第54話 収穫祭
私の小説に目を留めていただきありがとうございます。この話から第75話までが”ノーマンズランド編”です。物語も佳境に入り、強敵が現れます。どうぞ楽しんでください!
・・・ノーマンズランド──その地は、大陸の西の果てに、ぽっかりと空いた“穴”のように存在する。どの地図にも明記されず、ただ闇の王の版図として、恐れられていた。
その地を目指すサトリ、リーナ、ローレン、ミセル、そしてアモンの五人は、いま、ちょっとした難儀にあっていた。
「だめだこりゃ。俺たちの力じゃ、どうにもならん」
荷馬車の後ろを押していたローレンが、ため息まじりに声を上げた。車輪は、見事にぬかるみにはまり込んでいた。
「よし、ならば私が助けを呼んでこよう」
ミセルは荷馬車につないでいたルドルフの手綱を解くと、ひらりと馬に飛び乗り、先へ駆けていった。
しばらくしてミセルは戻ってきた。
「よかったな。この先の村の人たちが、来てくれることになった」
やがて、数人の村人たちが道の向こうから姿を現した。大勢の手を借り、ようやく荷馬車はぬかるみから抜け出した。
「みなさん、本当にありがとう。おかげで助かりました!」
ローレンが荷馬車の上から頭を下げると、誰からともなく、
「礼はいいから、うちの村の収穫祭に来てくれ!」
という声が上がった。
話を聞くと、今年は例年よりも多くの働き手が労役に取られ、準備に時間がかかった上、出し物の競技にも参加者の欠員が出ているという。
子どもたちのワクワクした笑顔に、ローレンは断ることができなかった。
「じゃあ、収穫祭──行ってみるか!」
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村に着くと、至る所に花や草の装飾が施され、いくつもの屋台が立ち並び、賑わいを見せていた。香ばしい肉の匂いが漂い、旅の疲れを忘れさせた。
一行は宿所に案内されたあと、すぐに村の中心広場に集められた。
「では早速ですが、どの競技に参加されます?」
村長の娘を名乗る少女が競技一覧を手渡してくれる。皆でそれを覗き込みながら、楽しげな声が飛び交った。
やがて、出場する競技が決まった。
サトリは「弓術大会」にエントリー。五本の矢を射ち、命中精度を競う競技である。これまでの旅の中で培った技術を試したいという思いからだった。
リーナは「ガチョウ追い」に参加。制限時間内にどれだけガチョウを捕まえられるかを競う、子ども向けの競技だ。ふだんは女の子が出場することは稀だが、リーナは賞品の飾り革のベルトが欲しかった。──ローレンに、贈るためである。
ローレンは「丸太引き」に挑戦することに。丸太をノコギリで切る速度を競う荒業の競技だ。ミセルに「行商人の細腕では大した記録は残せまい」と挑発され、むきになって名乗りを上げた。
ミセルは「豊穣の女神大会」への出場が決まった。当初は頑なに拒んでいたが、村長の娘に泣きつかれて根負けした。ローレンに「なんだい?自信がないのか?」とからかわれると、「そうではない。私が出れば、他の娘さんたちに申し訳ないだろう」と、余裕たっぷりに返した。
──そして、競技が始まった。
サトリはやや緊張していたが、二十人中七位と健闘した。仲間たちは口々に褒めてくれたが、ミセルの小言に、しょんぼりしていた。
リーナは少年たちに混ざって果敢に挑み、次々とガチョウを捕らえていったが、惜しくも二位に終わる。賞品の革の手袋を「はい、あげる」とそっけなくサトリに投げて寄こした。
ローレンはというと──惨敗だった。ミセルの予想どおり、最下位に終わった。「俺は頭脳で勝負してるんだ」と、悔し紛れの言い訳を口にしていた。
そして、ミセルの出番が来た。
彼女は台上に現れると、白いブラウスに藍色の胴衣とスカート、そしてピンクのエプロンを身につけていた。いわゆる“ディアンドル”姿である。頭には可憐な花冠もつけられていた。
観衆から「おぉ……」という感嘆の息が漏れ、すぐに歓声が沸き起こる。
普段のミセルを知る仲間たちの目からみても、それはまさに、“豊穣の女神”が絵画から抜け出したかのような光景に映った。
もちろん──結果は断トツの優勝だった。
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翌朝、一行は村人たちに見送られ、再び旅路へと戻った。
それぞれの思いを胸に抱きながら──。
※ディアンドル:ブラウス・胴着・スカート・エプロンを組み合わせた女性用の衣装




