第77話 闇の王グラトス
声とともに、重々しい音を立てて扉が独りでに開いた。
その向こうに広がっていたのは、数多の燭台にともるほの暗い灯りに照らされた、大理石の大広間だった。
入り口から玉座へとまっすぐに延びる赤い絨毯。その先、威厳を湛えた黒づくめの男が、漆黒の玉座に悠然と腰を下ろしていた。
「……あれが、グラトス?」
リーナが、そっとサトリにささやいた。
「ああ。間違いない、あれが……闇の王グラトスだ」
サトリもまた、緊張した声で答える。
「うわ……なんという威圧感だ……。ただの行商人の俺でも、空気の重さがわかる」
ローレンが小声で呟くと、隣のミセルが頷いた。
「当然さ。あれは、人の身であって人にあらず。闇の王だ」
入口で逡巡する五人に、玉座の王が嘲るような声を投げかけた。
「どうした、勇者たちよ。ここまで来て尻込みか? ふふ……さあ、顔を見せてくれ」
その声に、ミセルが一歩を踏み出す。
仲間たちもそれに続き、慎重に大広間を進む。
玉座の手前に至ると、ミセルは小さく合図し、五人は横一列に並んだ。
そして彼女は他国の君主に対する礼法を寸分違わず実践してみせた。
他の者たちも見様見真似でそれにならう。
ただしアモンだけは、緊張と恐怖からか、明らかに震えていた。
グラトスは興味深げにその様子を眺めていた。どこか楽しげな、余裕を感じさせる笑みさえ浮かべながら。
――闇の王グラトス。
この世の闇を統べ、人の心に悪徳を忍ばせる存在。
その姿は、まるで漆黒の深淵から這い出た悪夢のようだった。
彼を包むローブは、闇を飲み込むような光沢のない黒。
絹や獣皮、そして未知の素材が織り交ぜられ、微かな動きすら影のような蠢きを生み出す。
長い裾は床を引きずり、まるで黒い霧をまとうような幻影を残していた。
その手には、黒檀に銀細工を施した長杖が握られており、先端には闇の結晶とも呼ぶべき黒曜石の球が据えられていた。
それは見る者の内側を覗き込むかのような、不穏で底知れぬ輝きを放っている。
「まずは、礼を言わねばなるまいな」
グラトスは余裕のある口調で言った。
「我が息子、闇の王子アモンを無事に連れ帰ってくれて、大儀であった」
その言葉に、アモンを除く四人は驚愕した。思わず息を呑み、互いに顔を見合わせる。
「な……何言ってやがる、ふざけんな!」
アモンは叫ぶように否定した。
「そんなの、全部嘘だ! おいらは、みんなの仲間だ!」
その叫びにかぶせるように、柔らかく、しかし力強い声が響いた。
「アモン、それは本当よ」
控えの間から、一人の女性が姿を現す――。




