第80話 闇の覚醒
「私は焦ったわ。焦った挙句に、非道なことを考えついたの。」
ニンフの声は震えていた。
「それは……闇と光、二つの属性を併せ持つ“特異な子”を生むこと。両方の力を受け継ぎつつ、光を選ぶ存在になれば、その子が未来を切り拓いてくれると信じたの。」
「その子が光を選べば、いずれグラトスすら超える存在になると――そう信じて。」
アモンはビクリと肩を震わせた。仲間たちはただ、彼を見つめるしかなかった。
「けれど、生まれた子は私の光の属性しか継がなかった……」
ニンフは苦しげに続ける。
「グラトスも、同じ考えに至っていたの。だからこそ、激怒したのよ。希望を託した子が、闇を継がなかったから。」
「彼はその子を人間の世界に捨てた。闇の護符を与え、悪徳に染め、光の属性を覆い隠すために。」
ニンフは顔を伏せ、最後の言葉を吐き出した。
「その子が……あなたよ、ア――」
「ふざけるな!!」
怒号が大広間に響き渡った。ニンフの言葉を遮るように。
「なんだよ、それ……それじゃあおいらは、あんたらの勢力争いの駒として生まれてきたってのか!」
アモンの瞳には怒りと絶望の涙が溢れていた。
「ゆるさねぇ……ゆるさねぇぞ、絶対に!」
その瞬間、アモンの体が不意に揺らめき、黒い霧のような闇が彼の全身を覆っていった。
「ほう……闇に覚醒したか。」
玉座のグラトスが、満足げに呟いた。
「だめ、アモン!心を鎮めて!」
ニンフの叫びは必死だった。
「知るかよ!! おいらはお前らに復讐する。光だの闇だの、知ったことか!」
アモンの姿は完全に闇に包まれていった。
ミセルとローレンは言葉を失い、顔を見合わせたが、何をすべきか分からない。そのとき、リーナが動いた。
「アモン……!」
闇の中に手を伸ばし、アモンの腕を掴んだ。
「しっかりして! あなたの出自がどうであれ、あなたは私たちの大切な仲間よ。迷わないで!」
その声に、闇がかすかに揺らめいた。
続いて、サトリももう一方の手をつかんだ。
「そうだよ、アモン! 僕たちは一緒に、苦しい旅を乗り越えてきたじゃないか。君は、僕たちの仲間だ!」
ミセルとローレンも駆け寄り、口々にアモンの名を呼んだ。その様子は、まるで死の淵から魂を呼び戻すかのようだった。
やがて、闇が霧のように晴れていき、アモンは元の姿へと戻っていた。
「アモン、大丈夫か?」
「平気か?」
仲間たちが声をかける中、アモンは呆然としながらも微笑んだ。
「……うん。大丈夫。いつも通りだよ。」
ニンフは安堵の息を吐いた。
玉座の上のグラトスが、愉快そうに声を上げて笑った。
「わっはっはっ! まるで芝居でも見ているようだ。よかろう――礼として、お前たちと少しばかり“問答”を楽しんでやろう。」




