その後。
『勇者を堕とした大罪人』として人々の憎悪を一心に受ける存在として、しっかりと歴史に名を刻むこととなったマリリアーナは、今、とても幸せだった。
魔王城での生活を送る日々だが、それはそう、娼館での生活と代り映えはあまりない。
さすがに仕事をしようとは思わないが、朝起きて、食事をして、掃除に料理、息子と遊んで、顔を合わせた魔族達とおしゃべりして、時々城の外にでて魔族の女達の井戸端会議に参加、買い物もして、と毎日元気に楽しく生活している。
今まで構ってあげれることが少なかった息子との時間が、やっぱり何よりも嬉しかった。
時折、懲りずに遊びに出掛ける吸血鬼ローザン達に頼んで、花街にも親子で顔を出す。店主達の変わらない様子を喜び、魔族の影響下に置かれたというのに一向に変わる様子もなく、人間達が享楽の為に通ってくる光景に笑みがこぼれる。
一つ、変わったことがあるとすれば、それは魔族達が自分の正体を隠す必要がなくなったことだろう。それさえも、娼婦達にとっては別に気に留めることでもなかった。「なんだ、そうだったの」という反応に、「知ってた。隠すの下手過ぎるんだもの、旦那。うっかり言いそうになったりしなくて済むから、楽になるわ」という反応が意外に多くて魔族達はちょっぴり落ち込んだりもした。
マリリアーナは幸せだ。
例え、どれだけ罵られ、人の世界に戻ることなど出来ない立場になっていたとしても、それでもマリリアーナは幸せだった。
幸せなのだから、自分がどう呼ばれていようと気にもしない。
可愛い息子の肩書が『勇者』でなくなったのだから、自分の肩書がどうなろうと、それは仕方のない代償のようなものだと諦めがつく。
『勇者を堕とした女』は魔王城で、息子や魔王を始めとする友人達に惜しまれながら老衰によって死ぬまで、笑顔を絶やすことは無かった、と。
人の世界では決して語られることは無かった。
身勝手な話にお付き合いくださり、ありがとうございました。