第56話 狂戦士グレイム
鉛のような空から、白いものがひらひらと降ってくる。――初雪だ。
サトリ、リーナ、アモンの子どもたちは無邪気にはしゃぎ、白い息を弾ませて駆け回る。ローレンとミセルはその様子を見守りながら、ため息をついた。その吐息も、もちろん白い。
不思議なことに、こんな辺鄙な場所にも街道は続いていた。おそらく、このノーマンズランドができる以前、先人たちが築いた街道網がそのまま残っているのだろう。
街道沿いの風景は、少しずつその異様さを増していった。見慣れた木々の間に、幹がぐにゃりと曲がった奇妙な樹木が混じり、季節外れの青々とした葉を茂らせている。現れる動物たちも、見覚えのないものばかりになってきた。
「みんな、油断するなよ。ノーマンズランドに入ったようだ」
ローレンが静かに注意を促す。
*
それから数日、一行は深い森を進んでいた。街道がかろうじて形をとどめているおかげで方角を見失うことはないが、森の奥深く、どこから何が飛び出してくるとも知れぬ不安に、皆が緊張を強いられていた。
幾日かの後、突如として森が途切れ、目の前に広がったのは――枯れ果てた荒野だった。
そこには、倒壊した城壁、崩れた陣地跡、焼け焦げた旗、そして錆びた武具が散乱しており、まさに古戦場の様相を呈していた。
そして、その中央に……一人の戦士が、悠然と立っていた。
「……あれはなんだ?」ローレンが声を潜める。
「敵だろうな」ミセルが冷たく断じた。
「どうする?」
しばしの沈黙の後、ミセルは静かに答える。
「戦うしかなかろう。街道は一本道だ。この森を荷馬車で迂回するのは、まず無理だろう」
そう言ってミセルはリーナを呼び寄せ、ルドルフの背に乗せた。
「リーナ、覚悟はいいか。――挟み撃ちだ。サトリ、援護を頼む」
言うなり、ミセルはルドルフの手綱を取り、ゆっくりと前進を始めた。その後にサトリとローレンが続く。
距離を詰めるごとに、戦士の姿がはっきりしてきた。すでにこちらに気づいているらしく、戦士は不敵な笑みを浮かべながら腕を組み、傍らには巨大な斧が地面に突き立てられていた。
「お前は何者だ。ここを通してもらおう」
ミセルが馬上から声を張る。
「俺はグレイム。闇の王グラトス様の幹部の一人だ。
俺の任務は、ここを通るすべての者を――破壊すること。
通すわけにはいかないな」
「私はミセル・ド・ラウドルップ。ラウドルップ家の姫だ。
……通さぬというなら、力づくで通るまで」
その宣言と同時に、ミセルはすらりと長剣を抜いた。
そしてその瞬間――ルドルフの背からリーナが飛び降り、瞬く間にグレイムの背後へと回り込んだ。
「小癪な真似を……!」
グレイムが怒鳴るやいなや、地を蹴って一気にミセルとの間を詰め、巨大な斧を振り下ろしてくる。
ガシーンッ!
打ち合う刃と刃。火花を散らしながら、一合、二合。
その僅かな交錯だけで、互いの力量が只者ではないと悟る。
リーナも後方から攻撃を仕掛けるが、グレイムは斧の一振りすらせず、軽く身をかわして攻撃をいなしていた。
技量ではミセルが勝る――だが、明らかに腕力の差は歴然だった。
やがて、ミセルは徐々に防戦一方となっていく。
サトリは矢を番え、何本も射かけるが、それすらも当たらない。
そしてついに、ミセルが叫んだ。
「――退却だ!」




