から生まれたものが魔物。獣が魔力によって変質したものが魔獣。なお魔物と魔獣から生まれたものはどうするのかなど色々論議は尽くされているのだがギルドでは面倒なのでモンスターとひとくくりにしている。
ポチを登録するのだがここで一つの問題が起きている。今もその問題のせいで登録に使う登録書が燃えている。
「ふむ…格が高すぎて普通の登録書では登録できぬか。今のものは今用意できるものの中では最大のものなのだが一体どうするか…」
モンスター登録とはモンスターと人間を一定の契約魔法によって契約させるものだ。この契約魔法をしていないとモンスターが勝手に暴れまわった際に契約者が止めることができないのだ。また契約を行わずにいるとモンスターが主人を襲うこともある。そのため契約が必要不可欠なのだが
「あの…別にそこまでする必要なくないですか?ポチはそんな勝手に暴れ回るようなやつじゃないですし。」
タローから言わせてみれば契約なんてどうでもいい。本来契約魔法とは契約者より弱い相手の場合に使うものなのだ。今回は完璧なイレギュラー。ポチの方が圧倒的に強い。そもそも今こうしてタローに心を許しているのがおかしいのだ。モンスターは本来自分より強い相手にしか心を許さない。
「しかしのぉ…問題が起きたら…」
「その時は責任を全部追いますよ……ポチが」
『おいそこはお主がだろう。何いい顔して言っているのだ。』
「えー…いやだよお前の責任だろ?俺関係ないもん。それに問題起こさなきゃいいんだよ」
ギャーギャー喚きあっているが結局どうしようもない。登録はできないということになると街中を出歩くことはできない。そこでガンドルは結果的に特例を出すことにした。
「特例として出しますがこのことは誰にも言わないように。それと契約したとしてその証に何か付けて欲しいのだが…」
登録されたモンスターには契約の証としてギルド発行のタグをつける必要がある。そのタグから契約者は誰かなどを読み取るのだ。
「つけるんだとしたら…」
『「首輪だな。」』
ポチとタローの意見が一致した。そんな二人を見て周りはぎょっとする。
「く、首輪かね…首輪というとかつて奴隷がしていたからあまり好まれないと聞くが…」
『それはお主達の価値観だろう?我から言わせてもらえばピアスをしている方が驚きだがな。なぜわざわざ自らの体に穴を開ける?エルフ達からすればそれこそ野蛮な行為だぞ?』
ポチの意見は理を得ている。確かに価値観から考えてみればピアスを開けるのも首輪をつけるのもありだと考える人もいれば、なしだと考える人もいる。結局は好みの問題である。
「あ、どうせならスカーフにするか?取り外しも楽だしおしゃれじゃない?」
『ふむ…その案は良いな。では後でいいのを探すとしよう。』
ポチとタローは盛り上がっている。その様子を見てフィーを含めた他の者たちはいいのか?と疑問に思っている。
「で、ではこの件は片付いたとして次の案件に移ろうか。借金の返済ということだが金はすぐに容易できるのかね?」
借金の問題。タローとしては真っ先に解決したい問題だ。タローは早速懐から収納袋を取り出す。そしてそこであることに気がつく。
「あ、あのぉ…この金貨って使えますか?」
タローが取り出したのはパイア金貨。この国では主にこの周辺で最も大きい国、アグリ帝国のアグリ硬貨が使用されている。つまり基本的にはパイア硬貨は使われていないのだ。
「ほほう…なるほどパイア硬貨ですか。この硬貨を使用する場合こちらの通貨に変える必要があるが…現在のパイア金貨のレートはどの程度になっておるかね?」
ガンドルはそばにいたタローの父に確認を取らせる。幸い必要そうな書類は持ってきてあるので確認はすぐに済みそうだ。
「この資料によりますと…パイア金貨1枚当たりのレートは…アグリ金貨2.47枚となっております。」
「なるほど…かなり高いレートですな。残りの返済には手数料を込めて…パイア金貨60枚になるがありますかな?」
「あります。あとついでに今の農地の周辺の土地も買いたいので一緒に計算してもらっていいですか?」
