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蘇るなら若い方で

 ある日の午後。

 みすずが事務仕事を終えると、デイブが筋トレをしていた。

 ダンベルを握り、腕力を鍛えている。


「そんな筋トレして、辛くないんですか」


「辛いよ。でも、だからと言ってやらない言い訳にはならない」


 血行が良くなり体がぽかぽかしているのか、デイブは上機嫌で言った。


「そーゆーもんですか」


「そういうものだよ。いざ筋肉が必要になったとき後悔したくないからな」


「筋肉が必要なとき? たとえば……炒飯をデカくて重いフライパンで炒めるとか」


「凶悪犯を捕まえたり依頼人の修羅場を抑えたりするときだよ」


「崖から飛び降りた犯人を上にひっぱり上げるときとか!」


「サスペンスドラマじゃありがちだ」


「んー。やっぱり私はいいや。遠慮しときます」


「そうか。筋肉痛は心地いいぞ。トレーニングをした実感が湧く」


「そもそもなんで筋トレしないと筋肉がつかないんですかね。脂肪みたいに勝手についてくれれば苦労しないのに」


 デイブはハハハと笑って言った。


「無理にやることはないさ。俺は筋肉担当だからな。適材適所が一番だ」


 みすずは面白いことを思い出したと言わんばかりに言った。


「あ。適材適所と言えば、面白い話を聞いたんです」


「なんだ?」


「歴史に名を遺した天才をよみがえらせてまた発明してもらうプロジェクトがあったとかなかったとか」


「ずいぶん極端な適材適所だな」


「結局、蘇生は失敗したみたいで大々的なニュースにはならなかったんですよ」


「よみがえりか……」


 今まで成功した事例は無い。肉体が完全に朽ちた人間がよみがえるのは難しい。DNAから肉体を再構築しても、本人の記憶や人格は戻ってこないからだ。


「ま、よみがえりってあまり魅力的じゃないですもんね」


「そうなのか!? みすずはてっきりそういうの進んで被験者になるもんだと思ってたよ」


「だって、よみがえらせるのって、誰かがその人を必要としていたということで……いや、もっと言えば、働かせたいからじゃないですか」


「たしかに『愛する人とまた逢いたい』とかじゃない限り、本人にとってはいい迷惑かもしれないな」


「つまりよみがえる人が魅力的に感じていないことが、失敗の原因なんですかね?」


 冗談めかして言うみすずに、デイブも笑って答える。


「その可能性も否定できないなぁ」


「私がよみがえるなら、若い状態にしてほしいですね」


 みすずの言葉に、デイブはニヤリと笑った。


「いやもっとだ。全盛期以上が良い」


「整形もして、ものすごい美形にするとか?」


「ああ。そもそも仕事なら報酬を払ってもらわないとな。雇用契約書も必要だ」


「仕事辞めたら文字通りクビが飛びますからね。そこは慎重にいきましょう」


 かしこまった調子で頷くみすず。


「そうだなぁ。わざわざ仕事するためによみがえるなら、とびきり良い作業環境を用意してほしいな」


 デイブの呟きに、みすずが閃いたと言わんばかりに身を乗り出した。


「いっそのこと、脳の体積と手と眼も増やしましょう。これなら一人で何人分も仕事できますよ!」


「なるほどその手があったか。現実でも手足が沢山ある生き物はいるしな」


「ん? いや、ちょっと待ってください。……それって蜘蛛とか虫とかですよね。……でも、彼らは大脳が発達していないんじゃ?」


 怪訝な表情で考え込むみすずに、デイブは言った。


「形態と知性は関係があるのかもしれないと?」


「ええ。手じゃなく指ですよ! 指が発達している動物は知能も高いはず。だから指を増やしましょう」


 デイブは首を左右にブンブン振った。


「いやダメだ。バケモノすぎる! 形は人と同じにしよう」


 みすずは唸る。


「なら、分裂した個体を操作するのはどうでしょう。複数の体を同時に操作するんです。これなら個々の形は人間と同じですし、社会にも馴染めるはずですよ」


「いいな。仕事と同時に娯楽も楽しめそうだ」


「じゃあ私をよみがえらせるときはその方法でお願いします」


「やだよ。遺言書に書いておくんだな」


「雇用契約もセットで置いときますか」


「……その前に、みすずは死なない努力をすべきだよ」


 デイブの言葉に、みすずは苦い顔で呟いた。


「やっぱり、はじめてみようかな。筋トレ」


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