212 やっぱり君ってドMでしょう?w
っと、目を離した隙にエリスが鼻をひくひくさせてクレープ屋さんの方に歩いて行っているし……
待って待ってエリス。映画が始まっちゃうよ。
「あ・た・し・は・お・な・か・が・す・い・た・の・だ」
それは分かったから。昨日、下総屋のバイトで一万円もらったよね。それでチョコがけポップコーン食べながら、映画見よう。
「って旨いのか?」
おお、旨いともさー。行こう行こう。さあ、行こう。
なんか自然な形でエリスが僕の手を取り、シネマコンプレックスに誘導する形になった。
デートになっているのかなとふと思うと、思わず赤面。
「オキムネ」
な、何かな?
「ぼさっとしていないで、とっとと『ちょこがけぽっぷこーん』を食わせるのだ。あたしは、皇帝はお腹が空いておるぞ」
いつものエリスだなあ。何とか緊張が解けたよ。
◇◇◇
目的の映画の発券をするぞ。実写の恋愛映画なんか劇場で見たことなんかないけど、アニメ映画はサダヨシと一緒に山ほど見ているから慣れているのだ。
「オキムネ」
ああ、エリス。お待たせ。ほらこれが入場券だよ。
「そんなことより『ちょこがけぽっぷこーん』はどうした? あ・た・し・は・お・な・か・が・す・い・た・の・だ」
へいへーい。相手がエリスじゃあ、デートと言ってもラブラブにはならんよなあ。でも相手が通常運転だと何だか安心するのも事実。「金塊」「金塊」言われるより、はるかにマシだしね。
◇◇◇
ポップコーン二人分でお願いします。チョコがけのやつで。
「はーい」
明るく笑顔で応対の売店のお姉さん。うーん。バイトはこうあるべきですね。一バイト生として勉強になります。
「可愛い。ねえ、JK? JC? デートかあ。いいなあ。ポップコーン取る時に手と手がぶつかって、思わずドキドキとか。うん。可愛い」
売店のお姉さん。親しみをこめてだろうけど、エリスは完全にスルー。ふたを開けて、中身のチョコがけポップコーンの香りをひとしきり嗅いでいる。
「うーん。まあまあだな。オキムネのチョイスとしてはまあ合格点だ。許してつかわす。だけど『ちょこくれーぷ』二枚も忘れるなよ」
売店のお姉さん。呆然。すみませんね。こういう奴なんですよ。これでも悪気は一切ないんで。
「ねえねえ。君」
急に声を潜めるお姉さん。どうしました?
「あの娘。君の彼女なの? 君って、もしかしてドM?」
わくわくわくわく。興味津々といった顔のお姉さん。うーむ。お姉さんもまたこの町の住人ですね。この町は変人がデフォルトのところがあるからなあ。はああ。
◇◇◇
かくて売店のお姉さんのチョコがけポップコーンを二人で食べて、手と手がぶつかってドキドキという妄想をよそに、エリスは一人でポップコーンの入ったケースを抱えて、ぼりぼり食べまくり。うーん。これもまた通常運転だなあ。字体で言うと「ラブコメ」の「ラブ」が2ポイントで、「コメ」が24ポイントくらいの表示か。
それでも見に行くのは一応は実写版恋愛映画である。周りを見回せばこれぞリア充というカップルか仲良さそうなキャッキャ言っている女の子の二人組ばかり。
そこを堂々と二人分入ったポップコーンの入ったケースをぼりぼり食べながら闊歩するエリス。そりゃあ周囲も道を開けます。
やっぱデートじゃないよなあ。どう見ても女王様にお付きの小姓。あ、エリスは皇帝だってからこれでいいのか。いやいや。二人分のポップコーンを抱え込んでぼりぼり食べて歩く皇帝もいないよね。
「オキムネ」
どうしたの? エリス。
「もう『ちょこがけぽっぷこーん』を食べ終わってしまったぞ。皇帝命令だ。おかわりを買ってこい」
ええ? 二人分買えば普通は映画が終わるまで食べ終わらないで、見た後にも食べるよ。なんつー食欲。
かくてポップコーンのおかわりを買いに行った僕に売店のお姉さんが一言。
「ねえ。やっぱり君ってドMでしょう?」




