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ママ友に夫も居場所も奪われるまで  作者: 熊猫ぱんだ


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22/31

正面

 園の帰り、空気はいつもより重かった。

 周りの視線。

 ひそひそ声。

 でも、それだけじゃない。

 様子見の空気。

 どちらに転ぶのかを探っている。


 真央は立ち止まらなかった。

 子どもの手を握ったまま、門を出る。

 少し離れた場所。

 人通りが減るあたりで、足を止めた。


 「ここでいいですか」


 後ろから声がした。

 振り返る。

 美月が立っていた。

 いつも通りの服装。

 いつも通りの表情。


 でも。

 どこか違う。

 笑っていない。


 「いいよ」


 短く答える。

 子どもを先に帰らせるわけにはいかない。

 少しだけ距離を取って立たせる。

 目は離さない。


 数秒の沈黙。

 先に口を開いたのは、美月だった。


 「話が早くて助かります」


 落ち着いた声。

 余裕があるように見える。

 でも、完全じゃない。


 「何の話?」


 あえて聞く。

 主導権は渡さない。


 「もう分かってますよね」


 少しだけ笑う。

 その笑顔に、以前の温度はない。


 「分かってるから聞いてる」


 視線を外さずに言う。

 空気が張る。

 美月の目がわずかに細くなる。


 「……昨日の件です」


 やっと出た言葉。


 「義実家に連絡されたこと」


 核心。

 やっぱりそこだった。


 「したよ」


 隠さない。


 「問題ある?」


 その一言で、空気が変わる。

 ほんの少しだけ。

 美月の表情が止まる。

 すぐに戻る。

 でも、見逃さない。


 「やり方が強引ですね」


 低い声。


 「強引?」


 少しだけ首をかしげる。


 「事実を伝えただけだけど」


 静かに返す。

 逃げ道は作らない。

 数秒の沈黙。

 美月の視線が揺れる。

 ほんのわずかに。


 「……誤解もありますよね」


 探るような言い方。


 「例えば?」


 すぐに返す。

 間を与えない。

 美月が言葉に詰まる。

 初めてだった。


 「何が誤解なのか、ちゃんと教えて」


 一歩、踏み込む。

 距離が縮まる。

 逃げ場を削る。


 「……」


 沈黙。

 周りの音だけが聞こえる。

 風の音。

 遠くの話し声。

 でも、この空間だけが切り離されている。


 「ねえ」


 もう一歩、近づく。


 「続いてるんでしょ」


 はっきり言う。

 逃げられない言葉。

 美月の呼吸がわずかに乱れる。


 「……どういう意味ですか」


 まだ、逃げる。


 「分かってるでしょ」


 声を落とす。


 「健太のこと」


 名前を出す。

 その瞬間。

 空気が止まった。

 完全に。


 数秒。

 長い沈黙。

 美月の目が変わる。

 隠さなくなる。


 「……それを、どうするつもりですか」


 低い声。

 今までと違う。

 完全に表に出た声。


 「どうするって」


 少しだけ笑う。


 「もう始めてるよ」


 その一言で、空気が揺れる。


 「園も、家も」


 ゆっくり続ける。


 「全部、繋がってる」


 事実を並べる。

 逃げ道を潰すように。

 美月が黙る。

 視線を外さない。


 数秒。

 そのまま見つめ合う。

 先に逸らしたのは、美月だった。

 ほんの一瞬。

 でも、確かに。


 (崩れた)


 そう思った。


 「……やめた方がいいですよ」


 小さな声。

 でも、はっきりした警告。


 「これ以上は」


 続ける。

 その目に、わずかな焦りが見える。


 「どうなるか分からないので」


 脅し。

 でも、弱い。


 「それ、もう遅いよ」


 静かに返す。


 「最初にやったの、そっちでしょ」


 はっきり言う。

 空気が完全に変わる。

 もう、元には戻らない。

 美月が何も言えなくなる。


 沈黙。

 長い沈黙。

 そのあと、ゆっくりと顔を上げた。


 「……後悔しますよ」


 低く言う。

 その声には、まだ何かが残っている。

 余裕。

 確信。

 でも。


 「しないよ」


 即答する。

 迷いはなかった。


 「もう決めたから」


 それだけ言う。

 風が吹く。

 二人の間を通り抜ける。

 沈黙。

 完全な対峙。

 逃げも、隠れもない。


 ここまで来た。

 もう引き返せない。

 そして。

 終わりも、近い。


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