タローとガンドルで周囲の土地を含めた取引の話を進める。とは言ってもタローの買ったあの土地周辺はあまりにも人気がないためかなり相場が安い。タローはこの値段ならまとめて買ってしまえとどんどん買う土地が大きくなる。
周りで見ていたタローの父とサチとジェイクは驚きの表情を隠せない。数年前まで駆け出しだった少年の買える金額をはるかに上回っている。こんなことは見たことも聞いたこともなかった。
「で、ではこの周囲の土地合わせてパイア金貨ですと……6895枚になりますが…」
「わかりました。いまだしますね。」
タローは収納袋から金貨の大袋6と小袋を9つ取り出してそこから5枚抜き取る。その様子を見ていた一同は唖然とする。フィーも正直ここまで稼いでいたとは思いもしなかったためぽかんと開いた口がふさがらない。
「いろいろ聞きたいことはありますが…とりあえず今はこの金貨を数えることにしましょう。」
これだけの数なのでサチたち3人がかりで運んで行った。さすがに一度では運びきれなかったので何度か往復する羽目になっていた。
「じゃあその間に新しい農地を買いたいんですけどどこかいい土地ありませんか?」
「ま、まだ余裕が?」
「正直厳しいですけどとある都合で新しい土地が必要なんです。」
はははと笑いながら頭を掻く。そんな様子を見てゴクリと息を飲むガンドル。タローの横で様子を見ていた農騎士達は興味深そうにその様子を見守っている。
ガンドルは農地の一覧表をタローに手渡し話し合いを始めた。タローがかなり金を持っているということで今回はギルドで管理する農地の全てを見ながら話し合いを始めている。フィーはあまりよくわからないのでお茶を飲んでいるがポチは暇なのでその一覧表を眺めている。
「うーん…いろいろあるけどどこも高いしこれ以上はさすがにお金使えないんだよなぁ…安いと危険が増えてくるしなかなかいいところが…」
「ふむ…これ以上は出せないとなるとここから先の資料は見なくてもいいでしょうな。手頃となると…ここの農地なんかはどうでしょ?」
「ビ、ビート山脈はちょっと遠くて…今の農地からなるべく近いところでお願いします。」
「そうなると…」
ガンドルはいろいろ案を出してくれるがどこも危険地帯ばかりだ。まあこのくらいの値段だとそうなってくるのが当たり前なのだが全く戦えないタローとしてはモンスターのでない土地が良い。
『む?待て。少し戻ったところの今の資料を見せよ。』
ポチに言われてガンドルはページをめくっていく。何ページか戻ったところでポチが止めた。
「この土地か?土地のランクもBランクで高いのに随分安いな…もしかしていわく付き?」
ポチが止めたところは森の近くにある農地で立地も農地の評価も十分である。それほど危険なモンスターも出てくることはなく比較的安全な土地である。かなりの良物件だ。
「この土地か…この土地は残念ながらAランクファーマー限定となっているからお主は借りることはできんぞ?この土地は他の農家が勝手に開墾した土地だから農地が何か危険な生物のテリトリーに侵入している可能性があると書かれておるから危険なのじゃ。」
タローはその言葉を聞いて納得した。こういう話は割とある話なのだ。農地を新しく開墾したらそこがモンスターのテリトリーで、戦いが起こる。農地なんてものは何かの生物の領域を荒らさなければ手に入らないのだ。
『ここは…我の領地だ。』
とまあこういうこともあるのだ。
「え?ここポチのテリトリーなの?」
『前にお主に魔力水を組んできたことがあっただろう?あの水を汲んできたのはここから少し入ったところだ。これはどういうことかな?』
空気が変わる。先ほどまでの和やかな雰囲気から一変して空気がピリピリし始める。ガンドルも農騎士達も皆顔を強張らせ息を飲む。タローはそんなこともお構いなしに茶をすする。
「そ、それは事実かね?」
ガンドルはポチの言葉が信じられないという雰囲気だ。
『タローよ…袋の中にあるミスリルの箱を取り出せ。』
