表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
72/89

第72話 一騎打ち

開始の笛が()っても、両者は微動(びどう)だにせず、ただ相手の動きを注視(ちゅうし)していた。ぴんと張り詰めた空気の中、やがてミセルが(するど)()()る。


一合(いちごう)、ガシーン!


ガシーン!

(はがね)激突(げきとつ)する音が戦場に響き、()(さか)る大剣が空気を()がす。


二合(にごう)三合(さんごう)

互いの技量は拮抗(きっこう)していた。火花と炎の応酬(おうしゅう)は、見る者の息を(うば)う。


だが、接近戦では決着がつかないと(さと)ったのか、ミセルは一度間合(まあ)いを取り、馬を大きく回した。


「行くぞッ!」


()け声とともに突進。だがすれ違いざまに()わされた剣は、むなしくも(くう)を切った。


二度、三度、同じ突進を繰り返しても、勝負は動かない。


ミセルは意を決した。馬上槍(ばじょうやり)のごとく剣を突き出し、最後の突進をかけた――。鏡の騎士も呼応(こおう)するように剣を(かま)えて突進してくる。


距離が、たちまちゼロになる。


ドガァン!


(にぶ)衝撃音(しょうげきおん)と共に、二人は馬から投げ出され、土煙(つちけむり)を巻き上げて地に落ちた。


だがすぐに立ち上がり、再び死闘が始まった。


固唾(かたず)を飲んで見守っていた仲間たちに、異変が走った。


「ミ、ミセルが……どっちだ?」


「わかんない……入れ替わった?」


「ねぇローレン、人魚の涙の力で見分けられないの?」


ローレンは真剣な眼差(まなざ)しで戦場を(にら)んだ。


「無理だ。予知したって……どちらも、ミセルにしか見えない……」


――


永遠(えいえん)に終わらぬかと思われた戦い。だが、ついに一方のミセルが言葉を(はっ)した。


「このままでは(らち)があかん。どうだ、勝負方法を変えないか?」


もう一人のミセルが応じる。


「よかろう。どんな勝負だ?」


最初に口を開いたミセルは、口元(くちもと)に意味ありげな笑みを浮かべた。


「ちょっとした博打(ばくち)だ。」


二人のミセルが、仲間たちの前に並び立つ。左右に分かれ、適度な距離を取って。


左のミセルが静かに言った。


「サトリ。お前の心が“敵”だと感じたほうに、矢を(はな)て。」


右のミセルが続けた。


「よく考えろ。もし間違えれば、お前たちは私なしで、この軍勢を相手にせねばならなくなる。」


左のミセルは、まっすぐサトリを見つめた。


「余計なことは考えるな。ただ心の命ずるままに()よ。」


右のミセルも目を()らさずに言う。


「サトリ、これまでのすべてを思い出せ。お前ならわかるはずだ。」


静寂(せいじゃく)。張り詰めた空気。


ローレンが、ぽつりと(つぶや)く。


「サトリ……右を()て。」


サトリの(うで)が、(まよ)いなく上がる。矢をつがえ、右のミセルに(ねら)いを(さだ)め――


ビシュッ!


(かわ)いた音とともに、矢は右のミセルの(ひたい)に突き()さった。


その身体(からだ)がぐにゃりと()れ、まるで溶けるように(くず)れ――(なか)から黒い(よろい)に包まれた影が(あらわ)れた。


見破(みやぶ)るとは……やるな。私はこの(しかばね)の軍の(しょう)、ヴァルザーク!」


低い声が、どこか(くや)しげに響いた。


「だが――お前たちが何人束(なんにんたば)になろうと、グラトス様には(かな)わぬ。はっはっはっ!」


ヴァルザークの体は黒煙(こくえん)となって(くず)()り、風に溶けて消えた。(あと)には、(くだ)けた灰色のダイヤ型の石が(ころ)がっていた。


ミセルが仲間のもとに戻ってくる。


「……どうやって私だとわかった?」


問いかけに、ローレンは胸を張って答えた。


命乞(いのちご)いのような台詞(せりふ)を言うミセルは、ミセルじゃないからな。」


その顔には、満面の笑み。


それに応じるように、仲間たちの笑顔が広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