第62話 エルフのクレア
――――パチ…パチ…と焚火がはぜる音が、静寂の洞穴に穏やかに響いていた。
だが焚火は一つではない。洞穴の中央では、サトリ、リーナ、ローレン、ミセル、アモンの五人が大きな火を囲み、入り口近くにはもう一つ、小さな火が灯っている。
その小さな火にあたっていたのは、エルフのクレアだった。
外の吹雪は一向に収まる気配を見せず、風と雪が入り口から吹き込んでくる。だが、傷をかばいながらこの吹雪の中を歩いてきたクレアにとっては、たとえ吹きさらしでも、この焚火のぬくもりが天国のように思えたかもしれない。
彼女の表情には、ただ穏やかな安堵の色が浮かんでいた。
この時代、エルフはもはや伝説の存在だった。
その長命ゆえに、人間たちの歴史からすら取り残され、数も減り、住処は奪われ、ついにはおとぎ話の中だけの存在となっていた。
そんな存在が、今、目の前にいる――。
サトリとリーナは、目を輝かせながら興奮を隠しきれなかった。ローレンも興味を隠せない様子だったが、対照的にミセルはただ一人、敵の可能性を見据えたまなざしでクレアを警戒していた。
「ねえ、クレア? あなた、何歳なの?」
警戒よりも好奇心が勝ったリーナが、思わず口をついて尋ねた。
「ふふ、何歳に見えます?」
整った顔立ちにいたずらっぽい笑みを浮かべ、クレアが問い返す。
「うーん、人間でいえば……三十歳いかないくらい? でもエルフだから……」
「百歳は超えてると思う。エルフって百でようやく大人になるって、聞いたことがある」
ミセルの目を気にして黙っていたサトリも、興奮を抑えきれずに口を挟んだ。
「うふふ。二百五十歳ですよ」
クレアの答えに、サトリとリーナはますます目を輝かせ、質問攻めを始めた。
ローレンはさすがに加わりはしなかったが、耳はそちらに集中していた。
ミセルは不満そうに眉をひそめながらも、諦めたように様子を見守っている。
ーー
夜も更け、交代での就寝と見張りの時間が巡ってくる頃――
異変は、突如として起きた。
まず、クレアと話し込んでいたサトリとリーナが、バタリとその場に倒れた。
異変を察したミセルはすばやく剣に手をかけたが、抜ききる前に「……不覚!」と悔しげに吐き、地面に崩れ落ちた。
ローレンがとっさに投げナイフを構えるも、その動きもまた間に合わず、その場に崩れ落ちる。
正気を保っていたのは、アモンただ一人だった。
あまりの出来事に、彼は逃げ出すことすら忘れて立ち尽くしていた。
――だが、驚いていたのはクレアも同じだった。
「お前……何者だ? なぜ、私の術が効かない?」




