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第57話 火攻め

日頃(ひごろ)の訓練の賜物(たまもの)で、一同はすばやく退却した。しんがりはミセルが(つと)めたが、グレイムは追ってこようとはしなかった。()わりに、


「わっはっはっはっ! どうした人間ども、もう終わりかぁ?」

と、(あざけ)るような声が響いた。ミセルは(くや)しさに唇を()んだ。


森に逃げ込んだ一行は、一息(ひといき)つくと作戦会議を始めた。しかし、出された案はどれも現実味に()け、ミセルはひとつひとつ首を振って却下(きゃっか)した。やがて、議論は()()まり、重い沈黙が流れた──


そのとき、サトリの目が輝いた。


「……そうだ、火だ! 火攻めにしよう。あそこは枯れ野だから、火を(はな)てば一気に燃え広がるはずさ!」


ミセルは、自分がその手を思いつけなかったことを恥じながらも、深く(うなず)いた。


「そうだ、サトリ。その手で行こう!」


---


翌日。一行は再びグレイムと対峙(たいじ)した。もちろん、風上(かざかみ)を確保した上で。


グレイムは、相変わらず傲慢(ごうまん)に、地面にゴロリと寝そべっていた。サトリとミセルは物音(ものおと)を立てぬよう慎重に接近し、頃合(ころあ)いを見て、火矢を放った。


シュッ──


火矢は枯葉に命中し、たちまち風に(あお)られて炎が()を駆けた。グレイムの姿は炎と煙に()まれ、一瞬でその姿を見失った。


サトリとミセルは、離れた場所にいる仲間たちのもとへ素早(すばや)く戻った。


……しばらくして、燃え尽きた野原(のはら)に立ちこめていた煙がようやく晴れていった。黒焦(くろこ)げた草の中に、寝そべったままのグレイムの姿があった。


「やったわ! 成功ね!」とリーナが声を上げた。


「すごいぞ、サトリ!」とローレンも嬉しそうに言い、サトリは照れくさそうに頭をかいた──


その瞬間、黒焦げだったグレイムが立ち上がった!?


「うわっ! 立った!?」「うそだろ……」


グレイムは子犬のようにブルブルと全身を(ふる)わせ、(すす)を落とすように体を払った。


そして何事(なにごと)もなかったかのように、口を(ひら)いた。


「なんだ人間ども。こんな小細工(こざいく)で俺を倒せると思ったのか? わっはっはっはっ!」


「しまった、失敗だ! 引けーっ!」とミセルが叫ぶ。


---


再び森の中へと逃げ込んだ一行は、頭を(かか)えた。ここを突破(とっぱ)しなければ先には進めない。しかし、グレイムはあまりに強大(きょうだい)だった。


皆が沈黙し、落胆(らくたん)している中で──


これまで沈黙を(たも)っていたアモンが、ニヤリと口を(ひら)いた。


「なんだい、(なさ)けないねぇ。ここはおいらに(まか)せなよ」


「どうする気だ?」ミセルが警戒(けいかい)を込めて問う。


アモンはいたずらっぽく笑うと、作戦を打ち明けた。


その瞬間、一同は息を()んだ。


「それは危険だわ。そんな作戦、認められないわ!」とリーナが制止する。


サトリとローレンも顔を見合わせ、「まさか、そんな無茶(むちゃ)が……」という表情を()かべた。しかし、戦闘における最終判断はミセルに(ゆだ)ねられていた。


ミセルは腕を組み、目を閉じてしばらく沈思黙考(ちんしもっこう)した。そして、(ひとみ)を開いたその目には、決意の光が宿(やど)っていた。


「──よし。その作戦で、やってみよう」

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