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記憶の商人 後編

 デイブの視線が、資料の文字を泳いでいく。

 そして、ある可能性にたどり着いた。


「まさか。最初の犯人の体?」


「そう。犯人だって人間なんです。捕まりそうになるたびに体を乗り換えているのなら、オリジナルは今、刑務所の中にいるはず」


「たしかに犯人自身に囮捜査をしてもらえれば、捜査官を危険に晒さずにすむ。……しかし今捕まっているのは組織の末端であると信じ込まされているはずだ。そいつが律儀に捜査に協力してくれるかわからないぞ」


「大丈夫。もっともらしい司法取引をでっち上げればなんとかなりますって」


「……でもそう上手くいくか? 犯人は自分が誰かわかっているはずだ。もし自分の体が客として現れたら、すぐに囮捜査だと気付くんじゃないか? それに記憶だって読まれる。捕まったはずの人間がそんなすぐに釈放されるのはおかしいだろう」


「釈放を早められたとか、なんなら裁判所で偽の判決でも見せればいいと思います。どんな人間でも自分の体は惜しいはず。万が一戻れるなら、私なら見逃しません」


 自分が組織の末端だと信じ込んでいる犯人が、再び金を稼ぐために組織に戻っていく。そうして、犯人が自身の体に戻ってくれれば、犯人の意識と体をセットで捕まえるという作戦だ。

 たとえ嘘でもそれを事実として見せることで、見た人の認識の上では現実となる。


「そうか。記憶を見れることを逆手に取って……」


「記憶を操るのなら、こちらも同じ戦場で戦えばいいんですよ」


「結局、なにが真実か決めるのは人間か」


「……とりあえずこの仮説は警部に伝えておきましょう」


「無事に捕まえられるといいな」


「ですねぇ」


 みすずとデイブは、ひと仕事終えたとばかりに椅子に背を預けた。

 頭を使った疲労感が心地よい。


「……なにか甘いもの食べたくないですか?」


「言うと思ったよ。こいつを開けちまおうか」


 そう言って笑いつつ、デイブは棚から平べったい小箱を取り出した。表面には老舗の和菓子メーカーのロゴが印字されている。


「あっ。来客用のやつ! いいんですか? 食べちゃって」


「構わん構わん。また買ってくるさ」


 みすずが机の上に散乱した資料を手早くまとめ、代わりにデイブが菓子とお茶を用意した。中身はまんじゅうだ。

 個包装のそれを掴みとり、いそいそと封を切る。ひと口齧れば粒あんのしっとりとした甘みが脳に染み込んでいく。


「それにしても……記憶を操るなんて危険な遺物。どこで入手したんでしょうね」


「さあな。それこそ妖しい遺物ブローカーがどこかにいるんだろう」


 みすずは寒気を振り払うように熱いお茶を啜った。


「……熱い緑茶も沁みますね」


 みすずはほっと胸をなでおろした。

 いくら記憶を買えたとしても、今この瞬間を味わえるのは自分だけなのだ。


 数日後、警部からこの推理を元に捜査をした結果、犯人が捕まったとの連絡があった。


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