第70話 出撃
「あいよ、ちょっと待ってね。」
アモンはそう言うと、深く息を吸い込み、目を閉じて両手を胸に当てた。やがて彼の胸がじわりと光を帯び、まばゆい輝きへと変わっていく。
「さあ、まずはミセルだ。集中して。」
ミセルは頷き、同じように目を閉じて胸に手を当てた。彼女の胸元にも光が灯り、それは瞬く間に長剣へと伝わった。そして、剣身はうねるように形を変え、ついには灼熱の炎を噴き上げる巨大な大剣へと変貌した。
「次はリーナ姉ちゃん。練習通りにね。」
リーナも目を閉じ、静かに呼吸を整えながら胸に手を置いた。温かな光が彼女の全身を包み、両手に握った小刀も光を受けて煌めいた。
「お次はローレン。頑張って。」
ローレンは少し不安げだった。胸元の光が不規則に揺れ動いていたが、深く息を吐くと、やがてその光は静かに安定し、淡い水色の輝きの中から雫のような宝具が現れた。
「よし、最後はサトリだ。うん、落ち着いてるね。」
アモンが言うより先に、サトリは静かに集中していた。光の中から彼がすでに手にしていたのは、輝く大弓と、漆黒にして光を纏う矢。その姿には、仲間たちも思わず息を呑んだ。
――
話は少し遡る。
シレーヌとの死闘ののち、アモンと仲間たちは互いの知恵を結集し、試行錯誤を繰り返した。そしてついに、全員がそれぞれの力を覚醒させるに至ったのだ。
ミセルは「炎の大剣」――その刃に触れるものすべてを、灼熱の劫火で焼き尽くす。
リーナは「竜牙の小刀」――神速の剣技とともに、どんな鎧も切り裂く鋭利さを持つ。
ローレンは「人魚の涙」――未来の一瞬を垣間見る、水晶の宝具。
アモンは――特別な武器こそ得られなかったが、仲間たちの力を増幅するという希有な能力を持っていた。
そして、サトリは――
――
すべての顕現が終わったのを見届けると、ミセルが鋭く声を張り上げた。
「さあ、勇者たち! 思う存分暴れて見せよ! 天意は我らにあり!」
「サトリ! 口火を切ってくれ!」
サトリは黙って頷き、すでに引き絞っていた大弓を空へと放つ。
ヒュウ――と風を裂く音が響いた。
放たれた矢は天へと舞い上がり、途中で二本、四本、八本と分裂し、ついには無数の矢雨となって敵陣へと降り注いだ。
「見たか、“太陽の大弓”と“雨の矢”の威力を! 敵の前衛が崩れた! 突撃――!」
ミセルの怒号とともに、五人は黒き海のような敵の群れへと突進していった。




