見えない監視
カーテンを閉めたあとも、落ち着かなかった。
外は暗いのに、誰かに見られている気がする。
スマホの画面に目を落とす。
さっきのメッセージ。
家を見られているかもしれない。
その一文が、頭から離れない。
(どこまで知ってるの)
息が浅くなる。
リビングの電気を消してみる。
外から中が見えにくくなるはずなのに、それでも不安は消えなかった。
そのとき、風呂場のドアが開く音がした。
「先入るね」
健太の声。
何も知らないみたいな、普通の声。
「うん」
短く返す。
スマホを握る手に、力が入る。
(証拠はある)
写真もある。
メッセージもある。
でも、それだけじゃ足りない気がした。
相手は、あの美月だ。
これまでのやり方を考えれば、簡単に逃げる。
むしろ、私が悪くなる可能性もある。
(まだ足りない)
そう思った瞬間、怖さと同時に冷静さが戻ってきた。
ただ感情で動いたら負ける。
その考えが、はっきりしてきた。
夜が更ける。
健太は何も言わずに寝た。
隣で規則正しい寝息が聞こえる。
その音が、やけに遠く感じた。
眠れないまま、時間だけが過ぎる。
ふと、スマホが光った。
新しいメッセージ。
あの番号からだった。
『今、家にいますか?』
指が止まる。
どうしてそれを聞くのか分からない。
『います』
短く返す。
すぐに返信が来た。
『カーテン、全部閉めてください』
背筋が冷える。
もう閉めている。
それでも、念のため確認する。
隙間がないか、一つずつ。
手が震える。
『何かあったんですか』
送る。
少し間があって、返信。
『さっき、誰かがあなたの家の前にいました』
心臓が止まりそうになる。
ゆっくりと、窓の方を見る。
カーテンの向こうは見えない。
でも、確かに何かがいる気がした。
『今はもういません』
続けて送られてくる。
『でも、気をつけてください』
息が苦しくなる。
(誰……)
考えなくても分かる気がした。
でも、認めたくなかった。
スマホを握りしめる。
そのとき。
ポケットの中で、別の振動。
健太のスマホだった。
テーブルの上に置きっぱなしになっている。
一瞬、迷う。
見るべきじゃない。
でも。
(今しかない)
そっと手を伸ばす。
画面を見る。
通知。
美月の名前。
『今日はありがとう』
その一文だけ。
それだけなのに、すべてが詰まっていた。
胸の奥が、冷たくなる。
(やっぱり……)
指が震える。
画面を閉じる。
元の位置に戻す。
何もなかったみたいに。
でも、もう戻れない。
ベッドに戻る。
隣には健太がいる。
同じ部屋にいるのに、まるで別の世界にいるみたいだった。
スマホを胸の上に置く。
目を閉じる。
でも、眠れない。
頭の中で、全部が繋がっていく。
噂。
写真。
メッセージ。
そして、家の前にいた誰か。
(囲まれてる)
その言葉が、はっきり浮かんだ。
逃げ場がない。
でも。
ゆっくりと目を開ける。
スマホを手に取る。
写真のフォルダを開く。
あの証拠。
消えない現実。
(まだ終わってない)
小さく息を吐く。
怖い。
それでも。
(全部、明らかにする)
初めて、はっきりとそう思った。
守るためじゃない。
取り戻すために。




