第69話 屍の軍
―――そして―――
サトリ、リーナ、ローレン、ミセル、そしてアモンの五人は、ついに闇の王の居城を遠くに望む雪原へとたどり着いた。
……覚悟はしていた。
……それだけの準備もしてきた。
怯えてはいない――そのはずだった。
だが今、その姿を目前にした彼らの背筋を、氷のような緊張が這い上がった。
一行の前に立ち塞がるのは、完全武装した闇の軍勢。
それはまるで、漆黒の海が雪原を呑み込むかのように、静かに、しかし確実に圧をかけていた。
その黒き海の奥深く――ひときわ禍々しい気配を放つ騎士が、馬上から声を張り上げた。
「我が名はヴァルザーク! 闇の王グラトス様に仕える、”屍の軍”の将軍なり!」
濁った声が空気を震わせる。
「よくぞここまで辿り着いたな、哀れな人間どもよ! その愚かさに免じて、降伏の機会をくれてやろう。武器も資材も捨て、裸一貫で投降すれば、命までは取らぬと約束しよう――はっはっはっ!」
勝利を疑わぬ者の笑い。
彼の頭からは、羊のようにねじれた巨大な角が突き出し、それを小刻みに震わせながら嘲るように響かせた。
――
「ミセル、お前が言ってた敵の大将って、あいつかい?」
ローレンがあえてとぼけた口調で問いかけた。
「ああ、間違いない。あいつが……私の隊を滅ぼした張本人だ。」
ミセルは怒りの炎をその瞳に宿しながらも、声は静かだった。
「なら、裏切り者のエクってのも、あの辺に?」
「いや、姿は見えない。だが……きっと近くにいるはずだ。」
言いながら、ミセルはふと仲間たちの顔を見やった。
サトリ、リーナ、アモン――三人の若き旅人たちは、怯えてはいなかった。緊張を隠せずにいたものの、むしろその目は、目の前に広がる異様な光景に奪われていた。
ミセルはふっと微笑んだ。
(そうだな……私も初陣のときは、あんな目をしていた……。だからこそ――絶対に守らねば)
その思いを胸に、ミセルは声を張り上げた。
「よし、“新兵たち”! 作戦を確認するぞ!」
空気が引き締まる。
「私が先陣を切り、中央突破であの大将――ヴァルザークの元へと突撃する!
あの軍勢は、冥府から無理やり呼び戻された屍どもだ。術をかけているのは、おそらく奴自身。私が奴を討てば、この戦いは終わる!」
ミセルの声が雪原に響く。
「リーナは荷馬車を守れ! 殺到する敵兵を斬り伏せろ!
サトリは私とリーナの援護を頼む! 冷静に、的確に動け!
ローレンは戦況を見ながらアモンを守れ!」
張り詰めた空気の中で、ミセルの叱咤が胸に響く。
「いいな! ぬかるなよ!!」
「応ッ!」
「了解!」
「任せて!」
一同は次々に応え、士気がひとつにまとまる。
ミセルは満足そうに仲間たちを見渡した。そして、驚くほど平静な口調で言った。
「――では、始めよう。」
彼女は視線をアモンに向け、力強く頷いた。
「アモン、頼むぞ。」




