第71話 鏡の騎士
サトリの強烈な初撃を受け、敵の前衛は浮き足立った。その隙を突いて、ミセルが恐れもなく突撃する。彼女の振るう炎の大剣がうなりを上げ、敵兵を次々と薙ぎ倒していった。
少し遅れてリーナが追いつく。ミセルを包囲しようと背後に回る敵兵を、竜牙の小刀が目にも止まらぬ速さで次々と貫いた。
さらに、二人を援護するのはサトリの放つ矢雨。そしてローレンはその予知能力を駆使し、三人に的確な指示を送り続けていた。
当初こそ「多勢に無勢」と侮っていたヴァルザークだったが、次第に形勢の不利を悟り、指揮が慌ただしくなる。
「ええい、何をしている! 右翼と左翼は回り込め! ……後衛は前へ押し出せ!」
だが、右翼も左翼も後衛も、サトリの矢に阻まれて思うように動けない。気づけば、ミセルとリーナの周囲には、ぽっかりと空白地帯が生まれていた。
「むむむ……仕方ない。私が出るとしよう」
一方、ミセルは疲れを見せぬまま剣を振るい、味方を鼓舞していた。
「我らの前に敵は恐るるに足らず! このまま中央突破だ!」
その咆哮とともに、さらに前進しようとしたそのときだった。敵兵たちが突然道を開け、奥から一騎の騎士が駆けてくる。
「ふふん、一騎打ちときたか。面白い、受けて立とう!」
ミセルは自信に満ちた笑みを浮かべ、仲間たちへと顔を向けた。
「敵は一騎打ちをご所望だ。手出し無用!」
しかし、誰もすぐには応じなかった。
「ミセル! よく見て、その騎士を! あなたに……そっくりよ!」
リーナの叫びに、ミセルははっとして騎士を見直す。
そこにいたのは――まぎれもない“自分”だった。
鎧の色も形も、手にした炎の大剣も、愛馬ルドルフの姿さえも、まるで鏡写しのように同じだった。
ミセルは小さく笑い、呟く。
「……さしずめ、鏡の騎士様か。よし、一つ手合わせを願おう」
彼女は静かに歩を進め、騎士と向き合う。そして一騎打ちの作法に従い、神聖な聖句を唱える。
「神は与えたもう、奪いたもう、聖なるかな」
「神は与えたもう、奪いたもう、聖なるかな」
声まで全く同じだった。
次に名乗りを上げる。
「我こそは、誇り高きラウドルップ家の姫、ミセル・ド・ラウドルップなり」
「我こそは、誇り高きラウドルップ家の姫、ミセル・ド・ラウドルップなり」
二人は静かに礼を交わし、間合いを取った。
ミセルは振り返り、サトリに呼びかける。
「サトリ、合図の笛を頼む。お前のタイミングで構わぬ」
サトリは慌てて笛を取り出し、構えた。深く息を吸い、心を鎮める。そして、迷いなく息を吹き込んだ。
ピィィィィィ――!
鋭い笛の音が、戦場の空気を切り裂いた。
※右翼・左翼・前衛・後衛:陣地の右側・左側・前方・後方のこと
※一騎打ち:戦場で一対一で勝負を決すること




