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ママ友に夫も居場所も奪われるまで  作者: 熊猫ぱんだ


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28/31

全部、奪われた

 翌朝。

 真央は、ほとんど眠れないまま朝を迎えた。

 健太は帰ってこなかった。

 連絡もない。


 スマホを開く。

 通知は大量だった。

 グループLINE。

 個別メッセージ。

 知らない番号。

 全部が増えている。


 嫌な予感しかしなかった。

 スクロールする。

 その瞬間。

 呼吸が止まった。

 写真。


 また、写真だった。

 今度は。

 ホテルの前。

 健太と美月。

 二人で出てくる姿。

 完全に言い逃れできない距離。


 しかも。

 誰かが匿名でグループに投下していた。


 『昨日撮られてたみたい』

 『これ本当にやばくない?』

 『子どもいるのに無理』


 メッセージが止まらない。

 真央の指先が冷えていく。


 (昨日……?)


 つまり。

 あの夜。

 美月が家に来たあと。

 健太は。


 そのあと、美月に会っていた。

 胃の奥がねじれる。


 「……っ」


 吐き気が込み上げる。

 全部終わったと思っていた。

 違った。

 まだ続いていた。


 しかも。

 最後まで、自分だけが外されていた。

 スマホが震える。

 健太から。

 真央は数秒見つめたあと、通話を取った。


 「……何」


 声が自分でも驚くほど低い。

 健太の呼吸が荒い。


 『違うんだ』


 第一声がそれだった。

 真央は笑いそうになる。

 違う。

 何が。


 「何が違うの?」


 静かに聞く。


 『昨日、最後に話してただけで』


 「ホテルで?」


 即座に返す。

 健太が黙る。

 沈黙。

 それだけで十分だった。


 「まだ会ってたんだ」


 小さく言う。

 胸の奥が冷たくなる。

 怒りを通り越していた。


 「全部終わったって顔してたのに」


 健太が何か言おうとする。

 でも。


 「もう喋んないで」


 遮る。


 「気持ち悪い」


 その一言で、電話の向こうが止まった。

 数秒後。


 『……ごめん』


 かすれた声。

 でも、遅い。

 遅すぎる。

 真央は無言で通話を切った。


 スマホを置く。

 手が震えている。

 涙は出ない。


 その代わり。

 頭の中が真っ白だった。

 そのとき。

 玄関が強く叩かれた。


 ドン、ドン、と乱暴な音。

 真央の体が硬直する。

 インターホン。

 モニターを見る。


 美月だった。

 昨日とは別人みたいな顔。

 髪も乱れている。

 目が赤い。

 何度もインターホンを押している。


 「お願い、開けて」


 スピーカー越しの声。

 切羽詰まっている。


 「話さないとやばいの」


 真央は動かなかった。

 でも。

 外の声は止まらない。


 「ねえ!」


 焦った声。


 「私だけ悪者になってる!」


 その瞬間。

 真央の中で何かが切れた。

 ゆっくりドアを開ける。

 美月が息を飲む。


 「……真央」


 近づこうとする。

 でも。

 真央は冷たく言った。


 「帰って」


 美月の顔が歪む。


 「違うの、聞いて」


 「何が違うの?」


 真央が初めて声を荒げる。

 美月が固まる。


 「園で孤立させて」

 「写真流して」

 「家まで壊して」

 「まだ被害者ぶるの?」


 一気に吐き出す。

 止まらない。

 美月の目に涙が浮かぶ。

 でも。

 真央は止まらなかった。


 「しかも昨日、また会ってたよね?」


 その一言で。

 美月の顔色が変わる。

 図星。

 完全に。


 「……あれは」


 言葉に詰まる。


 「最後にするためだった」


 苦しい言い訳。

 真央は笑った。

 乾いた笑い。


 「不倫してる人って、みんなそれ言うんだ」


 美月の肩が震える。


 「違うの……」


 「違わない」


 即答する。


 「結局、自分が一番かわいいだけでしょ」


 沈黙。

 美月が泣き始める。

 でも。

 もう何も響かない。


 そのとき。

 後ろから足音。

 振り返る。

 そこにいたのは。

 健太だった。


 顔面蒼白で立っている。

 美月が振り返る。

 空気が凍る。

 三人。

 誰も動かない。


 そして。

 健太が、小さく言った。


 「……もうやめよう」


 その瞬間。

 美月の表情が変わった。

 涙でぐしゃぐしゃのまま。

 でも。

 目だけが、冷たくなった。


 「は?」


 低い声。

 真央の知らない声だった。


 「ここまでしておいて?」


 空気が変わる。

 完全に。

 美月がゆっくり笑う。

 壊れたみたいに。


 「私だけ捨てるんだ?」


 その笑顔に。

 真央は初めて、本気で寒気を感じた。

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