タローはポチに言われた通り収納袋の中を探す。実はこの収納袋の中身はトマト以外にもポチの私物がかなり入っている。この収納袋は本人の取り出したい物が取り出せる。そのため何が入っているか理解していないと取り出せないという欠点がある。
タローはゴソゴソと収納袋の中を探りそれらしきものを取り出した。
「ぽ、ポチ…重くて…取り出せない…」
箱の縁だけが袋から見えているがそれ以上はタローの力では無理だった。しょうがないのでポチが咥えて取り出す。
取り出されたミスリル製の箱はかなり大きく中に人が何人か入れそうだ。それを床の上に出したポチは何やら呪文のようなものを唱えたかと思えば一人でに箱が開く。そこには様々なものが入っている。だが基本的にどれもボロボロである。例えば赤い小さな首輪、何かわからぬほどに変形したぬいぐるみ。農騎士達も初めは興味深そうに覗いていたが何も価値あるものがないとわかるとすぐに興味を失っていた。
だがタローにはそれがいったいポチにとってどれだけ大切なものなのかすぐに理解した。おそらくあれはポチが小さかった頃田中一郎から与えられたものだろう。田中一郎との思い出の品はポチにとって何よりの宝なのだ。これも結局のところ個人の価値観の問題なのである。
『ふむあったぞ…これを見よ』
ポチが取り出したのは何かの地図である。そこには何色もの色で塗られた土地が存在している。
『これは先代から獣神の座を譲り受けた際に預かったものだ。この彩られた部分がそれぞれの領地になるわけだが…ここを見よ。そこの農地のある部分は我ら狼の獣神の領地になっておる。』
ポチの言った通りポチの領地の中に今ギルドで紹介された農地が入っている。これは確固たる証拠だろう。
『ちなみにこの領地の取り決めには貴様らの国の先代の王たちと取り決めがされこの領地は犯さないと約束されておる。今回の件は歴とした違反行為であるぞ?これはどう説明するつもりだ?』
そんな話タローは今まで聞いたことはなかったがガンドルは汗を流している。横で聞いていた農騎士たちも顔が青ざめている。どうやら国の中でもある程度の地位にならなければこのことは知らされないようだ。ふむ…茶がうまい。
「も、申し訳なかった…まさかこんな事態になるとは…」
『知らぬ存ぜぬでは済まされんぞ?きっちりと落とし前をつけてもらわねばならぬ。このまま我がこの国に攻め入っても文句は言えぬのだぞ?』
ポチのその言葉に全員がおし黙る。部屋の中では時計の針の進む音だけしかしない。そしてそんなこともお構いなしにとタローは茶をすする。フィーは音も立てずに飲んでいる。あちらは紅茶、タローは緑茶。やはり緑茶は音を立てて飲まないと味が良くない…ような気がする。
「ふぅ…ポチその辺にしとけよ?別にどうでもいいくせにわざわざそんなことまでする必要はないよ。目的は理解しているけどやりすぎじゃない?」
『すまんな。つい面白くなってきたので止められなかったわ。まあこんな取り決めは正直どうでも良いのだ。我が領地とは言ってもよく人間やらなんやらが立ち入るし領地だからといってやることもないしな』
ポチは愉快そうに笑う。そんな様子をタローはジト目で見ている。ガンドルたちはホッとため息をついている。
『だが領地を荒らしたのは事実だからな。謝罪としてこの領地はいただくぞ?後残りの手続きなどにかかる費用はそちらに払ってもらおう。それと…この国に滞在する間の金銭も欲しいからな。金貨60枚ほどいただこうかな?』
「それで許してもらえるというのならこちらとしてはありがたい限りだ。すぐに取り掛かろう。しかし今回の件は大事だ。他にも何かないかね?」
『ふむ…タローは何かあるか?』
「うーん…特にないし、残りは貸しってことにしとけば?」
そうしようということでその場はおさまった。
そんなことがあったとは知らず金貨を数え終えた3人が入ってきた。熱気と嫌な空気を感じた3人は動きが止まったという。タローは苦笑いしかできない
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