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ママ友に夫も居場所も奪われるまで  作者: 熊猫ぱんだ


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泳がせる

 朝、目が覚めても、ほとんど寝た気がしなかった。

 頭は重いのに、思考だけが妙に冴えている。

 隣では、健太がいつも通りに寝ていた。

 何もなかったみたいに。


 静かに起き上がる。

 スマホを手に取る。

 写真は残っている。

 消えていない。

 それだけで、少しだけ現実を保てた。


 (焦らない)


 昨夜、何度も頭の中で繰り返した言葉。

 今は動くときじゃない。

 まだ足りない。


 キッチンに立つ。

 いつも通りに朝食を用意する。

 手は動いているのに、頭の中は別のことを考えていた。


 どうやって証拠を増やすか。

 どうやって崩すか。

 そのとき、背後から声がした。


 「おはよう」


 健太だった。


 「……おはよう」


 振り向かずに返す。


 「今日、遅くなるかも」


 何気ない一言。

 でも、もう分かる。


 「仕事?」


 あえて聞く。


 「うん」


 迷いのない返事。


 (嘘)


 心の中でだけ、答える。


 「そっか」


 それ以上は何も言わなかった。

 問い詰めるのは簡単だ。

 でも、それじゃ意味がない。

 今は、泳がせる。

 その方が、確実に証拠が増える。


 園へ向かう道。

 子どもの手を握りながら、周りの視線を感じる。

 でも、昨日までとは違った。

 怖さはある。

 でも、それだけじゃない。


 (全部、見てる)


 そう思うと、少しだけ冷静になれた。

 園の門をくぐる。

 やはり空気は変わらない。


 距離。

 視線。

 ひそひそ声。

 全部そのまま。

 でも。

 今はそれでいい。


 教室の前。

 美月がいた。


 「おはようございます」


 いつも通りの笑顔。


 「おはよう」


 同じように返す。

 そのまま、少しだけ近づく。

 距離を詰める。

 美月の目が、わずかに動いた気がした。


 「昨日、遅かったんですね」


 先に言われる。

 やっぱり知っている。


 「うん、ちょっとね」


 あえて曖昧に答える。


 「大変ですよね」


 優しい声。

 でも、その裏が見える。


 「そうでもないよ」


 軽く笑ってみせる。

 その瞬間、美月の表情がほんの一瞬だけ止まった。

 ほんの一瞬。

 でも、確かに。


 (今、違った)


 すぐに元に戻る。


 「無理しないでくださいね」


 いつもの言葉。

 でも、さっきの一瞬が頭に残る。


 (見てる)


 私の反応を。

 私の変化を。


 昼過ぎ。

 グループLINEが動く。

 昨日と同じような内容。

 噂。

 心配。

 距離。


 でも、今は違って見えた。

 流れ。

 タイミング。

 誰が何を言うか。

 全部、少しずつ見えてくる。


 (これも……)


 偶然じゃない。

 作られている。

 スマホを握る。

 スクリーンショットを撮る。

 残す。

 全部。

 あとで使えるように。


 そのとき、個別メッセージが届く。

 美月だった。


 『大丈夫ですか?』


 また、このタイミング。

 画面を見つめる。

 少しだけ考えてから、返信した。


 『大丈夫だよ、ありがとう』


 あえて、普通に。

 あえて、何も知らないふりで。

 既読がつく。

 少しして返信。


 『無理しないでくださいね』


 同じ言葉。

 でも、その裏を知っている。


 夕方。

 迎えに行くと、子どもが静かだった。


 「どうしたの?」


 「……別に」


 少しだけ視線を逸らす。

 周りの影響。

 分かっている。

 それでも、今は感情を抑える。


 「帰ろう」


 手を引く。

 小さくうなずいた。


 家に帰る。

 いつも通りの時間。

 いつも通りの流れ。

 でも、全部が違って見える。


 夜。

 健太からメッセージ。


 『今日も遅くなる』


 予想通り。

 画面を見ながら、静かに息を吐く。


 (行くんだ)


 あの場所に。

 あの人のところに。

 でも、もう焦らない。


 スマホを開く。

 昨日の写真。

 今日のスクリーンショット。

 少しずつ増えていく。

 確実に。

 逃げられない形で。


 (まだ足りない)


 でも、確実に進んでいる。

 ゆっくりと、スマホを閉じる。

 目を閉じる。

 頭の中で、次の一手を考える。


 もう、ただ奪われるだけじゃない。

 今度は。

 こっちが見てる

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