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第56話 狂戦士グレイム

(なまり)のような空から、白いものがひらひらと降ってくる。――初雪だ。

サトリ、リーナ、アモンの子どもたちは無邪気(むじゃき)にはしゃぎ、白い息を(はず)ませて駆け回る。ローレンとミセルはその様子を見守りながら、ため息をついた。その吐息(といき)も、もちろん白い。


不思議なことに、こんな辺鄙(へんぴ)な場所にも街道は続いていた。おそらく、このノーマンズランドができる以前、先人(せんじん)たちが(きず)いた街道網(かいどうもう)がそのまま残っているのだろう。


街道沿()いの風景は、少しずつその異様(いよう)さを増していった。見慣(みな)れた木々の間に、(みき)がぐにゃりと曲がった奇妙(きみょう)樹木(じゅもく)()じり、季節(はずれ)れの青々(あおあお)とした葉を(しげ)らせている。(あらわ)れる動物たちも、見覚えのないものばかりになってきた。


「みんな、油断するなよ。ノーマンズランドに入ったようだ」

ローレンが静かに注意を(うなが)す。



それから数日、一行は深い森を進んでいた。街道がかろうじて形をとどめているおかげで方角を見失うことはないが、森の奥深く、どこから何が飛び出してくるとも知れぬ不安に、皆が緊張を強いられていた。


幾日(いくにち)かの後、突如(とつじょ)として森が途切(とぎ)れ、目の前に広がったのは――()()てた荒野だった。

そこには、倒壊(とうかい)した城壁、(くず)れた陣地跡(じんちあと)、焼け()げた(はた)、そして()びた武具(ぶぐ)が散乱しており、まさに古戦場(こせんじょう)様相(ようそう)(てい)していた。


そして、その中央に……一人の戦士が、悠然(ゆうぜん)と立っていた。


「……あれはなんだ?」ローレンが声を(ひそ)める。

「敵だろうな」ミセルが冷たく(だん)じた。

「どうする?」

しばしの沈黙の後、ミセルは静かに答える。

「戦うしかなかろう。街道は一本道だ。この森を荷馬車で迂回(うかい)するのは、まず無理だろう」


そう言ってミセルはリーナを呼び寄せ、ルドルフの背に乗せた。

「リーナ、覚悟はいいか。――(はさ)()ちだ。サトリ、援護(えんご)を頼む」

言うなり、ミセルはルドルフの手綱(たづな)()り、ゆっくりと前進を始めた。その後にサトリとローレンが続く。


距離を()めるごとに、戦士の姿がはっきりしてきた。すでにこちらに気づいているらしく、戦士は不敵な()みを浮かべながら腕を組み、(かたわ)らには巨大な(おの)が地面に突き立てられていた。


「お前は何者(なにもの)だ。ここを通してもらおう」

ミセルが馬上から声を()る。


「俺はグレイム。闇の王グラトス様の幹部の一人だ。

 俺の任務は、ここを通るすべての者を――破壊すること。

 通すわけにはいかないな」


「私はミセル・ド・ラウドルップ。ラウドルップ家の姫だ。

 ……(とお)さぬというなら、力づくで通るまで」

その宣言と同時に、ミセルはすらりと長剣を()いた。


そしてその瞬間――ルドルフの背からリーナが飛び降り、(またた)()にグレイムの背後へと回り込んだ。


小癪(こしゃく)真似(まね)を……!」

グレイムが怒鳴(どな)るやいなや、地を()って一気(いっき)にミセルとの()()め、巨大な(おの)を振り下ろしてくる。

ガシーンッ!

打ち合う刃と刃。火花を散らしながら、一合(いちごう)二合(にごう)

その(わず)かな交錯(こうさく)だけで、(たが)いの力量(りきりょう)只者(ただもの)ではないと(さと)る。


リーナも後方から攻撃を仕掛(しか)けるが、グレイムは(おの)一振(ひとふ)りすらせず、軽く身をかわして攻撃をいなしていた。


技量ではミセルが(まさ)る――だが、(あき)らかに腕力(わんりょく)の差は歴然(れきぜん)だった。

やがて、ミセルは徐々(じょじょ)防戦一方(ぼうせんいっぽう)となっていく。


サトリは矢を(つが)え、何本も()かけるが、それすらも当たらない。


そしてついに、ミセルが(さけ)んだ。

「――退却(たいきゃく)だ!」

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