第75話 仇討ち
アモンがぽつりと呟く。
「そいつ、幹部だよ」
「どうして分かるの?」リーナが尋ねる。
「ただの雑兵が“グラトスの弱点”なんて知ってるわけないじゃん」
ミセルが低く吼える。
「貴様、真の名を言え!」
男の態度が急に変わる。面立ちまで変貌し、どこにでもいるような普通の男の顔となった。
顔を拭い、泥の下から現れたその笑みは、かつてミセルが一度だけ見た、忌まわしき“裏切り者の顔”だった。
「久しいな、隊長。あの夜、お前に偽の命令を伝えたのは――この俺、闇の幹部、ダークハルト。ハハハ、“裏切者のエク”とは俺のことさ」
「うんともすんとも言わず屍に紛れてやり過ごそうとするなんて、まさに忘八のやり口ね」
リーナが吐き捨てる。
「この男は、私が討つ」
ミセルが一歩前へ進み、剣を抜く。
「あの夜、信じる者を地獄に突き落とした裏切り者。私の“忠”の誓いに懸けて、この手で」
「忠? はは、まだそんなお伽話を信じているのか」
「幻想ではない」
ミセルの声が冷たく鋭く響く。
「裏切られてもなお守ると決めたもの。それが“忠”だ。お前には決して辿り着けぬ境地だ」
「ローレン、剣を」
ローレンは無言で剣をダークハルトに投げ渡し、ミセルの決意に頷いた。
「ダークハルトよ。せめて最期くらいは、騎士らしく」
二人は向き合い、しばし静寂。
次の瞬間、閃光のように斬り合った――
一閃。ミセルの刃はダークハルトの胴を両断し、返す刀で額の石を砕いた。
ダークハルトは、笑い声とも呻き声ともつかぬ声を残し、黒い霧となって跡形もなく消えた。
ミセルはその場に立ち尽くし、わななく肩を抑え、こぼれ落ちる涙を隠そうともしなかった。
仲間たちは、誰も言葉を発さず、その静かな姿を見守っていた。
風が再び吹き抜ける。
やがてミセルがゆっくりと振り返る。
その瞳には、涙も怒りもない。ただ一つの使命を果たした者の静けさがあった。
「……進もう。まだ、旅は終わっていない」
そして五人は、ついに闇の王の玉座を目指し、歩を進める――。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。”ノーマンズランド編”の終わりです。このあと物語はいよいよクライマックスです。どうか最後までお付き合いください!




