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ママ友に夫も居場所も奪われるまで  作者: 熊猫ぱんだ


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24/30

暴かれる声

 通話は、静かに始まった。


 「……もしもし」


 健太の声は低く、抑えられている。

 真央は動かない。

 スマホを握りしめたまま、息を潜める。

 録音は続いている。


 「今、大丈夫?」


 スピーカー越しに、美月の声が聞こえた。

 いつもと同じ、落ち着いた声。

 でも、少しだけ硬い。


 「……ああ」


 短い返事。

 間がある。

 互いに探っているのが分かる。


 「今日のことだけど」


 美月が先に切り出す。

 核心に触れる言い方。


 「もう、広がってるよね」


 健太が何も言えない。

 沈黙が答えになる。


 「……なんであんなことしたの?」


 問い詰める声。

 でも、完全な強さはない。

 焦りが混ざっている。


 「俺に言うなよ」


 健太が少しだけ強く返す。


 「そっちが勝手に動いたんだろ」


 その一言で、空気が変わる。

 真央の指に力が入る。


 (今の……)


 責任の押し付け。

 関係性が見える。


 「勝手にって」


 美月の声がわずかに上がる。


 「最初に動いたのはそっちでしょ」


 はっきり言う。

 その言葉に、真央の呼吸が止まる。


 (最初……)


 健太が黙る。

 言い返せない。


 「私が近づいたんじゃないよ」


 続ける。

 ゆっくりと。


 「相談してきたの、あなたでしょ」


 その一文が、深く刺さる。

 真央の中で、何かが崩れる。

 静かに。

 でも確実に。


 (そっちから……)


 想像とは違う形。

 でも、妙に納得してしまう。


 「……もういいだろ」


 健太が低く言う。

 逃げようとしている。


 「よくないから言ってるの」


 美月が返す。

 間髪入れずに。


 「こっちはリスク背負ってるの」


 その言葉に、温度が混ざる。

 怒りと焦り。

 そして。

 計算。


 「全部バレたらどうするの?」


 問い。

 でも、その中身は違う。

 守りたいのは、関係じゃない。

 自分の立場。

 それがはっきり見える。


 「……どうもしない」


 健太が答える。

 投げるような声。


 「は?」


 美月の声が変わる。

 初めて、感情が強く出る。


 「責任取るしかないだろ」


 その一言で、空気が止まる。

 真央の手がわずかに震える。


 (責任……)


 何の責任かは、もう明確だった。


 「ふざけないで」


 美月の声が低くなる。

 今までと違う。

 完全に剥がれた声。


 「こっちだけ傷つくようなことしないで」


 その言葉で、確信する。

 この関係は対等じゃない。

 最初から。

 ずっと。


 「じゃあどうすんだよ」


 健太が返す。

 苛立ちが混ざる。


 「知らないよ」


 即答。

 でも、そのあと。

 少しだけ間があって。


 「……でも、終わらせるしかないでしょ」


 静かに言う。

 その一言で、すべてが決まる。

 関係の終わり。

 切り捨て。


 「……あっさりだな」


 健太が小さく笑う。

 乾いた笑い。


 「こうなったら仕方ないよ」


 淡々とした声。

 そこに、迷いはない。


 「最初から、そういう約束だったでしょ」


 その一文が、決定打だった。

 真央の呼吸が止まる。


 (約束……?)


 ただの流れじゃない。

 最初から、決めていた。

 終わり方も含めて。


 「……は?」


 健太が戸惑う。

 理解していなかった顔。


 「深入りしないって」


 美月が続ける。


 「家庭壊すつもりはないって言ったよね」


 その言葉に、空気が凍る。


 (壊すつもりはない……)


 でも、現実はどうだったか。

 真央はゆっくり目を閉じる。

 録音は続いている。

 逃げ場はない。

 言葉は、全部残る。


 「じゃあ、なんでここまで来てんだよ」


 健太の声。

 苛立ちと混乱。


 「それは」


 少しだけ間があって。


 「あなたが来たからでしょ」


 冷たい声。

 完全に切り離す。

 責任も、感情も。

 すべて。


 その瞬間。

 真央の中で、何かが完全に切り替わった。

 悲しさでも、怒りでもない。

 ただの確信。


 (終わりにする)


 そのための証拠は、もう十分だった。

 静かに、録音を止める。

 画面を見つめる。


 消えないデータ。

 消されない声。

 これが。

 最後の切り札になる。

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