第61話 危険な同伴
「ここはノーマンズランドだ。こんな場所に、亜人とはいえエルフがいるはずがない」
ミセルの声は低く、すでに手は剣の柄にかかっていた。
「……敵と見なしていいな?」
「待ってください騎士様。おっしゃる通りここはノーマンズランドです。人や亜人がいるはずが無いとお考えになるのはもっともです」
「でも、人間から迫害されたエルフたちは人のいないここに逃げ込んだのです。代わりに闇の王の脅威にあう事になりましたけども。」
「私たちエルフは闇の王の目から逃れるため、ノーマンズランドを転々と移動して生きてきました。その途中で私は怪我をしてしまい仲間とはぐれてしまったのです」
「ミセル、待て」
ローレンが後方から声をかける。「問いただす前に、まず足元を見ろ」
クレアの足元を見ると、靴は裂け、素足が凍傷に侵されかけていた。呼吸は浅く、肩で息をしている。
「演技かもしれん」
ミセルの警戒は解けない。
「それでも、もし敵ならば、今ここで殺せば、それが呪術の発動条件になることもあるかも」
おずおずと語るのはサトリだった。
「つまり、生かしたまま観察するってことね」
リーナがその意図を補足するように言う。
ローレンが静かに、クレアの肩に手を添えた。
「どうしても泊めてほしいというのなら、条件がある。一晩、焚火の側ではなく洞穴の入り口で過ごしてもらう。それと、我々は交代で見張りをつける」
「構いません」
クレアは即座にうなずいた。「こちらも、信頼を得られる立場ではありませんから」
ミセルはしばし沈黙したのち、重々しく言った。
「……なら、一晩だけだ。それ以上は許さない」
かくして、正体不明の旅人――クレアは、焚火から離れた岩陰にマントを敷き、ひとり身を寄せて眠ることになった。
一行は輪になって休息を取りつつ、交代で彼女を監視する体制をとった。火の灯りが揺れる中、クレアの顔には、深い疲労と……ほんのわずかな安堵のような色が浮かんでいた。




