逆流
翌朝、空気が一変していた。
スマホを開いた瞬間、それが分かる。
グループLINEが動いている。
しかも、今までとは違う流れで。
『ちょっと聞いたんだけど』
『あの件、違う話もあるみたい』
『え、どういうこと?』
ざわつき方が変わっている。
一方向じゃない。
揺れている。
(来た)
昨日の行動。
義母への連絡。
そこから、確実に何かが広がっている。
スマホをスクロールする。
名前は出ていない。
でも、分かる人には分かる書き方。
『決めつけはよくないよね』
『ちゃんと見ないと』
明らかに空気が違う。
完全に味方ではない。
でも、敵でもない。
中立が増えている。
それだけで、十分だった。
キッチンに立つ。
手は動いているのに、頭は冷静だった。
(流れが逆になってる)
少しずつ。
確実に。
そのとき、背後で物音がした。
振り返る。
健太が立っていた。
顔色が悪い。
目が合う。
すぐに逸らす。
「……おはよう」
かすれた声。
「おはよう」
短く返す。
沈黙。
昨日までとは違う空気。
完全に崩れている。
「昨日の……」
健太が口を開く。
でも、続かない。
言葉を選べない。
「義母に送った」
先に言う。
はっきりと。
健太の体が止まる。
「……なんで」
小さく出た声。
「なんでって」
少しだけ首をかしげる。
「隠す理由ある?」
その一言で、完全に詰まる。
何も言えない。
「もう隠せないって言ったよね」
静かに続ける。
責める声じゃない。
ただの事実。
それが一番効いていた。
健太が座り込む。
力が抜けたように。
「……どうすればいい」
小さな声。
初めての言葉だった。
逃げじゃない。
諦めに近い声。
「それ、私に聞く?」
淡々と返す。
健太が黙る。
当然だった。
答えを持っているのは、そっちじゃない。
「自分で考えて」
それだけ言う。
もう、支える側じゃない。
その関係は終わっている。
沈黙が落ちる。
そのとき、スマホが震えた。
美月から。
画面を見る。
『少しお話できますか?』
短い一文。
ついに来た。
(動いた)
目の前の状況。
外の流れ。
全部が繋がる。
健太も気づいたのか、スマホを見ている。
表情が固まる。
「……会うの?」
不安が混じった声。
「会うよ」
即答する。
迷いはなかった。
「なんで」
その問いに、少しだけ笑う。
「終わらせるため」
はっきり言う。
その言葉で、健太は何も言えなくなる。
もう止められないと分かっている顔。
そのまま、返信を打つ。
『いいですよ』
送信。
すぐに既読。
そして。
『今日、園のあとで』
決まった。
逃げ場のない場所で。
向き合う。
スマホを閉じる。
ゆっくり息を吐く。
怖さはある。
でも、それ以上に。
(ここで終わらせる)
その気持ちが強かった。
流れは逆になっている。
味方もいる。
証拠もある。
そして。
相手も、もう隠れられない。
静かに、でも確実に。
すべてが表に出ようとしていた。




