第78話 ニンフ
その女性は、この世のものとは思えぬほど美しく、そして気高かった。
月光に照らされたように、透き通る白い肌が薄闇の中に浮かび上がる。黄金の波のように流れる巻き髪は肩にかかり、動くたびに淡い光を反射した。
高く盛られた襟と精緻なレースに包まれた純白のドレスは、女神を思わせる気高さを漂わせ、その瞳には底知れぬ優しさと憂いが宿っている。
そして、銀の冠は星の祝福を受けたかのように輝き、見る者に神秘を感じさせた。
女性は静かに歩を進め、闇の王グラトスの玉座の横に立った。仲間たちは思わず息を呑んだ。そして、誰からともなく、この女性こそが「ニンフ」であると、直感した。
やがて、その女性が口を開いた。
「――私がニンフよ。はじめまして。……あら、サトリとアモンは、お久しぶり、かしらね」
典雅な微笑みとともに、ニンフは名乗った。
「あなたがニンフ? でも、僕の夢に出てきたニンフは、少女だったはずだよ?」
サトリの問いに、ニンフは少し寂しげに頷いた。
「あの時の私は、グラトスによって力を制限されていたの。だから、あの姿は、わたしの分身……。ほんのひとときしか話せなかったわね。ごめんなさい」
彼女は申し訳なさそうに目を伏せた。続けて、アモンの方を向く。
「アモン。あなたにも、ちゃんと謝らないとね。突然、遠話を使ったりして驚かせてしまった。でも、あなたは……本当に立派だったわ」
「そんなことはどうでもいい!」
アモンが叫んだ。「おいらがグラトスの息子だって……どういうことだ!?」
「それは、さっきも言ったとおりよ。アモン、あなたの父はグラトス。そして、母はこの私――ニンフです」
ニンフは深くうなだれながらも、その言葉をはっきりと告げた。
「……やめろ……そんな、言葉ひとつで……」
アモンは膝をつき、こらえきれずに涙をこぼした。
「あいつが父? あの、闇の王が? そして、あんたが母……? そんなの、認められるかぁ……!」
床に伏し、声をあげて泣くアモン。その傍らで、サトリが静かに一歩踏み出した。
「ニンフ、説明してください。なぜアモンがあなた方の子供なのか。……そして、あなたは、グラトスに囚われていたはずでは?」
ニンフは静かに頷いた。そして、深く息を吸い込むと、静かに語りはじめた――。




