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ママ友に夫も居場所も奪われるまで  作者: 熊猫ぱんだ


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逆転の一手

 園からの帰り道、真央は一度もスマホを見なかった。

 見れば、また揺れる。

 今は、整理する方が先だった。

 職員室でのやり取り。

 美月の視線。

 あの余裕。

 全部が繋がっている。


 (このままじゃ勝てない)


 はっきり分かる。

 証拠はある。

 でも、決定打にはならない。

 むしろ、こちらが不利になる可能性もある。


 家に着く。

 ドアを閉めた瞬間、ようやく息を吐いた。

 スマホを開く。

 通知が溜まっている。

 グループLINE。

 個別メッセージ。

 そして、あの番号。

 迷わず開く。


 『見ました』


 短い一文。

 職員室の件だと分かる。


 『大丈夫ですか』


 続けて届く。


 『今はまだ』


 そう返す。

 少しして、返信。


 『想定通りです』


 その言葉に、思わず眉が動く。

 想定していた。

 ここまで。


 『園を使ってきましたね』


 続く。

 やっぱり。


 『次はどうすればいいですか』


 すぐに打つ。

 既読がつく。

 少し長めの間。

 そして。


 『次は、こちらから仕掛けます』


 画面を見つめる。


 (仕掛ける)


 待つ側じゃない。

 動く側。


 『どうやって』


 送る。


 『証拠を見せる相手を変えます』


 その一文で、流れが変わる。

 今までは、園やママ友の中。

 閉じた場所。


 『外に出します』


 指が止まる。


 (外……)


 『ただし、順番が大事です』


 続く。


 『いきなり全部は出さないでください』


 冷静な指示。


 『一つずつ、逃げ道を塞ぎます』


 その言葉が、妙にしっくりきた。

 感情じゃない。

 戦い方。


 『まずは』


 次のメッセージ。


 『ご主人からです』


 息が止まる。


 (健太……)


 『逃げ場が一番少ないのは、そこです』


 確かにそうだった。

 一番近い。

 一番隠せない。

 でも、一番怖い場所でもある。


 『今日、早く帰ると言っていませんでしたか』


 画面を見て、思い出す。

 朝の会話。


 「今日は早い」


 あの言葉。


 『はい』


 短く返す。


 『なら、今日がいいです』


 即答だった。


 『証拠はありますよね』


 昨日の写真が頭に浮かぶ。

 消されていない分。


 『あります』


 『それを見せてください』


 シンプルな指示。

 でも、重い。


 (今日……)


 準備なんてできていない。

 心も、整理できていない。

 それでも。


 『ここで動かないと、また先に仕掛けられます』


 その一文で、迷いが止まる。

 確かにそうだ。

 さっきも、やられたばかり。

 次も同じとは限らない。

 むしろ、もっと強く来る。


 『分かりました』


 指が震える。

 それでも送る。

 既読がつく。


 『大丈夫です』


 短い一文。


 『あなたはもう、十分に準備しています』


 その言葉で、少しだけ呼吸が整う。

 完全じゃない。

 でも、ゼロでもない。


 スマホを置く。

 リビングを見渡す。

 いつもの部屋。

 いつもの空間。


 でも、今日は違う。

 ここで、崩す。


 静かに時間が過ぎる。

 時計の音がやけに大きい。

 玄関の鍵が回る音。

 心臓が強く打つ。


 「ただいま」


 健太の声。


 「……おかえり」


 立ち上がる。

 逃げない。

 もう、決めた。


 「ちょっといい?」


 自分から言う。

 健太が少し驚いた顔をする。


 「なに?」


 その目を、まっすぐ見る。

 スマホを手に取る。

 画面を開く。

 あの写真。

 昨日の証拠。

 言葉はいらない。

 そのまま、差し出す。


 数秒。

 健太の表情が固まる。

 目が止まる。

 呼吸が変わる。

 分かりやすい反応。


 「これ、なに?」


 あえて聞く。

 逃げ道はない。

 沈黙。

 長い沈黙。

 健太が視線を逸らす。


 「……仕事の人」


 その一言で、全身が冷えた。


 (まだ嘘つくんだ)


 でも、予想通りだった。


 「仕事で、こんな距離?」


 静かに言う。

 声は震えていない。

 自分でも驚くくらいに。

 健太が何も言えなくなる。


 視線が揺れる。

 沈黙。

 それが答えだった。


 「続き、あるよ」


 スマホを少しだけ動かす。

 他の写真も見せる。

 角度違い。

 同じ場所。

 同じ二人。


 完全に逃げられない。

 空気が凍る。

 健太の顔色が変わる。

 はっきりと。


 (崩れてる)


 初めて、そう思った。

 確実に。


 「……いつから?」


 低い声で聞く。

 もう、誤魔化せない。

 その状況まで来ている。


 健太は答えない。

 口を開こうとして、止まる。

 言葉が出てこない。

 その姿を見て、確信する。


 (終わりじゃない)


 ここからだ。

 これは、終わりじゃない。

 始まり。

 全部を崩すための。

 最初の一手だった。

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